第12話 初めての戦闘
『大森林』
それは、俺の生まれ育った街であるミレニアの近郊にある、大陸最大規模の大きな森林だ。
ミレニア周辺は平原であり、住処を作るのに適していないためモンスターは皆そこに住みついている。
さらには、今の文明より遥かに進展していたと思われる形跡がいくつも存在しており、その最たるは【アプライアンス】。
それの多くは電気の魔法を使うことで起動する。
それが多く見つかったことから、一部の学者は
「以前は電気が魔法などではなく、もっと別の方法で作成されていた」
という説を立てている。
もっとも、その肝心の電気を作る道具が見つかっていないことから、それはないとされているが。
とにかく、『大森林』はとても歴史的価値が高く、冒険者がこぞってここを探索した。
それによりミレニアは大きく発展し、『ギルド』も大変重宝した。
以前は。
そう、それも今となっては昔のこと。
もはや探索され尽くしてしまったここは、歴史的価値などほとんどなくなった。
それにより『ギルド』の収入は傾き始め、今に至る。
ギルドのことは余談だったが、とにかく、『大森林』とはそういう場所なのだ。
「さて、着いたね! ここが『大森林』。
さあ、初めてのモンスターとの戦闘を経験するといいよ!」
ユレイン先生は大森林を背に両手を高く広げる。
『大森林』近くにある宿に馬車を預け、俺たちは今『大森林』に来ていた。
俺たち生徒は一度先生のもとに集められ、今回の目標が発表される。
「今回の目標は、『エイプ討伐』。
一体でもエイプを討伐して、それの素材を剥ぎ取ること!
部位はどこでもかまわないわ」
先生の言葉にどよめきが走る。
エイプは、以前習った通りEランク。つまり最弱クラスのモンスターだ。
それをたった一体。
数の多さでそれは変動し得るとも習ったが、あまりにも簡単すぎる。なにか他に意図があったりするのだろうか。
「まあまあ、それじゃ、頑張ってね!
それぞれのパーティーの周辺を私達は見ておくから、危なくなっても大丈夫よ。
とはいえ、あまり深くには潜らないでね!
それじゃ、はじめ!」
先生は合図をするとすぐ傍にあった木に高跳びしてそのまま木々を渡って何処かへ消えた。
先生が呼んだという、他の冒険者たちもいつの間にかいなくなっていた。
「さて、行きましょうか、メズくん」
「えっ、あ、ああ……うん」
未だに生徒たちが動き出せずにいる中、ヒガさんだけは冷静に状況を把握して、行動しようとしていた。
さすがとしか言いようがない。
「あ、その前に。――【ライズ】」
ヒガさんが杖をかざして詠唱をすると、杖に込められていた魔石が淡く光り、俺の体を優しく包み込むように動いた。
それと同時に、体が軽くなったような気がする。
心なしか、背負っている両手剣も軽い。
「詠唱魔法、【ライズ】。【ライジング】と違って一定時間大幅な身体能力の強化をしてくれる。もっとも、自分自身には使えないけれどね」
ヒガさんは何でもないことのように言う。
正直かなり助かった。
これでモンスターの超人的な動きにもついていける気がする。
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
「ええ」
俺とヒガさんは揃って森の中を歩いて行く。
『大森林』の中はやはり木々が茂っており、さらにいつも歩いている舗装された道とは違い、いくらか不安定で、いつもどおりに動けるとはとてもじゃないが思えない。
「なるほど、たしかにこれは、私達にはきつかもしれないわね……」
俺と同じことを思ったのか、ヒガさんがそんなことをつぶやく。
エイプは、最低ランクモンスター。
けれど奴らは数で冒険者を蹂躙するという。
平地で、足場が悪くないのなら、俺にでも勝てる気がする。
だが、この条件下では、かなり分が悪い。
(先生はこれを気づかせるためにわざわざここまで連れてきてくれたのか?)
