第4話
漆黒のサタン4、魔術の素
「面白い施術だが、こんな使い道の分からないものにパウダーを使うのはもったいないとは思わなかったのか?」
アスモデウスとスカーレットがにこやかに話していると、ややトゲのある言葉でバーミリオンが突っ込んできた。
私は意味が分からずにアスモデウスの顔を見る。
「パウダー?」
私が聞き返す。
「おい。まさか知らないのか?」
「えー?どうしてどうしてー?」
「おっと!これは仰天発言だな。」
「ど、どういうことでしょうか?パウダーを使わずに施術を作ったという、こ、ことでしょうか?」
バーミリオン、スカーレット、ピュース、クリムゾンが一度に話し出す。
何か常識はずれの事を言ってしまっているらしい。
これは失態を演じてしまったか。
しかし知らんもんは仕方ない。
「知らん。それはなんだ?」
私は横柄に顔を上げ見下すように訊ねた。
「え、いや、魔術の素とも言われている施術開発に使われる粉のことだが・・・。」
バーミリオンは急に肩をすぼめて私に答えた。
「一般にはあまり出回らないし、知らない人もいて当然かも知れないけど、今ある施術はこのパウダーによって全て作られていると言って過言じゃないのよねー。」
テーブルの上のビンに入っている少量の粉を振りながらスカーレットが続ける。
「私達の施術はそれとは別の方法で作ったものなの。」
アスモデウスがまた嘘を並べる。私達の能力は勝手に沸いてきたものだ。
「ち、違うやり方で施術を作れるの、で、ですか!?そ、そんなことは、だ、大発見です!希少なパウダーをつ、使わずに新たな施術をつ、造り出せるなんて!!ゴフォ!ゴフォ!」
興奮したクリムゾンが咳き込んでしまった。
「まあまあ落ち着けよ。だが言う通り大発見だ。どうやって作ったのかをこっちが教えてもらいたいね。」
ピュースが私達に詰め寄る。
「それは良いが先に粉の話が聞きたい。全ての施術がその粉で作られているというのは過去に遡って最初に作られたものから全てと言うことか?」
私は逆に詰め寄った。
「そうよー。最初に作られた施術は火を放つ術と言われているわ。どこでもどんな時でも火を起こせるようになるというのは便利だったでしょうーねー。」
スカーレットが答えた。
火を起こす術。グローリーが使った大道芸の一種か?
「それからはいろんな術が作られるようになってー。昔王宮の方で研究が行われていた時期に今ある基本的な体系が作られたそうよー。氷、風、雷、水、土、回復、そういったものがねー。」
施術開発にこの妙な粉が必要。
人間の術など興味無かったから知らなかったがそういうものだったのか。
王宮が関わっていた時期のことも知っているようだ。
それならばもっとグローリーに関係している部分もしっているかもしれない。
「何故王宮が関わっていてその術を手放したんだ?協会ならずとも一般にまで施術が広がっているのはどういうわけなんだ。」
「さあねー。広まっていったものを押さえることができなかったんじゃない?便利だし、独占するより使ってもらった方が発展すると思ったんでしょー。」
私の質問にスカーレットが引き続き答える。
「面白い考察の方に話が進んだな。俺は施術の伝播がその理由だと考えている。」
バーミリオンが乗ってきた。
「伝播?」
「施術の開発にはパウダーが必要。では施術の布教には何が必要かというと、元の施術を持っている人間との接触が必要になる。教わる側の資質によって伝わる時間や能力の高低の違いがあるが、施術を使ってもらい、見て、覚えて、体験して、時間をかけることで別の人間もその施術を覚えることができる、という性質がある。これは誰の制限も受けることはない。それで当時の王宮には止められなかったんじゃないだろうか。」
感染していくというわけか。まるで病原体だな。
勝手に広まっていくというのでは独占は無理だったろう。その気が有ったか無かったかは知らないが。
「では具体的にそのパウダーとやらはどうやって使うのだ?施術開発とやらに。」
「あー、それはボクから説明しよう。」
私の質問を今度はピュースが引き取った。
