第16話 知らない天井、再び

「あれ、ここは……?」


 目を開けると、またしても知らない天井だ。しかも、ぐわんぐわん動く。それと、頭の部分がなんだか柔らかい。


「起きた?」


 そう言って俺の顔を覗き込んでくるのは、ヒガさんだ。長い青髪が顔をなでてくすぐったい。


「おぉ、起きたか!」


 ガタン!とユレが強くなる。声の主は聞き覚えがある。あの熊のような大男だ。そういえば俺はあいつの名前を知らないな。


「ちょっと、危ないから立ち上がらないで」


 ヒガさんがちょっとムッとした様子で言う。というか、これってもしや……。


「膝枕してくれてます?」

「えっ、ええ、そうよ。悪い?」


 俺が聞くと、ヒガさんはそっぽを向いて髪をかきあげる仕草をする。


「いや、悪くない。むしろ気持ちが良いくらい……」


 そう、この枕、非常に寝心地が良い。正直二度寝をしてしまいたくなるくらいに柔らかい。そして何よりちょっと暖かくて良い。


「なっ……変態なのね」

「いたっ」


 ヒガさんが恥ずかしそうに顔を赤くして、目を閉じ俺の頭を軽く叩く。それから、流れるように俺の頭をなで始めた。


「よかった……目を覚まさなかったらどうしようかと……」


 ヒガさんはそう言いながら俺の頭を優しく撫でる。こんな風に撫でられたのはいつ以来だろう。多分母さんに小さい頃撫でてもらって以来かもしれない。

 ヒガさんの撫でる手が気持ちよくて、少しうっとりしてしまう。そしてだんだん眠く……。


「ふゅー、見せつけてくれるね」

「いたいっ!?」


 ユレイン先生らしき声が聞こえて、俺の頭を撫でる手は、俺の髪の毛を握りしめていた。ハゲるからやめてほしい。


「見せつけてなんていません。パーティーメンバーとして当たり前の対応を……!」

「痛いいたい」


 依然として俺の髪の毛を握りしめながら、ヒガさんは先生に抗議をする。というか髪の毛を握る強さがより強くなった。本当にやめてほしい。


「ごめんごめん、謝るから髪の毛を握りしめるのをやめてあげな?」

「あっ……ごめん、メズくん」


 先生に言われて気づいたのか、ヒガさんは引っ張るのをやめて再び優しく撫で始める。気持ちがいいが、さっきと同じことをしないかこっちは気が気じゃなくなる。


「撫でるのはやめないのね」

「だからっ……!」

「痛い」


 やっぱり握りしめられた。俺はこのままじゃまずいと思って起き上がろうとする。


「いてっ……!?」


 先程まではなかった激痛が、体中に走った。


「メズくん、起きちゃだめ! ポーションで傷は回復したとは言え、折れた骨までは回復できないのよ」

「そう、なんだ……」


 そうか……折れていたのか、俺の骨……。

 確かに、死ぬほど痛かったからそうなっていてもおかしくはないか……じゃあ俺は街につくまで髪の毛の主導権をヒガさんに握られたまま……?


「ちょっと失礼なこと考えたでしょ」

「いたいっ!?」


 だめだ、やっぱり主導権を完全に握られてしまっている。そして俺の考えていることを少し読めるようになってきたのか……?


「私が回復魔法を使えたら良かったんだけど……まだ骨を治すレベルの魔法は使えないの、だから街の病院でちゃんとした治癒者ヒーラーに治して貰わないと」


 ヒガさんは申し訳無さそうな表情を浮かべて俺の頭を優しく撫でる。そんなの、ヒガさんが謝ることじゃない。


「それは、ヒガさんが謝ることじゃないよ」


 あのとき、多分もっと強い人なら、もっとうまく立ち回れていたと思う。格上のモンスター相手に突っ込むなんて自殺行為、今考えたらどうしてそんなことをしたのかわけがわからない。


「いえ、私がもっと速く、あなたと同じくらいの速さでついていけたら……」


 俺とヒガさんは、「こっちが悪い」「そっちは悪くない」と割ることのないやり取りをする。


「まあまあ、結局は私がもっと速く気づいて助けに入れてればよかったんだし、今日のところはお互い様にしときな?」


 ユレイン先生が間に入って、俺とヒガさんのやり取りはひとまず終りを迎えた。

 この間のやり取りだけでも疲れてしまったのか、それとも枕が良かったのか、俺は馬車に揺られるうちにウトウトして、また眠りについてしまった。

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