第28話「待ってよダーケさん!」

「あのー、ダーケさんっている?」


ベーアとの手合わせの後、まだダーケさんがいるというクラスを訪れた。要件はもちろん、剣の教えを請うためだ。

ベーアとの手合わせを経て分かったが、俺の剣は実践不足がすぎる。おじいちゃんとの剣の稽古は、型の練習ばかりだったし。


それに加えて元々、授業にかこつけてダーケさんに剣を教えてもらう中で仲良くなって仲間にする。

という方向性で動いていたが、あんな感じになってしまったので、やむなく作戦を変更し、『冒険者育成学校戦闘大会』という目標へ向かい共に競い友情を芽生えさせる。

そういう方向性でのアプローチをしていこうと言うことに、先生との話し合いの結果なった。


「ダーケさん? それならあそこに……あっ」


クラスの生徒がダーケさんを見つけて指をさす。その瞬間ダーケさんはそれを察知したのかこちらを向いて、俺と目があったかと思うとすぐに立ち上がって教室を出て行ってしまう。


「……なんかしたの?」

「いや、あはは」


訝しむ目線を向けてくる生徒に対して苦笑いを返しながら、俺も教室を後にする。ダーケさんはまだ見失ってない。これなら追いつくことができる。


「待ってよダーケさん!」


俺が声をかけたのに反応してか、早足だったダーケさんがダッと走り出す。

『冒険者育成学校』の校舎は、ギルドが大金を叩いているだけあってそれなりに大きい。

そんな校舎で追いかけっこをしたらどうなるか。


「見失ったー……」


階段を登ったり降りたり、廊下を曲がることで完全に撒かれてしまった。


「ダーケさーん、どこー?」


仕方なく、俺は声を出しながら歩くことにした。俺が強くなるためには彼女の協力が必須だ。


「頼むよ、ダーケさんの力を貸してよ」

「別に、私以外にも頼りになる人なんていくらでもいるじゃないですか」


不意にダーケさんが目の前に現れ、そう言った。

確かにそうだ。ここは冒険者を育成する学校。剣技に自信のある者はいるし、先生の大半はBランク以上の冒険者。一般ランクであるCランクよりも上。

正直に言ってしまえば、別にダーケさんに頼らずとも剣は教えてもらえる。


「そうだね」

「っ、それなら」

「けど、俺の剣の“型”…流派と言った方がいいか。それと同じものを習得している人はいない」


俺がダーケさんに固執する理由はそこにあった。

ダーケさんに関する資料を見せてもらった時、失礼ながら彼女の出自についても調べさせてもらった。


「俺の剣は“太刀流”。大半の冒険者が持っている、なんなら俺も使っているような直剣を使う剣技じゃない」


“太刀流”は一撃必殺を重んじる、別名『二の太刀要らず』とも呼ばれる流派。

そしてこの流派は……もはや廃れた流派だ。

モンスターに対して型がどうだ、なんて言っている場合じゃなくなったからだとか、継承者が独自に変化させていった結果源流が途絶えたからだとか、色々理由は考察されているが、ともかく今は廃れた流派であり、つまり俺に剣を教えることができるのはおじいちゃんか、目の前いる彼女。


太刀流宗家の一人娘である、ダーケ・ナヌークだった。

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