「粉は水に溶けやすい。水に一定量溶かして腕やら体のどこかに塗るんだ。そうそれば身体に未知のエネルギーなんかが沸いてくる気分になる。そこで作りたい施術を思い描いて実際に使い、体に定着させるんだ。1回では駄目なら何回も、粉が使える分だけ何度でもね。」
「い、1回で済むことなんてありません。1つ施術を作るのに希少な粉が大量にひ、必要になるんです。け、結局定着されずに失敗に終わることも多いです。」
「ゆえにどういう施術が作りたいかを先に考えておく必要がある。どこでどうやって使うものなのかをね。単純な物ほど作りやすいという性質もあるね。複雑なものは定着が難しいんだ。」
ピュースの説明にクリムゾンが間にはさまった。
魔力のドーピングということか。
思っていたより怪しい術を使っていたのだな。
「最近この開発部では新しい施術は開発できてない。はっきり言ってボクらにはこの世界じゃ落ちこぼれだ。上級者ならもっと複雑なものを短時間で作れるんだろうが、ボクらの技術では希少な粉を大量に消費しても役に立ちそうな施術を定着させられない。この部所での限界というわけだ。」
「精鋭という話を聞いたのだが?」
「アハハ。施術開発が出来るというだけなら一応精鋭だ。だけど上級者ならもっと別の機関に引き抜かれてるし、この協会には残らないだろうね。」
ピュースが実情を語ってくれた。
なるほど。怪しい感じはしたが、落ちこぼれが協会という底辺にしがみついているというわけか。
私はアスモデウスを見た。
コイツらでは役に立ちそうもない。早々に別の場所に切り上がる方がよいのではないか?
「それでー?そっちの施術の作り方はー?」
スカーレットがいやらしい顔で聞いてきた。
コイツは本当にノーパンなのだろうか?今はそっちの方が気がかりだ。
「私の施術の作り方は文章に書くことよ。」
アスモデウスが答えた。
「文章!?」
落ちこぼれ4人が声を出して驚く。
「ちょっと紙を貸してもらえるかしら。ありがとう。」
アスモデウスに急いで机から紙とペンを渡すクリムゾン。
さらさらとサラを名乗るアスモデウスが何か書く。
「これでよし。」
私が肩越しに紙を見ると、7倍に増やす。と書いてあった。
「ちょっとその希少な粉を貸してもらえるかしら。」
「え?これ?」
スカーレットが手に持っていたパウダーとやらが入ったビン。それをアスモデウスに渡す。
アスモデウスの手に渡り、アスモデウスが指先でビンを触れると、テーブルにそっくり同じビンがポンポンと現れた。7つ。
あっと沸き上がる落ちこぼれ4人!
紙には書いてあった文章が消えている。
「私の能力。一度だけ書いた文章を実現させる能力。ただし文章には7の数字が必要になる。」
アスモデウスが私だけに耳元で囁いた。
「しかし愚かな無能どもだなー。希少だというならばさっさと増やす術を編み出せばよかったのにー。」
色めき立つ落ちこぼれ4人が落ち着いて、私達と共に控え室で6人テーブルを囲んで座って話をしている。
昼時と相まって、全員持参の弁当とか簡易の食事をここでとるようだ。
私とアスモデウスは敷地内の売店でサンドイッチとフルーツジュースを買ってきてここで食べることになった。私はお金なんて持ってないからアスモデウスに奢ってもらった。
「お前新人のくせに態度デカイんじゃないのか・・・?」
バーミリオンが私をチラチラ見ながら苦言を施す。
「何か問題でもあるのか?」
「い、いや・・・無いけど・・・。」
簡単に引き下がるバーミリオン。
ソファーに座って足を組んでいる私のふとももをチラチラ盗み見ているようだな。
ミニスカートから生足が剥き出しになっているのを卑しい思いで覗いているのだろう。
「いくらなんでも私達を含め、今までの先人達がそれに気付かなかったってことはないわよー?」
「そ、そうです。き、希少と言われるのは、パウダーを使った術での増殖がこのパウダー自体には効果が無かったから、な、なんです。」
「パウダーを使わない施術でなら増やす事ができるってなら、こりゃ一大事だ。明日にでも論文を書き始めたいね。」
スカーレット、クリムゾン、ピュースが未だに興奮した様子で熱を帯びた口調で喋り出す。
「それについてはまだ他言無用でお願いできるかしら?」
さすがに呆れたアスモデウスが口を挟んだ。