「っ! メズくんッしゃがんでッ!」
「えっ!?」
ヒガさんの慌てた声に俺は即座に反応してしゃがみこむ。
しゃがんだ俺の頭の上を、何かがビュン、と駆ける音がした。
「な……」
物が飛んでいったと思われる方を見ると、木が少し削られているのがわかった。
近くには、その木を削ったと思われる石。
(あんな威力で投げられるのか!?)
俺はとっさに剣の柄に手を伸ばし、いつでも抜刀ができる状態で構えを取る。
あんなの、頭にでも当たったらひとたまりもない。
投げてきたのは誰だ?
「メズくん! あそこ!」
「あれは……!」
ヒガさんが指を指した方向には、三匹のエイプがいた。
三歳の子供くらいの身長に、長く伸びたしっぽ。
手には、次に投げると思われる石が握られている。
「早速見つかったのはいいけど、これどうすれば……!?」
そう、困ったことに、俺は森の中で、木の上にいるモンスターに有効となりそうな魔法を使うことができない。
【ファイア】は森を燃やしてしまうし、【フラッシュ】もこの距離では大した効果を出さない。
「メズくん、あの木にジャンプしてみて!」
剣を出さずに構えたまま、俺が硬直していると、ヒガさんが叫んだ。
「何いってんのさ、ヒガさん!?」
無理だ。
どれだけジャンプしたって、あの高さには届かない。
身体強化ができる『才能』があるなら話は別だが、俺の持っているものはあいにくそういう類のものではない。
「いいから、ジャンプして!」
それだというのに、ヒガさんは必死にそう訴えかけてくる。
もういい、わかった。
言われたとおりにしてみよう。
「ああもう、わかったよ!――はぁつ!」
力と溜めて、エイプのいる木に向かって、跳躍。
瞬間、驚くべきことに、俺の体は浮いていた。
いや、浮いたというのは少し違うかもしれない。
普段以上に跳躍することができた。
それも、エイプが高みの見物を決め込んでいた木の枝に。
「なんだこれっ!?」
「だから言ったでしょ! 私の魔法、舐めないでよね!」
下からヒガさんの声が聞こえる。なるほど、これは【ライズ】の効果だったのか。
確かに大幅に強化してくれるとは言っていたが、これは想像以上だ。
「キキーッ!」
「ウキャーッ!」
「ウキィ!」
三匹のエイプは、俺が木に飛び乗ってきたことに驚いてはいたが、すぐに戦闘態勢に入った。
まずはどう動こうか。授業では、数えられないほど多いとかいう場合以外は、一匹ずつ確実に倒すのがセオリーだと、ユレイン先生は言っていた。
(なら、まずは石を持ってるこいつから!)
俺は三匹のうち唯一石を持っているのを確認できたエイプに向かって突っ込み、剣を一気に引き抜いた。
「ウギッ!?」
スパン、とキレイに確かに切った感覚。
エイプは見事に体を斜めに二分割された。
分割された肉塊は地面へと自由落下を果たしグシャリと少し嫌な音を響かせる。
(切れ味こんなに良かったのか、この剣。
それに今、もしかしてエイプより早く動けた?)
「ウキィィッ!」
これも【ライズ】の効果だろうか。
などと思う余裕もないままに、残ったうちの一匹が猿声を響かせてこちらへ向かってきた。
ヤツの武器は意志の投擲だけではない。
その長い爪も、相手に致命傷を与えることができる。
(けど、遅い!)
いつもより体が自由に、素早く動かすことができる。
それだけではなく、動体視力まで向上しているのが今のでよくわかった。
「ウキキキキッ!?」
残ったエイプは、俺が次の標的として見定めるや否や、悲鳴を上げてさっそうと木々を渡って遠くへ逃げてしまった。
「逃げられた、けど……」
木の上から、切り落としたエイプたちだったものを見下ろす。
自分でも信じられないくらい、冷静に事を運ぶことができた。
ヒガさんの魔法には感謝しないといけない。
「メズくん、グッジョブ!」
下からヒガさんの声がして、俺はすぐに木を降りた。
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