第5話 実技演習と一撃必殺
翌日、待ちに待った……わけではないけれど、実技講義の日がやってきた。
「みんな、用意はいいねー?」
ユレイン先生は外にいくつかあるグラウンドのうち一つに集められた俺たち生徒を見渡す。みんな武装をしており、何となく緊張感が走っている気がする。
僕の武装は、耐刃耐火耐水の効果を持つ制服に、茶色のマントを羽織っている。
武器は母さんに買ってもらった一般の冒険者が使うような鉄製の両手剣だ。
今日の日のために毎日素振りをしてきたから、振るう分には問題ない。
「それじゃあ、今日の実技は己ができることを見せることだよ。
一応、みんなの使える魔法、武器等は把握してるけど、もっと細かく知る必要があるからね。
じゃ、2人一組でペアを作って。
あ、メズくんとヒガくんは委員長同士で組んでね」
先生がぱちん、手を叩くと一斉に騒がしくなり、ペアになる相手を探していく。
俺もヒガさんを探すと、すぐに見つかった。
どうやらヒガさんも俺のことを探してくれていたようだ。
ヒガさんの武装は、俺と同じく耐刃、耐火、耐水能力のある制服と、武器を持っていない人に冒険者学校を運営している『ギルド』から支給される、生徒用の杖。
それと、いかにも魔法使いといった三角帽子を被っている。
杖のてっぺんには、魔法の威力を高めるという『魔石』が埋め込まれていて、最悪の場合鈍器としても役立ちそうだ。
「えっと、今日はよろしく」
「ええ、よろしく。せいぜい私の足を引っ張らないように努力なさい」
「言い方きついなあ……」
ヒガさんは相変わらずつっけんどんとした態度だが……うまいことやれいくだろうか。
思わずため息を付いてしまいそうになるが、決められてしまったものはしょうがない、気を持ち直していこう。
「よし、みんなペアを組んだな。あまりもいない。素晴らしいね!」
他の生徒達がペアを組み終わったのを見て、先生は言った。
ちなみに他の生徒がペアを組むまでの間、俺は地獄のような沈黙の時間を過ごしていた。
「じゃあ、一組目。メズくんとヒガくん、かかっておいで」
先生の発言に、一同が騒然とした。
「え、先生、今俺達が持ってるのって、本物ですよね?危ないんじゃ……」
「最前線を退いたとはいえ、元ランカーのこの私に傷一つつけられる自信があるなら、そこに用意してる木刀なりなんなり使いな」
先生の雰囲気が格段に変化するのを感じ取る。
今回は俺やヒガさんだけでなく、他のみんなも感じ取ったようだ。
「わかりました。ではっ……!」
「ちょ、メズくん!?」
俺は言うと一目散に突撃する。
間合いに入るとすぐに背負っていた両手剣を両手で引き抜き、大きく一閃。
「うーん、いいね」
先生は余裕の笑みで俺の攻撃を避けずに右腕で弾いた。
武装なんて何一つしていない。
ただ、その肉体のみで。
ありえない、剣を武装もなしに弾くなんて。
「なっ……!?」
「言わなかった?私、強いのよ」
先生は僕のがら空きになった腹に思い切り左腕で重い一撃を放つ。
「ぐうううううううううううっ!?」
俺の体にとてつもない痛みが走る。
俺は吹き飛ばされて剣を落とし、地面にうずくまる。
「ごほっ、ごほっごほっ……!?」
痛い痛い痛い痛いっ、手加減なしだっ、いや、死なない程度には手加減してるのか!?
「ごめんごめん、手加減するの久しぶりで……」
先生が謝っているのが聞こえるが、そんなことよりめちゃくちゃ痛い。
まともに次の行動が思考できない。
立ち上がれる気がしない。
あまりに重い一撃。
これが、トップに位置する冒険者の一撃!
「まったく……――【ヒール】」
「……おお?」
ヒガさんの声が聞こえた気がしてから、なんだか痛みが消えて行くのがわかる。
立ち上がることすらできないと感じていたあのひどい痛みは立ち消え、一撃をもらう前の状態まで体調が回復した。
「無策で飛びむなんて、やっぱり期待できないわね」
「ヒガさん……」
いつの間にか俺の近くにまで来ていたヒガさんが声を掛けてきた。
手を差し出されて、俺はその手を撮って立ち上がる。
「【ヒール】。回復魔法よ。
腕が取れるとかのレベルじゃなければある程度のキズも痛みも回復できる」
「あ、ありがとう……」
俺は先ほど落とした剣を拾い上げる。
せっかく母さんが買ってくれた一般の冒険者が使うレベルのものだ。それなりに高い。
使いこなせなきゃ母さんに向ける顔がない。
「そんなことより、ちゃんと『ペア』なんだから『ペア』らしく、戦いましょう?
