第19話 剣を教えて1
「そ、それじゃあ、早速、始めましょうか……メズくんの武器、は、両手剣……で合ってる?」
ダーケさんは恐る恐る俺が背負っている両手剣に指をさす。
「うん、そうだよ。俺に剣を教えてくれた人が両手剣を使ってたから、その流れで」
俺に剣を教えてくれたのはおじいちゃんだ。懐かしいな、最初は持つことすらできなかった。
「そうなんですね……うーん……」
ダーケさんは唸って少し考えるような素振りを見せる。胸の上に手をおいているのは狙っているのか、いや多分狙ってない。あれは自然と癖になってる。
「そっ、それなら、まずは、技量を見せてくださ、みせて」
ダーケさんはそう言うと、肩と腰に一本ずつ装備していた剣を置いて、代わりに長さ形がそう変わらない模擬刀を二本取ってくる。俺も両手剣を模擬刀と交換しようとすると、
「あっ、わたしは模擬刀を使うけど、メズくんはその剣で大丈夫だよ。……わ、わたし、硬いしっ!」
ダーケさんは「ふ、ふんっ!」と恥ずかしそうに両手で力こぶを見せるポーズをとる。力こぶは見えない。別のものがたゆんたゆんと揺れるばかりである。
「……!」
俺はその動きに釘付けになる。たゆんたゆん、たゆんたゆ……はっ!
「その、メズ、くん……お、女の子は、そういうの、き、気づくんだから、ね」
ダーケさんは恥ずかしそうに両腕で自分の胸を隠す。はみ出してるけど。
「ご、ごめんっ! その、見る気とかはなくてというか、その……!」
俺は慌てて弁明しようとするが、どう言葉を取り繕っても弁明できる気がしない。まずい、せっかく剣を教えてくれようとしているのに、なんてことを!
「も、もう……めっ、だよ」
嫌われる、剣を教えるのをやめられる、と恐れたがそんなことはまったくなく、ダーケさんは恥ずかしそうにそう注意しただけだった。お、おぉ……優しい。
「は、始めるからね、いくよ……」
ダーケさんは左手の模擬刀を上に、右手の模擬刀を前の方に構える。そして、俺との距離を一気に詰めた。
「うおっ……!」
俺はすぐに反応して後ろに下がる。が、その俺を狙って左の剣が振り下ろされる。
躱しきれないと判断した俺は、両手剣を抜き放ち模擬刀を迎撃する。
迫っていた剣を撃ち落とされるが、ダーケさんは剣を落とさない。
「はァッ……!」
ダーケさんは一回転して今度は右の剣を横薙ぎに払う。
「がぁっ!?」
反応しきれなかった俺は吹き飛ばされる。
あの気弱そうな雰囲気からは計りきれない力。
「ご、ごめんなさい、ちょっとやりすぎました!」
吹き飛ばされてお腹を抑えている俺に、ダーケさんは剣を置いて慌てて駆け寄ってくる。
走ってくるときもたゆんたゆんと……じゃない……。
ダーケさんと出会って一時間もしていないが、俺はほとんど彼女の胸しか見ていない気がする。良くない。
「大丈夫……!?」
ダーケさんは倒れて俺が抑えている手をどかして優しくさすってくれる。
「だい、じょうぶ……」
ユレイン先生の一撃やエイプキングの一撃なんかと比べたら、可愛い方だ。こうして胸を揺らして優しくしてくれるし。
前者二人には絶対できない。いや、ユレイン先生はある方か……。
「ど、どうしたら……ひ、ひざまくら、とか!?」
慌てているダーケさんは言うと、俺の頭を持ち上げて、その柔らかい膝へ俺をいざなった。
「その、本当に大丈夫……?」
「う、うん。というか、膝枕までしなくても……」
言いながら、俺は圧倒される。俺は上を見上げているわけだが、ダーケさんとギリギリ目が合うか合わないくらいしか顔が見えない。ほとんどがおっぱいだ。すごい。ヒガさんとは比にならな、やめておこう燃やされる。
「あっ、ご、ごめんなさい、いやだったよね……」
ダーケさんは少し落ち込んだ声音でそっと俺を膝からおろして、ゆっくりと地面に置いた。硬い。
というかいつの間にか痛みが引いている。
これがおっぱいの力か。いや違うか。
「嫌とかではないけど……」
俺は起き上がって、しょぼーん、とうつむいているダーケさんを見る。どうしたものか。師匠を傷つけてしまった。
「あー……その、かわいい、し、そんなに嫌ではなかった、です」
俺は恥ずかしくなって明後日の方を見ながら言う。
こんな言葉を言うことになるとは思わなかった。恥ずかしすぎて変な敬語を使ってしまった。
まあ実際、ダーケさんは可愛い部類に入ると思う。まじまじとは見てないけど、目鼻立ちは整っている。
胸も大きいし。
「え、いま、かわいい、って……?」
ダーケさんは震える声で恐る恐る聞いてくる。
「う、うん。だからその、嫌じゃなかったから、元気になってください」
「そ、そっかぁ……かわいい、か……えへ」
ダーケさんは小さくつぶやく。
最初は頼りないなんて思っていたが、全くそんなことはなく力は強かったし、普通に一本取られてしまったし、師匠として剣を教えて欲しいと今は思っている。
「じゃあ、その、こっち向いて?」
「う、うん――むぐっ!?」
俺がダーケさんの方を向き直ると、急に柔らかい感触が顔を包み込んだ。
これは……おっぱいだ!
