第10話 二人以上のグループを作ってね

それから一週間が経過した日のことだった。


「今日は『大森林』へ行きます」


教室に入ってくるなり、ユレイン先生はそう言った。

教室中がざわめきに包まれる。

みんなわかっているのだ、『大森林』へ行くということは、モンスターと戦うことになるのだ。


「分かっているでしょうけど、これはただの遠足なんかじゃありません。

モンスターと戦って、命を奪う――『モンスターを殺す』ということがどういうことなのか。それを学ぶための実戦経験よ」


いつもひょうひょうとして感じのユレイン先生が、真剣な面持ちで言い放つ。


「ではまずパーティーを組みなさい。最低二人以上よ。

移動はこっちで馬車を用意してあるわ。

じゃ、組めた人たちから私に報告してね」


先生が言い終わると、ほとんどの生徒たちは以前実技演習のときに組んだ人たちのもとへ行く。

俺ももちろん、ヒガさんのもとへ。

ヒガさんも俺と同じくパーティーを組んでくれる人はなかなかいない……と、思っていたがそうでもなかったようだ。

既に何人かにヒガさんが取り囲まれている。


「なあなあ、オレたちのパーティーに入ってくれないか?

【回復魔法】が使えるヤツ、なかなかいなくてよぉ。頼むぜ」


そうして頼み込んでいるのは、俺やヒガさんよりいくつか年上のように見える男性だった。

体格はがっしりとしていて、大柄。熊みたいにデカい。

顔にはいくつかなにかに引っかかれたような傷があり、戦闘経験があるのをはっきりと感じられる。


あれは、俺なんかよりずっと頼りになるだろう。実際、既に男には何人か仲間がいるようだった。

ヒガさんにとって、とてもいい機会だろう。『才能』を使いこなせない。

戦闘もあの男性ほどにできると言えない。そんな俺より、彼とともに行ったほうが何倍も得だ。


「はぁ……」


俺は、彼女の返事を察してため息をつく。

いまからでもパーティーを組んでくれる人がいるだろうか……。

ほんの少し羨ましいという目線を彼女に向けていると、不意に彼女と目が合った……ような気がした。


「ごめんなさい。

お誘いはとっても嬉しいけれど、私が組んであげないと誰も組んでくれなさそうな、可愛そうな人がいるの。また今度お願いするわ」

「えっ……」


俺は自分の耳を疑った。本気だろうか。

ひどい言いようだったが、俺なんかのために、ヒガさんが誘いを断ってくれた。

それがなんだか嬉しくて、思わず机の上に顔を伏せてしまう。


「それは残念だ。

また機会があったら、今度はオレらと組んでもらうからな」

「ええ、また」


彼女は彼との会話をそうそうに切り上げたらしい。

顔を伏せていても、教室がうるさくても、その声だけは聞こえてきた。


「……ねえねえ、ティタなんとかさん?」

「うおっ……!?」


突然、右耳に囁かれて俺はびっくりして飛び起きてしまう。

一瞬だけかかった吐息がくすぐったかった。


「どうしたのかしら。ティタなんとかさん? 

私が他の人とパーティーを組むと思って凹んだ? 

それとも、私が誘いを断って、あなたと組もうとしたのが嬉しかった?」


ヒガさんはしゃがみ込んで、机からぴょこんと頭の上だけを出して聞いてくる。

それが不覚にも可愛らしくて、ちょうどいい高さで、思わず彼女の蒼いきれいな髪を撫でたいという症状に一瞬だけ駆られた。


「いや……うん、そうだよ。嬉しかった」

「あら、そう。素直なのね。褒めてあげるわ」


俺が素直に認めると、ヒガさんはすっと目線をそらす。

なんだか耳がほんのり赤くなっているような、そんな気がした。


「それはそうと、やっぱり二人で大丈夫なのか?」


「大丈夫、と言いたいところだけれど……正直少し厳しいかもしれないわね。

現状、あなたは【ステップ】も【ライジング】も成功していないわけだし。

常人の体じゃ、エイプ一体に勝てるかも怪しいわよ」

「だよなぁ……」


そう、俺は一週間経った今でもまだどちらの魔法も成功と言えるレベルもことができていなかった。

ヒガさんの言うように、【ライジング】を使うことでようやくエイプ一体に勝てるようになる。

だからこそ、冒険者にとって『才能』は必須であり無くてはならないのだ。


「まあ、そこは私がここ最近で覚えた魔法であなたの体を強化してあげるわ。ただ、それでも前線が一人というのは厳しいものね」

「だよなぁ」


あたりを見渡すと、大体のパーティーは四人以上で構成されているのがわかる。

武装をしていないので誰が前衛後衛かまでは分からないが、数が多いだけでやれる幅は広がる。

それは大きな差だ。


「ま、今は仕方ないわ。いずれまたパーティーを組んでくれる人も出てくるでしょうし、二人で頑張りましょう」

「そうだな」


確かに、パーティーを組むメンツは実技演習のときにある程度固定されてしまったかもしれないが、これからパーティーの中であぶれる者も出てくるだろう。

そういうときに俺たちのパーティーに誘い込めばいい。

総考え直して、俺たちはユレイン先生の元へパーティー編成の報告をしに行く。


「先生、できました」

「あら、仲間は増やさないのね」


「はい、まあ俺……僕ら、いや僕は大した『才能』を持ってなければ魔法も使えないので」

「そう。まあ、しばらくは先生たちが各パーティーに引率でつくから問題ないでしょうけど、そのうちあと二人くらいは仲間に入れなさいよ」


「わかりました」

「じゃ、馬車は校門前に停めてあるから。ちゃんと挨拶をして乗り込むように」

「「はい!」」


俺とヒガさんは元気よく返事をして馬車のある校門へと向かった。

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