第25話 疑念

「今日の授業は剣技! さあ、みんな着替えて装備持って準備してグラウンドへゴウ!」


ダーケさんといろいろあった日から一日。

先生と『ダーケちゃんを仲間にしよう大作戦』が決行された(作戦名は先生が考えた)。

というか学校の授業まで使うとか職権乱用にも程があると思うのだが、ツッコんだら負けか。


「先生、剣以外を使う人はなにをするんですか?」


一部の生徒が手を上げて質問を飛ばす。言われてみればたしかに。特にヒガさんみたいな魔法を使う戦い方をする人は剣なんて使わないだろう。


「え? あ、あー……よし、じゃあこうしよう。武器を使う人は武器を使う人同士、魔法を使う人は魔法を使う人同士で試合をしよう!」


明らかに回答に困ったあと、明らかに今思いついたような提案をした。これは生徒たちも不満があるはず――


「よっしゃ!」

「ぼこぼこにしてやる!」

「先生他のクラスとはしないんですか!?」

「……え?」


やばいなんかみんなおもったよりやる気だ!? しかもなんか他のクラスも巻き込もうとしてるし。

いやまあダーケさんは他のクラスだから別にいいことにはいいんだけど……。


「ふむ……面白そうだね、じゃあしようか。第一回、『冒険者育成学校戦闘大会』!」

『うおおおおお!』


先生が声高らかに宣言し、それに教室獣から雄叫びが上がる。

こうして、後に他の街の学校にも広まり一大イベントとして街を上げて行われるようになるイベントが生まれたのだった。


「すごいことになったわね……」


盛り上がり、それぞれが席を立ちもはや収集のつかなくなった教室で、ヒガさんが声をかけてきてくれた。


「だなぁ……というか先生にそこまでの権限があるのか」


それが一番の疑問だ。いくらSランク冒険者だからといって、そこまでの権限が与えられるものなのだろうか。


「あるんじゃない? ここじゃあ一番ランクが高いし。理事長も校長も役職的に存在しないここじゃ、あの人が一番の権力者じゃないかしら」

「マジか……」


ヒガさんの考察に、それ以外の言葉が浮かばなかった。

たしかに、冒険者としてランクを高めることでギルド内でそれなりの権力を得ることはできるが、学校で他のクラスを巻き込んだ催事ができるほどとは。


「それじゃあ、とりあえず今日の授業は戦闘訓練ということで、好きにメンバーを組んで練習して。私がそれを見ながらアドバイスをしてあげるから」


先生がぱちん、と手を叩いてよく通る声で言うとみんな喜んでグラウンドへ出ていってしまった。

残されたのは俺とヒガさん、そしてユレイン先生だけだ。


「ほら、君たちも行ったら?」

「は、はい!」


先生に促されるがまま、俺たちもグラウンドへと向かう。

向かいながら、ふと気になったことを聞くことにする。

ちょうどヒガさんもいて都合がいい。


「先生。その、『大森林』にいるエイプについてなんですが、奴らは木の上から石を投げて攻撃するんですか?」


色々あって完全に忘れてしまっていたが、思い返せばあのエイプの行動は授業じゃ習わなかった。

下手をすれば死んでしまっていたかもしれないような攻撃方法、この先生が教えないわけがない。

ヒガさんも知らないと言っていたし。


「木の上から石? まあ、すこし賢い個体ならしてきてもおかしくはないかもしれないね」


どうしてそんなことを、という感じで先生が答える。

この様子からして、詳しくは知らないみたいだ。

まあ先生の言うように賢い個体ならそういう攻撃方法を仕掛けてきてもおかしくはない……か。


「はぁ、メズくん。それ以上に聞かなきゃいけないことがあるでしょ?」


ヒガさんがため息交じりに俺に指摘をする。なにか聞かなくちゃいけないことがあっただろうか。


「いやいやいや……どうしてあんなところにキングエイプがいたのかっていうのが一番の疑問でしょう?」


俺が首を傾げると、これだから、と少々呆れ気味でヒガさんが首を横にふる。

たしかにそうだ、普通はあのレベルのモンスターはもっと奥の領域を支配している、そう授業で教わっている。


「それが私にもわからなくてね……一応ギルドに報告して、その調査を今してもらっているけど……たぶん、徒労に終わるだろうね」


先生の瞳に暗いものが宿る。こんな表情をする先生は見たことがない。


「どうしてそう思うんですか?」

「え? ああいや、ただの勘だよ、勘」


そうして先生の瞳はいつもどおり明るいものになる。首をブンブンと振ってごまかすように割った。


「そうですか……」


ヒガさんが沈んだ声で言う。

実際に接敵したわけでもないのに、俺以上に真剣に理由を考えているようにみえる。


「ま、冒険者見習いの君らはそんなコト気にせず、今は強くなることだけ考えな!」

「いたいっ!?」「いったぁ!?」


バンッ、と俺とヒガさんの背中を思い切り強く叩く。この人の力は尋常じゃなくて、あとで背中を見たら跡がついているんじゃないかってくらい痛い。


「ごめんごめん、ははは!」


俺とヒガさんは背中を擦りながらグラウンドへ出た。

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