第7話 学べ座学っ!
「それでは、今日はモンスターについて教えていきます。
これは冒険者にとって最も大事な知識です。
これをなくしては冒険者としてやっていくことは難しいでしょう」
翌日の授業は座学だった。
冒険者の多くはモンスターとの戦闘がメインとなる。
そう考えると、モンスターに関する知識は多くていいに越したことはない。
「まずは基礎。この街、『ミレアナ』の周りに生息する主なモンスターについて教えましょう。
まず、最も多く生息していると言われているモンスター。
それはエイプ。
本来平地にモンスターは生息しませんが、時折近くにある『大森林』から頻繁にやってくるモンスターです。
脅威度はEランクとかなり下ですが、その最たる強さは数の多さ。
一対一でなら勝てる人もこの教室にはいるかも知れませんが、3匹以上いる場合は、現状即座に逃げるのが賢明でしょう」
先生の言葉を一言一句逃さないようにノートにまとめる。
「ついでに、知っているかもしれませんが『大森林』の説明を。
『大森林』とは、大陸の森の中では随一の広さを誇っており、奥へ行くほど強力なモンスターが出現します。
魔獣系が多いですが具体的には、エイプキング、ドゥン、ヴァンパイア……他にもいくつかいますが、まあまだこれらは覚えなくてもいいです」
先生が今挙げたモンスターは、全てSランク。
つまり最上位に位置するモンスターで、かなり有名だ。
逆に知らない人がいないくらい。
「また、この『大森林』には森林となる前、過去に巨大な都市が形成されていたと思われるものが数多く発見されています。
それも、私達の文明よりも遥かに進んでいた可能性のある……まあ、このあたりは歴史学。
つまりはここで教えるようなことではないので、頭の隅にでも留めておいてください。
では次に覚えておくべきモンスターは――」
先生は街周辺のモンスターをどんどん挙げていく。
俺も一応は冒険者に憧れていた身。
基本的なモンスターの名前や脅威度は知っている。
だがユレイン先生ほどの実力者から語られるモンスターに関する情報は、図鑑にも載っていない。
どれも戦闘経験のない俺にとってかなり有益なものだ。
しばらく経つと、授業の終了を告げる学校のチャイムが鳴った。
「さて、今回の授業はここまでですね。
それでは授業を終わりましょう。
そうそう、昨日パーティに一枚ずつ配ったレポートをまだ提出していないパーティは、早めに出してくださいにね。それでは」
先生はそう言い残してさっそうと教室を去っていく。
『冒険者育成学校』は、普通の学校とはかなり違う。その最たるは授業の少なさだ。
普通の学校であれば、朝から夕、一日を欠けて様々な授業を行う。
だがこの学校は、一日に一つのみ授業を行う。
たまに通常の学校と同じく授業をする日もあるが、それは特別成績の悪い生徒のみである。
その一番の理由が、この学校が国や街ではなく『ギルド』が運営しているもので、教師陣に時間に見合った金額を用意するのが難しいかららしい。
まあ、俺としてはかなりありがたいことではあるが。
「ねぇ、メズくん?」
俺が授業の内容を軽く復習していると、横から声をかけられた。
声の主はもちろん、ヒガさんだ。
今日から魔法についての勉強を教えてくれると、昨日約束をしていた。
「ああ、魔法について教えてくれるんだよね」
「ええ、学校で一応教えてくれはするらしいけれど、私から教わったほうが早いでしょ?」
そう自信有りげに彼女はふふんと胸を張る。前から思っていたが、ヒガさんは自分にかなり自信があるタイプみたいだ。
「それじゃ、昨日のグラウンドへ行きましょう」
ヒガさんと一緒にグラウンドへと向かう。
なんだか周囲からの目線があると思ったが、もしかしたら昨日先生にぶっ飛ばされたことで少し噂になっているのかもしれない。
「私が綺麗すぎて目を引いているのかしら」
「……そうですね」
やはりヒガさんは思っていたより自信家だった。
「それより、あなたは魔法についてどれくらい知っているの?
速攻魔法を使えるくらいだし、少しは知っているようだけれど……」
歩きながら。ヒガさんは僕に質問を投げかける。
「えぇと、僕が知っているのは魔法には多く分けて2種類。
【詠唱魔法】と【速攻魔法】。
そこからさらに『攻撃』『補助』『回復』に分岐して、さらに『属性』に分かれる……ってことくらい?」
俺が知る限りの魔法の知識はそんなところだ。
ヒガさんはウンウンと頷きながら俺の知識に補足を加える。
「『属性』に関して言えば特殊な血筋でもない限りは特に制約はないけれど、その前の3系統そのうちどれが使えるかは、その人の素質次第。
どのような『才能』を持っていようとも、使えない者は使えない。
まあ、私は使えちゃうんだけど」
「なぁ、前から思ってはいたんだが、なんで3系統の段階で分かれるんだ?」
「そうねぇ……まあ、端的に言ってしまえば頭の良さといったところかしら。
魔法を使うためには、魔法の原理を知らないといけない。
例えばそうね、あなたに使ってあげた魔法『ヒール』。
あれを使うためには人体についての知識が必要なの」
「そうだったんだ……知らなかった」
「といっても、『ヒール』ならそんなに難しいことじゃないわ。
あの魔法は軽い傷や痛みを治す魔法。
だから、どこが痛むのか、その痛みや傷を治すためにはどのように体に働きかければいいのか。
あの時の場合はほとんど痛みのみ、だから治癒に関する知識よりは、痛みの性質……痛みが脳に伝わるまでの軽い経路さえ知っていれば、対処可能よ。
というか正直、どうしてあなたがあれで骨折せずに済んだのか不思議だわ。
あんなきれいに一撃をもらっていたのに」
「それは……俺も同意だよ」
確かにあのとき、先生は本気じゃなかったかもしれないけれど、骨折していてもおかしくはない気がする。
「あなたって丈夫なのね」
「いや、そんなことはないかもしれないけど……」
「まあ、これでわかった? 魔法がどうして1人1系統使えるかどうかなのか」
「あぁ……難しいんだな、魔法って。
じゃあもしかしてこれから教わる『速攻魔法』も……?」
「そんなことないわよ。と言うかあなた、『フラッシュ』や『ファイア』は使えていたじゃない」
「よかった。……それはおじいちゃんが教えてくれてさ、見せてもらって覚えた」
元冒険者だったおじいちゃんが俺に剣と魔法を教えてくれた。
ただ、あまり強くはなかったと、俺に教えてくれるときによく言っていたが。
「見せてもらって……ま、まあ確かに誰でも使える『基礎魔法』の一つだけれど……少しばかりは才能があるみたいね。よかったわ」
「それはどうも」
珍しく……というか初めて褒められたような気がして、少しばかり嬉しくなった。
「さて、今日はあなたに2つ魔法を覚えてもらうわ。
ズバリ、『ステップ』と『ライジング』。知っての通り『速攻魔法』。
それもこれに関して言えば人体に関する知識なんていらないわ。
ただ必要なのはイメージ。
『ステップ』は3歩、素早く動ける魔法。
『ライジング』は身体能力が少し向上する魔法。多分いずれ学校で教わるけれど……」
そうして彼女は少し前に歩くと、俺の方に振り返って、
「教わる前に使えたら、かっこいいわよね?」
彼女はニヤリと笑って俺にそう言った。
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