第21話 剣を教えて3
「あーその……どうして?」
俺はきれいな土下座を保ち続けているダーケさんに、顔を上げて、と顔を覗き込むようにして言う。
「はい……その、わたし、こんな感じで、才能もみんなに迷惑をかけちゃうから、誰もパーティーを組んでくれなくて……」
ダーケさんは自分を責めるように、反省するように、自分に非があるかのように語る。せっかく上げてくれた顔も、どんどんうつむきがちになっていく。
「やっとパーティーを組んでくれた人もみんな、わたしの、かっ、体で狙いで……」
ダーケさんは自分のみを抱いて涙を浮かべる。そんな思いがあったなんて、俺はかなり失礼な態度で彼女に接してしまったな……。反省。
「それに、そのっ、かわいい、なんてちゃんと言ってくれた人、今までいなくって……!」
ダーケさんは涙声になって、必死に伝えようとしてくれる。
「だから、スキって、なってぇ……!」
抑えきれなくなったのか、ダーケさんは涙を拭うような仕草をする。
「そっか……」
涙を拭うダーケさんを見ながら、何故か冷静になってしまっている自分がいることに気がつく。
彼女が何を求めているのか、彼女は俺にどうしてほしいのか、俺はどうするべきなのか、冷静に考えられる。
俺の答えは――言うまでもなく、彼女の告白を受け入れられない。
「……その、ごめん。気持ちは嬉しんだけど――」
俺がそこまで言うと、ダーケさんもわかったらしくうつむいたまま、
「っ、そう、ですか……そっか、そうですよね、気持ち悪い、ですよね……」
と、うつむいて言った。そうすると、急にまた先程見えた黒いモヤのようなものが彼女の周りに現れる。
「そうですよね、ごめんなさい、練習、しましょうか」
ダーケさんは立ち上がって剣を拾い上げ、俺に向かって構える。うつむいたままで、彼女の表情は読み取れない。
「反省点、活かしてくださいね。わたし、今度は殺す気で行きますから」
黒い前髪がかかってよく見えない表情からは、でも確かに瞳は赤くなり、明確な殺意を折れに伝えていた。黒いモヤも、より濃くなる。
「――っ!」
俺もすぐさま剣を拾い上げ、上段に構える。左足は前に。右足は後ろに。右足のかかとは上げる。俺が知る構えの中で、一番攻撃的な構え。
「いきますっ!」
左の剣を上に、右の剣を下に構えた彼女は、強く踏み込んだ。グン、と彼女は俺に急接近する。
最初にしたときとは比にならないほどの速さ。目で追えたのが奇跡とも言えるかもしれない。
「はァッ!」
ダーケさんは最初と同じく、左の健を振り下ろす。今度は下がらない!
俺はギリギリのところで右の剣を躱して、構えていた剣を振り下ろす。が、俺の剣が振り下ろされるよりも先に、彼女の右の剣が俺の剣を捉える。
そのまま俺の剣は弾きあげられ、体が隙だらけに。その隙だらけになった俺の体に攻撃が殺到した。
「ガァァァアアッ!」
ダーケさんは今までの様子からは考えられないような雄叫びを上げる。
「ぐぅうぅううう!?」
俺はたまらず下がろうとするが、彼女の追撃は止まない。
どうにか俺は剣を弾こうとするが、それもうまくいかない。
時折弾けたとしても、弾かれなかった方の剣が俺を殴る。模擬刀だから、基本的に痛みは打撃のそれ。
「アァアァァアァァァァッ!」
いくらたとうと、攻撃は止まない。彼女は雄叫びを上げ続ける。
「まっ、まって、くれ、とま、ってくれ」
俺はもう弾くことを諦めて、躱すことに徹底して呼びかけるが、彼女の攻撃は止まらない。
(多分、これがダーケさんの
ダーケさんの
そして制約は――感情に左右される、あるいは発動中は理性が効かなくなる、と言ったところか。
「頼む、やめてくれっ!?」
こんな状況でも冷静に躱しながら考えを巡らせることができるのは、
「たのむぅっ!?」
「ガァッッァァァァアアッ――っ!?」
俺の必死の呼びかけが通じたのか、ダーケさんの攻撃がピタリと止んだ。
そして、
「ごっ、ごめんなさいぃぃぃいいいいっ!」
ハッとしたダーケさんは剣を落として何処かへ走り去ってしまった。恐ろしく早かった。見逃してしまうほどに。
そうしてグラウンドに残ったのは、打撲傷だらけになった俺と、彼女が落としていった模擬刀二本だけ。
ユレイン先生、助けてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます