56.一途な二人

 授業が始まり、ローレンス先生の例の指示でそれぞれ男女ペアに分かれ始めた。

 ――と思ったら、クラスに婚約者がいない女子達がハヤトに殺到し始めた。


「ハヤト君、私と組んで下さらない?」


「いいえ私と」


「私も是非ハヤト君に教えて頂きたいですわ」


 彼は迫り来る令嬢達に気圧されたのか表情を強張らせて後退り、さりげなくモーリス君の背後に隠れた。

 しかしモーリス君はサッと横に退け、肉食女子達に獲物を差し出すというムーブをかます。

 獲物は「裏切られた」みたいな顔をして今度は私をチラッと見てきた。


 そうだ、あの人、何だかんだ街でこういう目に合わなかったのは街では逃げる事が可能だったのと、ファンクラブの統制があったからかもしれない。

 握手だけはお父上の影響か拒まなかったみたいだけど、いつからかそれも無くなったし。


 言うまでもなく授業中に逃げ場など、無い。

 これは助けが必要かも。


「あの、皆さん。それでは時間が足りなくなりますから、適当に他の人と」


「エリー先生」


 不意に呼ばれて振り向くと、そこには男子の山があった。

 まるで運動部の部室のようなむさ苦しい光景に思わず後ずさる。


「いいんです。女子達はアレで。ローレンス先生と出禁に任せて放っときましょう。俺達はストイックにやるので、エリー先生に見て頂きたいです」


「え、えぇ、でも……」


 女子の山の方を見ると両側から腕を掴まれてたじたじになっているマイ婚約者がいる。

 やっぱりあの人にも護身術は必要らしい。

 護身術の極意は精神面にあるとはローレンス先生の言葉だけど、本当にその通りだ。

 肝心のローレンス先生はアンナ嬢のお相手で忙しいようで、まるで役に立たなそうである。

 まるであそこだけ乙女ゲームのイベントが進行しているかのようにロマンチックな空気が流れている。

 このままローレンス先生ルートに入ってくれたらそれはそれで嬉しいけど、でもちょっとはこちら側の地獄絵図も気に掛けて欲しいです。

 エリー、男子に取り囲まれております。ちょっと怖いです。


「ええと、じゃあ取り敢えず男子は男子でペアを組んでシチュエーションを想定して取り組んで下さい。皆さん優秀なはずですから、私からは特に何か言う必要はないかと」


「えっ、俺達には実演してくれないんですか?」


「実演?」


「BクラスとCクラスの奴らには実演してくれたって聞きました。凄く楽しみにしてきたのに、俺達だけ無しなんて酷いです」


 酷いって何が。

 いったいどんな感じで彼らに伝わっているのだろう。


「エリー先生の破廉恥授業、お願いします!」


 おい誰だそんな事言ったの。

 こっちは真面目にやってたのに!


 あまりの言い種に声も出せずにいたら、突然後ろから抱き付かれた。

 咄嗟に肩を捻りそのまま腰を落として脱出、と同時に振り向きざま肘をみぞおちに叩き込み顔面に掌で打撃を与えると「おぉー」と感嘆の声が上がる。

 おぉーじゃない!

 一体何の練習をしに来ているんだ! 変態になる練習か!


「ハヤト君、ちゃんと掴んで。全然力入ってないよ」


 女子のそんな声が聞こえてふとハヤトを見ると、女子の手首を掴んでいる彼とバチっと目が合った。

 いつから見ていたのか分からないけど、心なしか目が怖い気がする……。


 お互いに視線を外せないままハヤトは女子に手を取られ背後から抱き付くポーズにさせられていて、こっちは同じようなシチュエーションでありながら口元を塞がれるという遠慮のない攻撃を仕掛けられた。

 女子生徒相手じゃないせいか、本当に遠慮がない。

 ひ、人妻の扱いってこんな感じなの……!?


 口を覆う手の小指を握り関節を反対側に極め、手が離れたところで小手返しをすると変態はごろんと床に転がった。

 すかさず肩を足で押さえて起き上がりを阻止すると、歓声と共にパチパチと拍手が上がる。


「これで良いですか? 後は自分達で実践してみて下さい」


「いえ、まだ見せてもらってないのがあります!」


 まだやるの!?

 抱え上げられて、足が宙に浮いた。

 その時女子達の方から「えっ、ちょっとハヤト君。私まだ技かけてないよ?」と言う声が聞こえ、見ると膝から崩れ落ちて床に手をついて項垂れる私の婚約者がいた。

 私を抱え上げている男子が耳元でこそっと話し掛けてくる。


「エリー先生。帰国するまでの間、俺を下僕にして遊んでくれませんか?」


 やかましいわ!

 手の甲を思いっ切りつねり、手を離したところで肘鉄を喰らわせた。


 そんなこんなでⅡ–Aの授業は何とか終わり、最後に一年生の授業に入って全六クラス完了。

 本日の授業終わり! なんだか異様に疲れた……!

 帰りのホームルームの時にハヤトから書き直したレポートを回収し、教員室でローレンス先生の雑務を切りの良いところまで手伝ってから退勤になった。

 本来なら夕方五時までが勤務時間なんだけど、私は臨時講師だから早めに上がって良いと言われている。

 要するにアルバイト的なポジションだ。

 今の二年生が卒業すると同時に辞める予定だから、一人前に育てる必要が無いとの事。確かに。


 エリザベス姉貴も私と同じポジションのようで、一緒に帰り支度をして、更衣室で別れた。


 それから例のごとくサロンでハヤトと落ち合ったのはいいものの、何だか彼の様子がおかしい。

 普段ならニコッて笑って迎えてくれるのに、今日はどうやらご機嫌斜めのようで少し怖い顔をしている。


「どうしたんですか?」


 迎えに来た馬車の中で単刀直入に尋ねてみる。


「どうもこうもないよ。何あの授業、触らせすぎじゃない?」


 あら。その事でお怒りなのね……。


「そうかもしれませんけど、何も遊びでやっていた訳では」


「それは分かってる。だから口出ししなかったけど……でも嫉妬くらいするよ。ねぇアリス、俺今日すっごい嫌だった」


 そう言って拗ねるハヤトに愛しさが込み上げてくる。

 自分がする嫉妬は醜く感じるのに、好きな人が見せてくる嫉妬はどうしてこうも可愛いのだろう――などと余裕ぶっていたら、学院からはほど近い我が家に到着した瞬間手を取られて、彼の使っている客室に少し強引に引っ張り込まれた。