水をかけられた形の落ちこぼれ4人がアスモデウスを見る。
「そりゃなんでだい?パウダーを使わずに施術を開発できる、そしてパウダーも増殖できる。世紀の大発見だと思うがね。」
ピュースが疑問を口走る。
「私達まだ新人なもので・・・。」
「うーん。そうねー。まだ入ったばっかりだし。噂が広まったらすぐにでもどこかに引っ張られちゃうかもしれないしねー。」
「おっと。それは確かに困るな。」
アスモデウスの嘆きにスカーレット、バーミリオンが同意したようだ。
「ま、まだ、ルーシーさんの施術も見せてもらっていませんしね。」
「そういやそうだ。君はどんな施術を作ったんだい?」
クリムゾンとピュースが私を話題に上げる。
「眠らせる。だが今は使うべき時ではないな。食べて落ち着こう。」
私は足を組ながらサンドイッチを片手でパクパク食べている。
そして私は思い出す。1階の売店の場所を聞いてアスモデウスと二人出て行ったときに今後の身の振り方を相談したことを。
まず私の睡眠縛鎖は相手が一人の時でないと使えない。
眠らせるのは良いが、夢の中に意識を移すときに私の体も眠ったような状態になるのが、他のものに見られるとまずい。だといって全員を眠らせるも意図がバレてしまうのでまずい。
アスモデウスは話の種として、ごく一般的な会話の中でグローリーの事を持ち出して聞いてみるのも悪くはなかろうという意見だった。
そのために数日はここで世話になろうというのだ。
こんな場所に長居したくはないが、さりとてどうせ暇をもて余して調査にやって来たのだし、暇潰しとしては適当なのかもしれん。
「それじゃー、まずは机を2台持ってきてもらわないとねー。それから必要ないかもしれないけど、あたし達の施術開発のやり方を実際に見てもらいましょうかー。」
スカーレットが私達の今後の事を語る。
まー暇潰しと思えばなんでもいいかという諦めの気持ちにもなってきた。
スカーレットは干し肉を挟んだバゲットを平らげ、クリムゾンはビンに入ったシチューを飲み干し、バーミリオンは米を丸めたものを頬張り、ピュースはパリパリになった野菜等のチップスを食べ尽くした。
私達もサンドイッチを食べ終えて奥の部屋に戻ることになった。
私はスカーレットの背後に立ち後ろからそっと耳打ちした。
「ノーパンは本当なのか?」
「え?やだわー。そこまで詰め寄るほど特別なことじゃないのよー。あたしわりとノーパンだから。」
「なんと!それは何故!?」
「これからやるボディペイントで邪魔だからー。」
「うおぉぉぉおおおっ!!いったいどんなペイントを施しているんだーっ!!」
私は突然熱くなってしまった。
「じゃあ作るわねー。」
大きなテーブルに戻ったスカーレットは大量に増えたビンの中からから粉を取りだし、水の入ったビンから水を少量流し、平べったい小皿のような入れ物で溶かす。
太い筆で丹念に混ぜて、まるで絵の具で色を作っているようだ。青っぽい水溶液が出来上がる。
「今日は多めに使っちゃったー。じゃあ塗ってくるわねー。」
奥の部屋のさらに奥に小さな個室があり、そこにスカーレットは入っていく。
「どうだ?やり方は簡単だろう?作りたい施術によって水と粉の配合の比率は変える。とはいえ上手くいく保証はないからトライ&エラーでそれも変えていくんだが。」
「い、今は落花生の殻を割って実を取り出せる施術の開発を中心にと、取り組んでいるんです。これができれば飲食業界で重宝されると、お、思うんです。」
「ここ最近はいい結果が出てないけどねー。って、どうした?二人揃って顔色が良くないようだが?」
呑気にバーミリオン、クリムゾン、ピュースが話しているが、私とアスモデウスはそれどころではない。
なんだこの粉から出てくる異様な瘴気は?悪寒が漂っているぞ!?
今まで感じたことの無いような悪しき臭気を放っている。
いったいこれは何なのだ!?こんな怪しい粉末を人間どもは使って施術というものを開発しているというのか!
私とアスモデウスは顔面蒼白になって顔を見合わせる。
「魔術の素・・・。グローリーが持ち出したものとはいったい・・・?」
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