第23話 アドバイス

「うーん」


放課後。ヒガさんは話しかける前に帰ってしまうし、ダーケさんはどこのクラスに居るのかわからず、どうにもできずにグラウンドに腰掛けていた。

少し考えてみたけれど、ヒガさんが怒っていることに何一つ心当たりなんてないし、ダーケさんへの返事だっていまいち思いつかない。


どうしたものかと困り果てた俺に、急に影が落ちる。


「お困りのようだね、少年」


話しかけてきたのはユレイン先生だった。


「はい、めちゃくちゃ困ってます」


先生を見上げて俺は答える。ヒガさんを頼れない今、一番頼りになる人はこの人かもしれない。家族に一部始終話すのは気が引けてしまうし、何より恥ずかしいが勝る。


「うんうん、じゃ、助けてあげよう。とりあえずおいで」


先生は俺に手を差し伸べて、俺はその手を握って立ち上がった。


「指導室へ行こうか。あそこなら二人きりになれるし」

「はい」


先生は悠然と前を歩く。いつだってこの人は堂々としていて、かっこいい。


「私はね、メズくん」


歩きながら先生は話し始める。


「正直なところ、ダーケちゃんを君のパーティーに入れてほしいと思ってるんだ」

「はい……はい?」


今朝、俺とダーケさんを引き合わせたのは剣を教えるためだと言っていたのに、どういう風の吹き回しだろうか。


「あの子もね、まともにパーティーを組んでくれる子がいなかったんだ」


先生が言う。それの話は今朝、ダーケさんからも直接聞いた。ダーケさんは才能のせいで仲間を組んでも迷惑をかけてしまうし、組んでくれても体狙いだと。


「その様子だと、もう知ってたみたいだね。やるじゃないか」


先生は振り返ってニヤリと笑う。


「いや、なんか成り行きで」

「成り行きで告白されることがあるかい?」

「あー、いや、その……なんかごめんなさい」


俺はどうしようも無くなって、ひとまず頭を下げる。


「あっはっはっは! 謝る相手が違うだろう!」


先生は俺の謝罪を笑って吹き飛ばしてしまう。強い。


「それにね、私は君の才能はダーケちゃんの才能を、うまく活かすことができ得ると思ってる」

「はい?」


先生の発言に俺は首かしげる。才能で才能を活かす、と言うのはどういうことだろうか。


「まあまあ、とりあえず話は指導室についてからだよ」


先生は俺を伴ってどんどん廊下を進んでいく。

授業を受けている教室からは少し離れた場所にある、「指導室」と書かれた部屋にたどり着いた。


「さあ、入って」

「失礼します……」


指導室には、たくさんの書類の山があった。

これでは指導室というより、資料室という言葉が似合いそうだ。


「ごめんねー、片付けする人がいなくて。とりあえず座りなよ」


先生に促されて、部屋の真ん中にあるソファに座り込む。

フカフカで座り心地がいい。


「それでね、メズくん。ダーケちゃんのことなんだけど」


先生は俺の向かいに座ると、紙を取り出して俺に見せる。そこには、ダーケさんのプロフィールが書いてあった。


「ダーケちゃんの才能。【狂戦士】。これが、彼女自身も手を焼いている力の正体だよ」


先生から紙を受け取り、才能の欄を見てみる。


-----------------


才能【狂戦士】


発動条件・感情の昂ぶり。能動的発動可能。


効果・感情の昂ぶりの度合いに応じて身体能力の超向上。


制約・発動時理性を失う。


-----------------


「なるほど……」


さっき戦ったときに異様に力が強くて剣が早く感じたのはこれが原因なのか。

というか、超向上と書いてあるが、身体能力未強化のはずの僕がついていけたのはなんでだ?まあいいか。

「身体能力の超向上」とあるが、理性を失ってしまうのはたしかにパーティーを組んでくれる人は少ないだろう。

理性を失った結果仲間を攻撃、あるいはパーティーのリズムが崩れる、なんてこともあるかもしれない。


今朝のダーケさんの様子からするに、彼女自身も扱いきれていないように思える。

ダーケさんの才能はわかった。

だがこれがわかったところで俺の才能でどのようにして活かすことができるのかいまいちビジョンが見えない。


「君の才能【リーダーシップ】は『指揮能力の向上』だろう?」


先生がにやりと笑って言う。


「あー……?」


俺はぽりぽりと軽く頭の後ろをかく。

先生は「決まった……」といった感じで悦に浸っているが、正直これと言ってピンとこない。


「え、もしかしてわかってない?」

「はい。全然」

「鈍いなぁにぶすぎるよ。このニブちんめ!」


先生は顔をぐいっと近づけて人差し指を立てる。ボタンの緩められたシャツから胸元がちらりと見えた。いい景色だ……じゃなくて。


「『指揮能力の向上』ならさ、『【狂化バーサーク】したダーケちゃんに言うことを聞かせる』こともできるんじゃない?」


先生がどう?とキメ顔をする。今度はしっかり決まっていた。


「それに、目には目、歯には歯を。【才能センス】には【才能センス】を、だよ。それに、これに挑戦すること自体、君の【才能センス】の本質を理解することへの足がかりになるはずさ」


すると先生は資料の山から何枚もの紙を取り出して机の上に叩きつける。


「さぁ、授業を始めましょうか!」


先生が声高らかに宣言した。

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