支配のはじまり
第6話 ゆっくり話をしましょうか。兜山総理
10:35 8F ミニスタジオ
テーブルに突っ伏す喜代田の死体。
頭部が砕け、中身をテーブルの上にぶちまけている。瑚都は目を細めてそれを見下ろしていた。
「ありがとう、マノア。もう止めて」
テレビカメラを向けていた少女は親指を立て、カメラのスイッチを落とす。
「監視の手筈は?」
「瑚都に言われたとおり、各フロアに二台ずつドローンを飛ばしてるよ。映像は全部私のPCから確認できる」
白ベストの少女はノートパソコンの画面を見せた。
十六分割された映像に、各フロアの空撮が映っている。
一箇所に集められた人質たち、それを管理する少女たち。無人のオフィスには血溜まりと死体の陳列。
大型の建物を制圧する際には監視の手間を省くためドローンが有効だ。低空で飛んでも、人質たちは偵察用ドローンに手出しできない。
ドローンには小型狙撃銃を装備させているし、万が一のためC-4による自爆装置も搭載している。
「外部の状況は?」
ハーフ顔の少女が「警察が来ていル」と淡泊に言った。
「道路が封鎖されてSITの突入部隊が待機しているシ、周囲の建物には狙撃チームも配備されたネ。屋上からヘリで
「突入は最終手段でしょう。警察は市民から死傷者を出したくないのだから、私たちの投降を最優先に動くでしょうね」
瑚都はインカムに指を当て、全メンバーに指示を送る。
「総員に告ぐ。人質をエントランス・Aスタジオ・Bスタジオの三箇所に分散させなさい」
人質を分散させて拠点を複数作っておく。すると警察は全拠点に同時制圧しなければならないので突入が難しくなる。
「脱走や反逆をしにくいように、近親者同士は別々の場所に収容する事」
市街地では
市街戦なら陸上自衛隊以上の実力を発揮すると言われているが、犯人グループと人質の数が多いとSATは出動しにくい。
現時点で人質は148名。
警察側が不利だろう。
瑚都は壁際に目を向ける。兜山の隣に、もう一人生存者がいる。二人の少女に銃口を突き付けられる男。
兜山のSPの男だ。
「具合はいかがですか」
瑚都の呼び掛けに、男は険しい瞳で睨み返した。
小指の千切れた左手をハンカチで必死に押さえている。彼の持ち物が床に並べてある。拳銃と警察手帳があった。
瑚都は手帳を縦に開いて「ふーん」と微笑む。
「
京谷は瑚都を睨み上げている。瑚都は微笑みを返した。
「総理大臣のSPという事は、警視庁でしたら警備部警護課の警護第一係。柔道や合気道の有段者で、射撃の上級認定も受けているはず。たしか英会話の習得も必須でしたか」
小さく頷いた瑚都はハーフ顔の少女に再び目を向ける。
「この刑事さんもAスタジオに連れて行って。人質の中では一番厄介な人だから、ティナにしか任せられない」
ハーフ顔の少女は京谷を立たせ、ミニスタジオから出て行った。その後ろから数名の少女もついて行く。
瑚都は再びインカムに指を置く。
「アコ、エミリ。オフィスの職員は外部から目の届かない場所に移すの。職員を五階のBスタジオに移動させて」
分かりました、と無線連絡が返ってくる。
九階廊下の偵察用ドローンの映像に、肩を竦めた職員たちの行列が見えた。その数わずか三十四名。
上層階制圧を担当したBチームが半数以上を浄化している。ビル内部の構造に詳しい人質は少ない方が良い。
「イサキはこの八階の西側の窓に配備。警察が斜向かいのゲームセンターに仮設本部を置いているでしょう。常に監視を続けて」
眼鏡の少女が「了解」と応え、得物を
身の丈に不似合いな大きな銃を抱え、眼鏡の少女はミニスタジオを後にする。
「メイは一階。突入されるならエントランスからだから、決して気を抜かないように」
「おおっ、トーカと一緒の所だゾ!」
くせ毛の少女は飛び上がって喜ぶ。
彼女は「いっぱい頑張って、いっぱい褒めてもらうゾ!」と両手を広げ、がに股でミニスタジオを飛び出していった。
しんと静まり返ったミニスタジオ。
呼吸をやめた無残な死体たちが横たわっている。生きているのは瑚都と白ベストの少女と、そして。
「ゆっくり話をしましょうか。兜山総理」
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