せっかくできることがほとんど違うんですし、私と貴方の力を合わせるべきよ」
先生から距離を取りながら、ヒガさんは至って冷静に説明する。
「はは、すごい冷静だ……これじゃ、どっちが『才能なし』かわからないな」
「まったくね。その【リーダーシップ】だったかしら?せっかくの『
「そうだね……じゃ、もう少し冷静に行こうか」
俺は声を小さくしてヒガさんに言う。
「実はね、俺もちょっとだけなら魔法を使えるんだ。【速攻魔法】だけで、君みたいなすごい【詠唱魔法】は使えないけど……」
「え、そうだったの?」
「うん、まあ、見ててよ。
そしてタイミングを見て、強力な攻撃魔法を入れてくれ。
多分、先生にはまったく通用しないと思うけどね」
「どうかしら、案外通用するかもよ」
「そりゃ期待できるな」
「話は終わったかな?」
先程から黙って聞いていた先生が話しかけてきた。
「ええ、終わりましたっ、行きます!」
「また同じ攻撃かな?」
俺は先程と同じように飛び込み一閃を放つ構えをして――、
「【フラッシュ】!」
「うわっ」
俺は咄嗟に剣の柄に伸びていた右手を先生の顔近くに向け詠唱を必要としない、【速攻魔法】を放ち、後ろに大きく下がる。
先生が顔を覆いながらも、俺の腹があった位置に拳を突き出していた。
もし下がらなかったら、先程と同じことの繰り返しになっていたかもしれない。危ない。
「次です、【ファイア】!」
俺は先生を中心に円を描くように走りながら、再び【速攻魔法】を放つ。
俺の手のひらから小さな火の玉が勢いよく飛んでいく。
「無駄っ!」
目くらましから回復するかしないかのタイミングで魔法を放ったはずだが、先生は即座に反応し、右腕のストレートで向かってきた火の玉をかき消す。
ありかよ、そんなの。
「これくらいできないとランカーを名乗って良い資格なんて無いよ!」
「心が読めるんですかね……【ファイア】!」
俺はなお走りながら、同じように『ファイア』を放つ。
そしてまた先程と同じように、右ストレートで防がれる。
どれだけの鍛錬を積めば、あれ程の威力の一撃を繰り出せるのか。目指す高みの高さを身を持って思い知らされる。
まったくもってダメージを与えられる気がしない。
だが、俺の目的は達成できた――!
「ヒガさんっ!」
先生は今俺の方を見ている。俺は円を描くように走った。結果、先生はヒガに背を向けている。
つまり、背中はがら空き!
「なるほどっ!」
「時間稼ぎ、ありがとねっ!おかげで詠唱終わってバッチリよ!――【フレイム】!」
先生が振り向くよりも早く、ヒガさんの持つ杖から大きな炎の玉が放たれた。
メラメラと燃えるそれは、先生の元へ一直線に進む。
あの大きさなら、消されること無く確実に着弾する。そう確信させてくれるほどの威力のものだった。
「いいね。けど、幼稚だ」
先生は言うと振り向きざまに右ストレートを放った。
恐ろしいのは、今までにはない拳による大きな風圧。ヒガさんの被っている三角帽が吹き飛ばされそうになるほどのもの。
今までは火の玉を直接拳で殴り消していたが、ここまでの風圧は発生していなかった。
向かっていた火の玉が、先生に届く前に、爆発する。
「なっ……」
「こんなの、誰だって思い尽くし、まして元ランカーの私が防ぐ術を持っていないとでも思ったのかな?」
先生は余裕そうな笑みを浮かべて、俺の方に向き直る。
考えろ、何のための『才能』だ。【リーダーシップ】だ。
何か作戦が思いつくはずだ、なにか、絶対にあるはず――。
「考えるのはいいけど、相手から目をそらしちゃだめだよね」
「メズ君っ!」
「なぁっ?」
ユレイン先生とヒガさんの叫ぶ声に、俺は集中から引き戻される。
先生はいつの間にか俺の間合いに入り込んでいて。
「一撃必殺!」
俺が剣を構えるよりも早く、最初とおんなじように腹に一撃を加えられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます