第11話 出発進行
校庭には合計七台の馬車が来ていた。
俺たちのクラスは合計三十人。
パーティーは基本的には四~五人で組まれるので、一パーティーに一台という感じか。
「さて、みんな馬車に乗り込んで!
一台につき私の信用のおける冒険者が同行しているから、その人達の指示に従ってね!」
「……この街から『大森林』までの馬車って、だいたい一台千ゴールドくらいするわよね。よく七台も……」
ユレイン先生の言葉などお構いなしに、ヒガさんが顎に手を当ててボソボソとそんな独り言をこぼす。
「それがどうかしたの?」
俺は気になって声をかけてしまう。
追加料金を払う必要のある制服を着ることができている時点で、お金に困っている家庭というわけでもなさそうだし、千ゴールドがどうしたっていうのだろう。
「いえ、ギルドが馬車まで用意してくれるのかと思って。
赤字企業と名高い『ギルド』の学校がここまで用意できるとは、私は思えないの。
授業ができるほどの冒険者を雇うために、高額のお金を払っているって話だし」
「なるほど……」
確かに、モンスターがいるとは言え『大森林』以外では、外に強力なモンスターがいることなんて滅多にない。
山の上にはドラゴンが住むという話だが、ここ数年目撃情報は一切ない。
仮に街や国の周囲にモンスターがやってきたとしても、そこに駐屯している兵士たちで対処可能なレベル。
要するに、ここ最近に関して言うなら、至って平和そのものであり、冒険者の需要は低下し続けているのである。
冒険者への依頼が減ると、『ギルド』の実入りが少なくなる。
以前「世界の要」とまで言われた『ギルド』は、もはや倒れかけの状態なのだ。
「よく気づいたわね。さすがよ」
俺とヒガさんが話していると、ユレイン先生がゆったりとこちらへ歩いて来る。
先程教室で見かけたときはいつも通り紫色の胸元の開かれたスーツだったのが、いかにも『実力のある冒険者』と言った服装をしている。
丈夫そうな金属製のブーツを履き、武闘着と言えば伝わるだろうか、動きやすそうな戦闘服を着ている。
腕には左右色の違うガントレットをしており、右は赤色、左は水色だ。
「この馬車はね、私の自腹。
あと他の冒険者は私が頼み込んでお願いしたらただで引き受けてくれた人たちよ。
まあ、『ギルド』からそれなりにお金はもらっているから、私的には大した痛手ではないんだけれどね」
と、ユレイン先生はにやりと笑って、右指でお金のジェスチャーをする。
「それじゃ、そろそろ出発しましょうか。
他のみんなも準備ができたみたいだし。
あ、メズくんたちのパーティーは私と同じ馬車だよ」
「わかりました」
先生の指示に従い、それぞれのパーティーが馬車に乗り込む。
俺たちのパーティーはたった二人なので、他にもう一組パーティーが乗り合う。
「お、お前たちと乗り合わせることになったか、よろしくな」
「あら、偶然」
乗り合わせになったパーティーはちょうど先程ヒガさんがパーティーの誘いを断っていた、熊みたいにデカい大男のものだった。
偶然、と言うよりは狙った感じがあった気がするが、気の所為だろう。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
先生の合図で、御者が馬を走らせ始めた。
「……」
ユレイン先生は御者と話していて、生徒たちの方には見向きもしない。その間に俺は大男の方をちらりと見た。
大男はそのガタイに見合う大きな戦斧を背負い、装備は俺やヒガさんが着ているようなブレザータイプの制服などではなく、しっかりとした鎧を着込んでいる。
はっきり言って、なぜ『冒険者育成学校』にいるのかわからないくらい強そうに見える。
「おう、お前。なぜオレがこの学校に通ってるのかわからねえって顔をしているな?」
俺の視線に気がついたのか、大男が俺に声をかけてきた。
「あ……ごめんなさい」
俺は大男の威圧にすっかり気圧されて、なにか悪いことをした覚えがあるというわけでもないのに、気がついたら謝ってしまっていた。
大男は相手を見るだけで見た相手を威圧してしまう、それくらいの覇気のようなものがあった。
「いいんだ、オレが周りより少し目を引いちまう見た目をしてんのはわかってる」
俺がすっかり萎縮してしまっていると、笑ってそう言ってくれる。
「だがな、これだけは覚えておけ。オレはまだ十七だ」
『えっ……!?』
俺だけの声じゃない、ユレイン先生含めその馬車に乗っていた全員が驚きの声を上げた。
「やっぱりか……オレは、ちょっと老け顔なんだよ」
いやちょっととかじゃないっ!?
見た目は完全に戦闘慣れした漢の顔つきと体つきだというのに、まだ十七。
逆にどういう生き方をしたらそうなるのか、聞きたいところではある。
「まあ、なんだ。確かにオレはモンスターとの戦闘経験もそれなりにあるし、装備だってこうして揃えられている。
だがな、オレには肝心の仲間がいねえ。それを探すためにここにかよってんのさ」
大男はその十七とは思えない顔つきで、そんな事を言う。
仲間。たしかにそれは、冒険者にとって最も大事なものだ。
一人ではこなせないことも、仲間がいると出来るようになる。
まあ、俺のパーティーの場合、ヒガさんのためになにかできている気はしないが。
「そんで、オレはこいつらとパーティーを組んだ。
今はこいつらと一緒にここを卒業……来月、月に一度ある『卒業試験』をこなして一緒に冒険者になろうって約束してんだ」
そう言って大男が仲間たちの方を見る。
みんな、生き生きとしていてどこか誇らしげだ。
それが少し羨ましかった。俺にはまだ、そんな仲間がいないから。
ヒガさんは、さっきはああ言ってくれていたけれど、卒業してしまえば話は別だろう。
『才能なし』とはいえ、三系統すべたの魔法が扱えると言うのは、いつか英雄級の冒険者になれる素質がある。
俺と組んでいてはそれが叶わなくなってしまう。
「そういや、お前はなんでここに通ってんだ?」
大男の言葉が、ぐさり、と心に刺さった気がした。
それは多分、今俺がどうしてここに通っているのか、わからなくなってきているからだろう。
冒険者になりたい。いつの日からか、そう思うようになっていた。
けど、どうしてそうなりたいのか、それを聞かれたら今は応えられる自信がない。
ただでさえ、冒険者としてやっていくなら必須級と呼ばれる魔法さえ使えていないのに、どうして冒険者になりたいなんて言えるだろうか。
「冒険者になりたい、からかな」
なんで冒険者になりたいからかもわからないのに、その場しのぎの答えでそんな返事を俺はした。
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