第6話 知らない天井
目を覚ますと、知らない天井がそこにはあった。
俺はベッドに横たわっており、体を起こそうとすると、すこしばかり体が痛んだ。
体を起こしてあたりを見渡すと、同じような幅でベッドが置かれており、カーテンも付いている。
いくつかのカーテンは閉められていて、俺の隣には人影が……って、
「なんでいるんだ、ヒガさん?」
俺がそう尋ねると、ヒガさんは呆れたように「はぁ」とため息をついてから話し始めた。
「そりゃいるでしょう。先生に無理やりとはいえ、パーティとして組まされたんだし。
……あとは、まあ、『ヒール』を使ってあげたとはいえ、2回も吹き飛ばされてたし」
と、ヒガさんは言ってくれた。
後半の方は少し恥ずかしかったのか、声が小さくなっていたけれど、バッチリ聞こえた。
なんだ、可愛いところもあるんじゃないか。
「あっ、というか今授業の方ってどうなってるの?」
今になってようやく思い出した。これじゃ授業どころじゃないのは確かだけど、あのあとどうなってしまったのか、気になるところではある。
「どうかしら、あなたを保健室に運ぶときは何人か同時にかかっていくところをみかけたきがするけれど……先生の強さから予想するに、まったく相手にならないでしょうね」
「まあ、だろうな」
俺とヒガはそろって苦笑いをする。
組まされた最初はどうなることかと思っていたけれど、一緒にボコボコにされたことでなんとなくだが距離が縮んだ気がする。少し嬉しい。
「さて、このあとどうしようか」
「先生からは『起きたらメズくんに誤っておいて。おもいきり打ってごめんって。あ、あとこのあとの授業は今回の反省と改善点、今後どのように立ち回っていくかを用紙に書いて提出してね』と言われたわ。さあ、話し合いを始めましょう」
そういうヒガさんの目がぎらりと光った気がして、俺は少し萎縮しながら「はい」とちいさく返事を返した。
「とはいっても、俺深く考えるのって苦手なんだよなぁ……」
つくづく、どうして【リーダーシップ】なんて
「でしょうね、さっきの作戦だって、誰だって思いつく、本当に幼稚な作戦だったしね」
俺の小さなボヤキに、ヒガさんは即座にそう返してきた。
わかってはいたけれど、改めてそう突っ込まれるなんだか傷ついてしまう。
「うっ……そんなに責めないでくれよ」
「そうね、焦って内容も聞かずに作戦に乗った私が悪かったわ。ごめんなさい」
と、そう言って頭を下げるヒガさん。それ本当に申し訳ないと思ってるんですかね。とか思っていると、ヒガさんは再び口を開いた。
「けれど……そうね、あのときは深く考える時間なんてなかったし……私だってなにか策を提案したわけじゃないのだから、一概にあなたが悪いとは言えないわね」
おお、意外だ。自分にも火があることを認めるなんて。
普段は冷たいが、もしかしらた根はいい子なのかも知れない。
まあ、それが普段は全く見えないのは良くないとは思わないこともないが。
「それに、策を立てようにもメズ君と私、それぞれ何ができてなにができないのか。それさえも把握できていなかったことが今回最も反省すべき点だと思うわ」
ヒガさんはぴんと人差し指を立てて話す。
「前日に急に言い渡されたとはいえ、そういった『お互いについて知る』ということ を怠ること。
これはパーティーを組んだことがない人とパーティーを組む場合、最もしてはいけないとされているのにね」
「ふむ……」
と、俺はヒガさんの言うことにうなずく。
言われてみればたしかにそうだ。
事前にユレイン先生からも言われていたような気もする。
「だから、教えて頂戴。メズ君は何ができるの?
使える速攻魔法は今回使った『フラッシュ』と『ファイア』だけ?それともそれ以外にもあるの?」
「……ぁ」
若干前のめりになって聞いてくるヒガさん。
整った顔立ちが近づいてきて正直ちょっと緊張した俺は黙りこくってしまった。
あとなんかいい匂いがする。
「……?どうかしたの?」
ヒガさんは顔がかなり接近していることに気づいていないのか、本当に不思議そうに首を傾げる。
これを狙ってやっていないのだとしたら、かなり距離感が近い。最初に抱いていた、冷たいという印象はどこへ行ったのか。
「えっと……」
全力で嗅覚を使っていい匂いを嗅ぐことに集中したいという本能に逆らって、俺は俺のできることを上げていく。
「魔法は速攻魔法だけで、使えるのもその2つだけだよ」
言ってから恥ずかしくなった。ヒガさんはいくつもの魔法を扱えるのに、俺はたった二つ。全くもって釣り合いが取れている気がしない。
「そう……そうなのね……」
ふむふむ、とヒガさんはどこからか取り出したペンと紙でメモを取る。
「あれね、使える速攻魔法がそれだけど言うのは、冒険者として弱すぎるわ。
【ステップ】や【ライジング】が使えないのでしょう?」
ヒガさんの口から、聞いたこともない魔法の名前が飛び出してきた。
「えっ?なにそれ?」
「……あなた、本当に冒険者に憧れているの?」
ほぼ反射的に聞き返してしまうと、ヒガさんは呆れたようではぁとため息を吐く。
「前衛職として冒険者をやっていくのなら必須魔法よ。
今度……なんなら明日教えるわ。覚悟しなさい」
「はい」
ヒガさんの凄みに完全に萎縮してしまった俺は、先程までの煩悩を忘れ、ベッドの上で姿勢を正して返事をした。
「じゃあ、次は私ね」
そういうとヒガさんは「こほんっ」とちいさく咳払いをする。
「一応昨日ユレイン先生から軽く言及されていたけれど、攻撃、回復、補助、3系統の魔法が使えるわ。まあ、全種類というのは厳しいけれど、かなり多いわ。
といっても、いわゆる【
「
聞いたことはある。
全ての魔法には究極の威力を持つものがあると。
それが、
使えるものが少ないというわけではないが、一つ習得するだけでもかなり大変だそうだ。魔力操作がどうとか。
まあ、難しい話はよくわからないから置いておこう。
「なるほど、1人で基本的な後衛の仕事はできるって認識でいいのか?」
ヒガさんに確認を取る。
後衛と言っても、ヒーラーやら魔法使いやら、色々な区分があるけれど、3系統すべて扱えるのなら、その枠組を無くして考えることができる。
「ええ、そうね。流石に完璧とまでは行かないまでも、ある程度基礎は抑えている自信はあるわ」
「そうか……」
俺はうんうんとうなずきながら、必死に頭を回し始めた。
どうにかして、2人で戦っていく方法を。
だがまあ、2人だけでは取れる作戦の幅は狭い上に、無い頭でいくら考えても何も作戦が思いつかな無いのだった。
「どう?なにか作戦は思いついたかしら?」
「そうだな……ぶっちゃけ、何も思い浮かばん。俺が前衛として敵をひきつけ、ヒガさんがタイミングを見計らって魔法をぶつける……なんて、使い古されたものくらいしか」
「そうね……自分で行っておきながら何だけど、私もこれと言って特に思い浮かばないわ……結構難しいわね、これ」
「ああ」
俺とヒガさんは、何時間か話し合った末、結局これと言って作戦が思いつくことはなく、俺の提案したシンプルな作戦を書いて先生に提出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます