第24話 「わたし、ちょろすぎない?」
「ふっ……ふっ……ふっ……!」
朝。まだ陽も顔を出さないうちから、わたしは素振りをしている。
木剣をまっすぐ構えて。大きく振りかぶる。形は美しく。
振りかぶった剣は傾きすぎても、垂直すぎてもいけない。
振るう力は両腕ではなく左腕。右腕の力は使わない、支えるだけ。
いつも通りの、普段どおりの素振りだ。
幼少期からの日課で、わたしにとって当たり前のことで、これをしないと一日が始まった感じがしない。
けれど今日は――邪念がチラつく。
原因はわかっている。彼のせいだ。
昨日初めて出会ったくせに、わたしは彼に惚れてしまった。
「ふぅ……」
わたしは素振りをやめて額から流れた汗を拭う。
一日経って冷静になると思う。
「わたし、ちょろすぎない?」
はぁー、と思わず溜息がこぼれる。いや本当に、わたしちょろすぎる。
それに、今考えてみると惚れる要素がどこにあったのか本当に謎だ。
初対面なのにわたしのことを明らかに舐め腐っていたし。胸ばかり見ているし。
今考えてみると、あのときのわたしはどうかしていたとしか言いようがないように思える。
けれど、一つだけ。
たったひとつだけ、彼に魅力を感じた部分があったのだとしたら。
「わたしの手を握ったとき、嫌な顔とかしてなかったな……意外そうな顔はしてたけど」
わたしは自分の手のひらを見つめて何度か握る。
年頃の女の子らしくない、いくつも豆が潰れてゴツゴツとした、女の子というより男の子を彷彿とさせる手だ。
わたしはこの手があんまり……いや、かなり嫌いだ。加えて、手とは相反するように女性的な、この無駄に大きな胸も。
この手のせいで――手だけじゃない、鍛え上げられた女の子らくないこの筋肉もだ――女の子らしい格好をしても似合わない。
わたしはもっと、かわいくなりたい。
この胸のせいで男の人が怖い――わたしに優しく接してくれる男の人はみんなこの胸が目当てだった――だから、男の人に惚れるなんてありえないと思ってた。
もし、手を握ったときの反応以外に理由があるんだとしたら、それはきっと『本能』かもしれない。
お母さんが昔言っていた。
「人を好きになるのって、案外理屈じゃないわ。本能よ、本能。『あ、この人がいい。この人じゃなきゃ嫌だ』ってなるの。運命とはちょっと違うわ。ビビって来るの」
ビビって感覚も、この人じゃなきゃ嫌だ、なんて感覚もなかったけれど確かに「この人だ」と、体が感じ取っていた。
冷静になって自分のちょろさを自覚した今だって、わたしは彼のことが好きだ。今すぐ彼に開いたくなっている。
「けど、こんな女の子はいやだよね」
はは、と今度は自虐的な笑い声が溢れた。
本当に嫌だ。あんな迫り方をして、好きになってくれるわけがない。
それに、わたしは【
わたしは自分の力の使い方も、発動条件もわかっていない。【
『感情の昂ぶり』ってなんだ、喜びだろうと怒りだろうと哀しみだろうと楽しみだろうと、発動してしまうのか?
わたしは、感情を殺して人と接しないと誰かを傷つけてしまうのか。
それがわからない。わからないことが、とてつもなく恐ろしい。
助けてほしい。こんな【
わたしはわたしが、だいっきらいだ。
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