俺は今、ダーケさんに抱きしめられ、頭を撫でられている。急展開すぎて正直自分でも意味がわからない。どうしちゃったんだ、ダーケさん。
「ご、ごめんなさい、苦しいよね、けどこうてあげたいから……」
「……」
よしよし、とダーケさんは俺の頭を撫でる。やっぱりヒガさんの柔らかい手とは違う、硬い剣士の手だ。
「あっ、ごめんなさい、手、嫌だったよね、わたしの手硬いし、みんなみたいにキレイじゃないし……」
「……」
ダーケさんはしゅん、とまた落ち込んでしまう。よく落ち込む子だな。
ヒガさんとは正反対かもしれない。というか……流石に苦しい。
俺は死ぬのか、おっぱいに埋もれて死ぬのか。幸せか。
「あわわっ!? ごめんなさい! 苦しかったよね!」
「う、うん……」
ダーケさんは慌てて俺の顔を上に向けてくれて、ようやく呼吸ができた。それでも離しはしないんですね。
「その、お母さんが、前、『胸の奥がキューンってくる男の子がいたら、すぐに顔を胸に埋めてやりなさい。アタシはそれでお父さんを落としたわ』って言ってて……」
ダーケさんは恥ずかしそうに俺を抱きしめてくれた理由を教えてくれる。なんてことを吹き込むんだ、ダーケさんのお母さん……ありがとうございます。
「だからその、なんていうか……」
「大丈夫だよ、全然大丈夫」
ダーケさんがいつまでも申し訳無さそうにしているので、俺はとりあえず謝らせないことにした。
「そ、そっか。よかった……じゃあその、もう一回、かわいいって、言ってもらってもいい……?」
ダーケさんは恐る恐る聞いてくる。
恥ずかしいけれど、もう速く開放してもらわないと流石に気づかれてしまう。というかまだ気づいていないのが奇跡だ。
「かわいいよ」
「~~~~~っ! すき……」
「へっ?」
ダーケさんはつぶやいてから俺を抱きしめる腕に力を入れた。その細腕のどこにそんな力があるのかわからないが、抜け出せる気がしない。
かろうじて息はできるものの、圧迫死してしまいそうだ。
「ちょ、ダーケさ、はなしっ……!?」
「すき……すきすき……すき……えへへ……」
俺が言おうとしても、ダーケさんはより力を入れる。まだ力を入れる余地があるのかっ……!?
「すきすきすきスキ……」
ダーケさんはもはやそうつぶやいて俺を抱きしめ続けるだけだ。
「あれ……?」
もはや制御の効かないダーケさんの体から、なにやら黒いモヤが少しだけ出ていることに気がついた。なんだ、これ?
「スキスキスキスキスキ……」
本人に聞きたいところだけど、これはもうだめな気がする。もう死ぬしかないかも。
ダーケさんの力は限界を知らず、どんどん力を入れていく。そろそろ骨が折れそうだ。
「そのっ! ダーケさんさすがにっ……!」
「スキスキ……はっ!?」
ダーケさんはようやく正気に戻ったのか、スキスキ言うのをやめてくれる。それと同時に出ていた黒いモヤのようなものは消えていた。
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