第4話 指名理由とこれからよろしく

「さて、ではなぜ私が君たちを委員長にしたかを教えよう」


 先生に委員長に強制的に決定された日の放課後。

 俺と女の子を職員室に呼び出した、ユレイン・フィロソフィア先生は言った。


「はい、その前に一ついいですか?」

「ん?何かな」


 ちいさく手を上げて口を開いたのは俺と一緒に呼び出された女の子。


 彼女の名前はたしか、ヒガ・バルカだったかな。

 年齢は聞いていないが、おそらく俺と近いだろう。若々しい。


 ほとんど話す機会はなかったけれど、長く綺麗な薄い青髪に制服の似合う、美少女と言うよりかは美人という言葉が似合いそうなくらいに大人びた雰囲気を醸している女の子だ。


「先生は『相手との力量を上手に計る能力に長けている』とおっしゃいましたが、ど           ういうことでしょうか。

先生は確かにあの場でとてつもない緊張感を放っていました。

そしてそれを感じ取ったのは私と彼だけ……というのは、偶然という可能性はないのですか?」


 ヒガさんはにっこりと微笑んでいる先生に捲し立てた。

 ユレイン先生は、うんうんとうなずく。満足気だ。


「たしかにそうだね。その可能性もある。

 けれど、私はそもそも、君たちを委員長にする気だったんだよね」

「「えっ」」


 俺とヒガさんは声を揃えた。

 ヒガさんがムッと俺の方を睨んでいたのは気のせいだろう。

 気のせいであってくれ。


「じゃあ、そこも踏まえて委員長にした理由を教えよう」


 先生は人差し指をピッと立てる。


「1つ目。私の発した緊張感をしっかりと感じ取っていたこと。

 もちろん、偶然の可能性も、感じ取っていたけれど手を挙げなかった者がいるという可能性もある。

 だからこれは、ちょっとした小手試しみたいなものだった。本当の理由は2つ目だ」


 先生は中指も立て、ピースサインを作った。


「2つ目の理由は二人共別々だよ。

 まず、メズ・ティテランタくんは『才能』を見た上で適正があると判断したから」

「……」


先生の発言に、俺はなんとも言えない表情で返してしまう。

正直言って、面倒くさそうだし、そもそも俺は委員長なんてガラじゃないと思っている。

才能センス【パーティーリーダー】だって、俺には似合わない、大仰なものだ。使いこなせる気がしていない。

それに、俺の才能センスは『制約』のおかげで余計に扱いづらい。


「もちろん、君の『才能』は『制約』がネックになる。

 けれど、そのネックをどのように解消するのか、それを委員長として過ごしていく中で身につけていってほしいと考えてのことだよ。これでメズくんは納得いくかな?」


先生はもっともらしい理由を並べる。だからといって、納得できる訳では無いが、ここは仕方なく頷いておくことにする。


「……はい、わかりました」

「よろしい。では次、ヒガ・バルカちゃん。

 事前情報によると君は攻撃、補助、回復すべての魔法を使いこなすらしいね」

「えっ……!?」


 先生の口から信じられない情報が出た。

 魔法の3系統をすべて使いこなすなんて、すごい『才能センス』の持ち主じゃないか。


 ならなぜクラスで一人だったのだろうか、彼女のようにすごい『才能』がある人物なら注目を集めてもおかしくないはずだ。


「ええ、まあ……ただ、3系統の魔法を扱えると言うだけで、すべての魔法が使えるわけではありませんが」


ヒガさんはどこか苛立った様子で返した。なにか気に触るようなことだったのだろうか。


「そう謙遜しなくてもいい。3系統の魔法を扱えると言うだけでもすごいものだ。

 それも、『才能センスなし』と診断がくだされたその身で。

 『才能あり』でも、大体の人間は3つの内どれか1つの系統しか使えない。頭の処理が追いつかないからね」


「『才能なし』……!?」


『才能なし』で3系統使える?そんなの聞いたことがない。

