第9話 魔法を教えてあげましょう2

「さて、次は【ライジング】ね。これも、【ステップ】同様イメージが大事ね。

というか、【速攻魔法】は基本的にイメージが軸で、内容の理解はそこまで必要じゃないわ。覚えておきなさい」


「なるほど……けど、今度はどんなイメージで?」


【ステップ】は三歩動く魔法だったから、見て学ぶことができた。だが、【ライジング】は身体能力の向上。見て学ぶということが通用するとは思えない。


「大丈夫、【詠唱魔法】になるともっと体への理解が必要になるけれど……この魔法に関して言えば、『こう動けるようになりたい』ってイメージがはっきりしていれば、発動させることが可能よ。まあ、やってみなさい?」


「うーん……」


ヒガさんは簡単なことのように言ったが、俺にはいまいちイメージできない。

「そうねぇ……魔力を体中に巡らせるイメージよ。

大丈夫、失敗したとは言え【ステップ】ができたんだから、これくらいできるはずよ」


「わかった、やってみる」


俺は目を閉じて、体にある魔力に意識を注ぎ込む。

魔力が滞在している箇所は、人によって違うという。

俺の場合は、心臓の付近に魔力の塊を感じる。


「魔力を、体中に……」


心臓にある、魔力の塊がちと同じく体中を巡るように。腕から指先へ。脚から足先へ。

魔力は、そのままでは何の効果も発動させることができない。

何かしらのエネルギーへの変換が必要だ。

【ステップ】のときは運動エネルギーに変換することで、一応成功した。

体中に巡らせた魔力を、【ステップ】と同じく運動エネルギーに変換する。


「【ライジング】」

「どう?」

「……あれ?」


これと言って、体に変化を感じない。【ステップ】を発動させたときには確かに感じた、『魔力を変換した』と言う感覚すらない。意識がそれたことで、体中に巡らせた魔力は霧散してしまった。


「どうしてかしら。私がしたときは一度で成功したのに」

「それ、人によっては嫌味に聞こえるから気をつけたほうがいいよ」

「あら、ごめんなさい」


もしかしたら嫌味で言っていたのかもしれないが、ほんのすこし傷ついた。

しかし、どうして失敗したのだろうか。これが全くわからない。


「仕方ないわ。私も明日までに教え方を考えてきてあげるから、自主練しておきなさい」

「はい……」


正直、一回でできると高をくくっていたので、こうもうまくいかないと少し気落ちしてしまう。

ハズレとはいえ『才能』を持っておきながらこの体たらく。

恥ずかしい限りだ。


「まあ、そう気落ちしないことね。私が天才だっただけでしょうし」

「うーん、もう少し励ましの言葉を考えたほうが……」

「なにか言った?」

「いえ、なんでもございません」

「よろしい」


そんな感じで、ひとまず俺とヒガさんの魔法訓練は終了したのだった。

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