第22話 恋愛相談
応接間。学校にいくつかあるうちの一つで、俺は先生と机を挟んで向かい合う。
「あっはっは!」
ダーケさんが走り去った後、授業までまだ少し時間があった俺はユレイン先生に一連の出来事を話すと、大爆笑が帰ってきた。
「いや、俺は真剣に悩んでるんですよ……」
はぁ、と俺は頭を抱えてため息をつく。とんでもない速さで逃げられてしまったため、追いかけることもできず、謝ろうにもどのクラスなのか、そしてなんと言えばいいのか。
「ま、ダーケちゃんのクラスなら教えてあげられるけど……どうする?」
体を前に倒して、ニヤリと笑い先生は俺に聞いてくる。どうしてそこまで余裕なのか。
「どうするって言われても……正直、なんて言えばいいのかわからないです」
女の子に告白されたのなんて初めてだし、嬉しいか嬉しくないかと聞かれたら正直嬉しいと答える。だってダーケさんかわいいし。胸も大きい。でも、あの子少し男性にトラウマっぽいのがありそうなんだよな。そうして考えると、なぜ俺に告白してくれたのか、分からない。
「君の一番頼れる友人、ヒガちゃんに聞いてみたら?」
先生は相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべて聞いてくる。最近思うようになったが、なんとなく先生には俺のこれからの行動も発言も全てわかられている感じがする。気のせいかもしれないが。
とにかく、先生がまともに取り合ってくれる気がしていないし、確かにこれはヒガさんに相談したほうがいいかもしれない。
「じゃあ、そうします。ヒガさんに相談します」
「あははっ、生きて帰ってきてね」
先生は、意味ありげに笑って俺の肩に手をおいた。生きて帰ってこい、ってどういうことだ。まあ、考えたところでわからないと考えて、俺は応接間を後にする。授業までまだ少し余裕があるが、ヒガさんはいつも早く来ているのでもしかしたらもう教室にいるかもしれない。
俺はなんとなく早足になって教室へ向かう。
ガラガラ、と教室の扉を開けると、そこにはヒガさんがいた。
「あら、今日は早いのね。怪我は大丈夫……って、なにその傷!?」
「あぁ、朝ぼこぼこにされてさ……」
はは、と俺は頭をかいて笑いながら教室に入る。まだ教室には俺とヒガさんしかいない。ちょうどいいかもしれない。俺はヒガさんの目の前に立つ。
「ちょっと、聞いて欲しい話があるんだけど」
俺は真剣な面持ちで言う。こうして人間関係の相談をするのって、もしかしたら初めてかもしれない。俺はぐっと握りこぶしを作る。
「な、なに……?」
俺が真剣に話をしようという気持ちを察してくれたのか、ヒガさんは椅子に座りながら姿勢を正す。ヒガさんのこういうところはありがたい。
「告白、されたんだよね……」
「はぁっ!?」
まだ静かな教室にヒガさんの悲鳴じみた叫び声が響いた。
「ちょ、ちょっと待って、あなたの怪我といい、告白といい、色々と聞きたいことがあるのだけれど……!?」
頭を抱えて「えぇぇ……?」とため息に似たつぶやきをこぼす。
「私って自分ではクールだと思っていたのだけれど……あなたに出会ったからは、全然そんな事ないんだと思い知らされたわ……」
相変わらず自己評価が高い、と思ったけど……ちょっと自信喪失気味か? ヒガさんは「うーん……」と息を吐く。
「まあとりあえず、その怪我を直しましょう? ――【ヒール】」
ヒガさんが呪文を唱えると、俺の体が温かい光が包み、打撲傷を瞬く間に消し去る。痛みすら消えた。やはりヒガさんはすごい。
「それで?」
ひじを机において、頬杖を付きながらヒガさんは俺に椅子に座るように促すジェスチャーをして聞いてくる。
「えぇと、朝の話なんだけど――」
俺は椅子に座って、ユレイン先生に説明したように、朝から起きたことを洗いざらい話す。
「なるほどね……付き合えば?」
「はっ?」
ヒガさんは俺の話を一通り聞いた後、そっぽを向いて興味なさそうにその長い青髪の先をくるくると回しながらそう答えを出した。
「はっ?って。別にいいんじゃないかしら、恋人がいておかしい年齢でもないし……」
ヒガさんは相変わらず髪先をいじりながら続ける。
「私は応援するわよ?」
ようやくヒガさんは顔をこちらへ向けてくれる。けれどその顔は言葉とは裏腹に、むくれ顔をしていた。「むー」と言う擬音が似合いそうだ。
「いや、応援するって……どう見ても不満がありそうなんだけど」
よくよく見てみると、ヒガさんはふくれっ面に加えてジト目で俺を見ていた。誰がどう見ても不満があると感じるだろう。
まあ確かに、俺とダーケさんが付き合ったりしたらパーティーはどうなるんだって話になるかもしれないし、そんな表所になるのも頷けなくはないが。
「不満なんてないわよ。ただなんかちょっと……もやもやするだけ」
ヒガさんはまたそっぽを向いて顔が見えなくなってしまう。というか、もやもやするって何だ、よくわからない。
「そんな事言われても」
「うるさい、女の子は難しい生き物なの」
顔の向きはそのまま、そう返されてしまった。そうか、難しいのか。納得できるかよ……。
俺はヒガさんの対応に何とも言えない憤りとも言えない何かを感じた俺は、席を立ち上がる。
「もう少ししたらみんなが登校してくる時間だな。回復魔法ありがとう」
「ん」
そう言って俺は教室を後にする。少し時間を潰して、みんなが登校してから戻ろう。なんとなく一緒の空間に居づらかったから。
俺はどうやって時間をつぶすか悩みながら廊下を歩いた。
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