冒険譚に出てくる英雄でも、3系統使いこなす人物は使いこなせるだけの『才能センス』を持っていた。

『ギルド』のランキング上位でもそんな人物はいない。


「私も驚いたよ。

 すぐに再検査を行ったが、問題なく『正常な診断結果』だったらしい」


先生は両手を上げて降参のジェスチャーをする。


「本当に、私『才能なし』なんですね。信じられないです」


 ヒガさんは先生に対して堂々とそう答える。

 どこか突き放すような答え方で、よく先生相手にそういう答え方ができるなと思った。


「うん、残念なことにね。ただ、私は君たちが組めば、最高のパーティーになると思うんだ」

「はぁ?」


先生の発言に、ヒガさんは不服そうな声を漏らす。というか、さっきから先生に対してかなり生意気すぎやしないだろうか。

それとも冒険者としてやっていくならこれくらいの度胸は必要なのか?

まあ正直なところ、同意できないこともない。

どういった思考回路をしていればそんな発想が出てくるんだろうか。


「二人共、パーティーリーダーとしての才能がある」

「は?」


ついにヒガさんが、おおよそ先生に向けて放つような返事ではない返事をしてしまった。

さすがのヒガさんも、今のはまずいと思ったのか、こほん、と咳払いをしてから、


「……なるほど。ティテなんとかさんならまだしも、なぜ私も選ばれたのですか?  『才能センス』を持ち合わせていない私に、パーティーリーダーは務まらないかと」


 ヒガさんは異議ありと言った様子で言った。

 というか「ティテなんとかさん」ってなんだ、たしかに覚えにくい家名だけど父さんとかご先祖とかから受け継いできた家名なんだからせめて名前の方をいじってくれ。

 いや、名前もだめだけれど。


「だから言ったじゃないか、その感覚の鋭さと強さ。その両方を買っているんだよ。

 委員長が強いと、他のクラスからなめられないだろう?それも『才能なし』の子が、だ」

「それは、まあ、たしかに……」


先生の言葉に、うまいこと丸め込まれてしまったヒガさん。たしかに納得がいかなくもないが、さっきまでの「お断りします」オーラはどこへ行ったのか。


「そういうわけだ。というわけで、二人共これから委員長としてよろしく。

 ああそれと、明日は座学ではなく、実技での講義だったのは伝えたよね。

 そのとき2人一組になってペアをつくってもらうけど、そのときは君たち、二人で組んでよね。っで、そしてこれから実技のときは絶対に二人で組むこと」


先生は、これで最後と言わんばかりにまくし立てる。


「はい。って、え?」


 俺はうなずいてから聞き返してしまった。


「嫌です」


 隣からはヒガさんの鋭利な言葉が聞こえてきた。辛い。


「まあまあ、そう言わず。説明をするときに前に立ってほしいんだよ」


 先生はヒガさんをなだめるように言う。


「頼むよー、案外いいペアになると思うよ。だから、ね?」


 おねがーい、と両手を合わせて軽く頼み込んでくるユレイン先生。先生とは思えないポーズ。

……先生がいくつかは知らないが、大人でそのポーズが可愛らしく映るのは色んな意味ですごいと思った。


「はぁ、わかりました。『才能なし』というだけでペアを組んでくれる人は限られてくるでしょうし、了承します」


渋々、といった様子を隠しもせず、ヒガさんは同意した。


「わーい、ありがとう。じゃ、そういうことで!帰っていいよ!私も帰る」


 ヒガさんが仕方なくうなずき、先生は嬉しそうにさっそうと帰りの準備をして職員室から出ていった。本当にいくつなんだあの先生。


「ええと、これからよろしく?」

「そうね、けど実技のとき以外は絡んでこないで頂戴ね」


 俺が握手をしようと手を出すと、ヒガさんはそれを払った、

 先生、俺この子になにかしたでしょうか。嫌われています。

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