第3話 けっかはっぴょおおおおおおっ!

翌日のことだった。

人数の多さ故、普通の学校のようにクラスが外に張り出されるなんてことはなく、前日のうちにクラスと『才能診断』の結果を知らせる郵便が朝一で届いた。

気になる診断結果は、『才能あり』。


どんな『才能センス』だろうか。可能なら身体強化系がいい。

冒険者にとって身体強化系はまあまあ当たりの部類だ。


というか、戦闘系のものでなければ冒険者として食べていくには難しいだろう。

もちろん、冒険者は戦闘だけではないが、俺は今まで戦闘系だけを一点に鍛えてきている。


ここで急に薬草採取向きの『才能センス』なんて出てしまった日には、僕は泣く泣くその方面に変えないといけなくなる。

さて、早速結果を見てみよう。



名前・【リーダーシップ】


効果・指揮能力の向上。戦闘時に限らず、場を取り持つ際、周囲がよく見え、より冷静に判断を下すことができる。


制約・指示を下す際、両方の信頼度によって支持の通りやすさが変化する。

  ・一定以上の信頼がなければ、真価は発揮されず、指示が通りづらくなる。



……微妙!

いや、むしろ外れかもしれない。

これでは戦闘時に俺は一般人と大差ない能力で戦わないといけなくなることが確定してしまった。


もちろん、鍛えているから戦闘系の『才能センス』がなくとも、それなりにやっていけるだろう。

それでも、俺が夢見てきていた前線で大活躍、なんてポジションに立てるような『才能センス』ではない。


それに、俺は指揮なんて考えて味方を動かすようなことは苦手だ。

昔から戦略系のボードゲームではおじいちゃんに勝てたことがない。

以上のことから考えて、この『才能センス』は、俺にとって外れに当たる。

もっと戦略を立てて仲間を勝利へ導くことが得意な人間なら違ったかもしれないが、俺にとっては外れだ。


「まじか……」


俺はがっくりと肩を落としため息を吐く。

小さい頃からの夢がかなり遠ざかったのだ、正直言ってかなりショック。


「でも、考えないとな……」


とはいえ、わかってしまったものは仕方がない。

今は深く考えるのをやめて、学校へ行こう。

今日は登校初日だ、初日から遅刻というのはよろしくない。



振り分けられたクラスに入ると、教室はすでに喧騒に包まれていた。

よく見ずとも、皆年齢がバラバラな事がわかった。

この学校自体16歳以上なら基本誰だって入れるためか。


己の『才能センス』を誇示する人もいれば、早速一緒にパーティを組んでくれそうな仲間を探している人もいる。

机に座りうつむいているのはハズレ組、あるいは『才能なし』診断だった者たちだろう。


「おい、お前。『才能センス』は何だった」


立ち振る舞いから、俺ができる限り『才能』が外れだったことがさとられないよう堂々と席につくと、後ろの席に座っていた男が話しかけた。


「俺?えっと……【リーダーシップ】指揮能力の向上だって」


するとその男は「ふっ」と意地の悪い笑みをこぼす。


「なんだよそれ、他力本願ってことか? 自分で戦えないなんて、外れじゃないか」

「あ、あはは……だよね」


人の良さそうな笑みをする彼に俺は苦笑いをしながら返す。

自覚はしていたとはいえ、他人。

それも初対面の人間に後も馬鹿にされるとかなり傷つく上に、苛立ちと悔しさがほんのり芽生えた。


「ま、頑張れよ」


男の方はまるで興味をなくしたかのように、というか実際なくしたのだろう、席を立ち「当たりを引きました」という雰囲気を醸しているグループの和の中に入っていき、俺のことを指をさして笑っていた。つらい。

おそらく、俺のクラス内での立ち位置は今のたった数秒で確定してしまっただろう。せめていじめられないことを願う。


「おーいみんな席につけー」


未だ騒がしい教室に凛とした声が響いた。

どう考えても普通に響くような声量じゃなかった。魔法を使ったのか。

みんな声に従い、割り当てられた席へと着く。


「えっ……」


俺は驚いてちいさく声を漏らした。幸い、誰にも聞かれることはなかったようだ。


「よし、みんな素晴らしい」


声の主――ちょうど昨日俺が話したばかりの女性は、そういった。

昨日と同じく、艶のある紫色の髪の毛に、頭を動かす度にゆらゆらと揺れるポニーテール。


その立ち振舞は自身に満ち溢れ、それでいてその自信を誇示する感じがない。


「……?」


突如、体にぴりぴりとした軽い電流のようなものが走る感覚を覚える。

これは……?


「うーん、なるほど、なるほどぉ」


目の前に立つ、女教師おんなきょうしは一人教卓の前で腕を組みうんうんとうなずいてなにかに納得した様子だ。


「今、こう、体に不思議な感覚が走った者。手を上げてみなさい」


俺はサッと手を挙げる。だが、周りを見渡すと俺以外に手を上げたのはたった一人の女の子だけだった。


「うんうん。いいねいいね。素晴らしい」


女性はまたうなずき、ニッコリと笑うと、体に走る電流は大きくなり、冷や汗が出てきた。周りを見渡しても、先程手を上げた女の子以外、何も変わった様子はない。


「君たちは判断能力……特に、『相手との力量を上手に計る』能力に長けているね」


教室獣が騒然とする。そりゃそうだろう、先程まで『あたりを引いたグループ』が誰一人として手を挙げなかったのだから。


「別に手を挙げなかった者たちが悪いとか、そういうんじゃないよ。ただ、少し自信過剰になっているのかもしれないから、そこは気をつけてね。それで――」


先生はニッコリと俺と女の子を見る。


「二人にはこのクラスの委員長を任せちゃいまーす!」

「え!?」

「……!?」


俺は声を上げ、女の子は静かに目を見開いて驚いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る