「え、ちょっと」


 ぱたん、と扉が閉められ、内鍵が掛けられた。

 日没前とはいえ夕方に差し掛かった室内は薄暗く、目が慣れるまで彼の表情を伺い知る事が出来ない。


「アリス」


 手首を掴まれ、扉に押し付けられた。


「どんな事をされたのか、全部教えて」


 少し痛いくらいに力のこもった手は簡単には振りほどけなさそうだ。

 薄暗がりに目が慣れてきて、彼がとても険しい顔をしているのが見えた。

 私は自分で思っていたよりも愛されているのかもしれない。

 愛情を疑っていた訳じゃないけど、私の執着とすら言えるこの気持ちほど重くはないと思っていた。


「全部、ですか?」


「そう。全部。あの授業、俺達のクラスだけじゃなかったでしょ? 俺が見たやつ以外だとどんな事された?」


「そんなに変わらないですよ。どこも大体あんな感じでした」


「マジか。酷いな。俺の奥さんなのに」


「それを知ってる人はほとんどいませんからね……。嫌でしたか?」


「当たり前じゃん! 俺だってそんなに触ってないのにさ」


 思わず笑ってしまうと、彼は憮然として手を少し緩めた。


「今の別に笑うとこじゃないし……」


 そう言って私の背後に回り、今日散々されたのと同じようにしてぎゅっと抱き付いてくる。


「……抜け出さないの?」


「どうして抜ける必要があるんですか? 今までも普通にこうしてきたじゃないですか」


「じゃあ、これは?」


 ぐっと抱え上げられて、足が宙に浮く。


「重くないかが心配です」


「何それ。心配するところそこじゃないでしょ」


 呆れたような声で、彼はそのまま部屋の奥に私を運んでいく。

 ベッドに乗せられ、私はそこで膝立ちになった。ここでようやく心臓が騒ぎ出す。

 振り返ろうとした時、背中に重みが掛かってきて立っていられずベッドに両手をついた。


「あの、これって」


「アリス。もしこれが暴漢だったら手遅れだと思わない?」


「え、ええと」


 まずい。頭がパニックを起こしかけている。

 何て答えたら良いのか分からない。背後から口元に手が回ってきて、唇をふにっと押した。


「抜け出さないの?」


 異様に甘い声で駄目押しのように再び聞いてくる。

 何も言えずに固まっていると、体を横に押されてあっさり転がってしまった。

 そして彼もベッドに乗り上げてくる。今までの、おふざけ半分でじゃれてたのとは空気が全然違う。

 彼は私を見下ろして少し笑った。


「なんだ。エリー先生、全然護身出来てないじゃん」


「だって」


 声が情けないくらいに怖じ気付いている。

 彼を煽り倒して遊んでいた自分はどこかに隠れてしまった。

 マウントポジションからの脱出法は分かっているけど、今それをしようとは思えない。つまり自分は嫌ではないのだ。

 ただ怖いだけ。


 ––いや、ここで怖がってどうする。

 私は以前、カモンベイビーしようと決めたじゃないか。

 意を決して、言葉を口にした。


「だって、貴方が好きだから」


 そう言うと、彼の表情が少し和らいだ気がした。


「触っても良いんですよ、もっと」


 すると、スッと上体を起こしベッドから下りようとしたから、咄嗟に制服のネクタイを掴んで引き寄せた。


「うわっ、ちょっと! ゴメン、やり過ぎた。別に本気で何かしようと思っていた訳じゃないんだよ」


「じゃあ何ですか、貴方は乙女にここまで言わせて何事も無かったかのようにスルーしようと思っているんですか? ドキドキのし損じゃないですか。ほっぺにチューくらいして行って下さい」


「ほっぺに?」


「そう。ほっぺに」


 首を少し傾け、右の頬を差し出す。すると、ちゅ、とごく軽いキスをしてすぐに離れた。

 ……なんだか納得いかない。

 この程度で乙女心に火を着けた責任が取れると思わないでほしい。


「こっちにもして下さい」


 ネクタイを引っ張ったまま、今度は左の頬を差し出す。

 前世の神様も言ってたもんね、右の頬の次は左の頬も差し出しなさいって。その教えはきっと間違ってない。

 少し間が開いたけど左の頬にもキスしてくれて、嬉しくなって首に腕を回して抱き寄せた。


「ありがとうございます。大好きです」


 …………。


 …………あれっ?


 返事がない。

 ワガママすぎて怒ったのかしら。

 抱きしめたまま様子を伺っていると、彼の呼吸が荒くなっているのに気が付いた。体力底無しの彼が息を切らすなんて初めて見る。


「……どうしたんですか? 大丈夫?」


 声を掛けると、バッと顔を上げて見下ろしてきた。ビックリした。

 完全に猛獣の目付きになっている。


「大丈夫じゃ、ない」


 はーっ、はーっ、と息をしながらベッドと私の背中の隙間に片手を差し込み、もう片手を頭の下に入れてきた。きつく抱きしめられて息が苦しくなる。

 どうやら何かのスイッチを押してしまったらしい。

 ――いや、いいんだ。なんたって私はカモンベイビーなのだから。

 そのまましばらく息苦しいのを我慢していると、彼は頬にキスをしながら顔を少しずつ首の方に下ろしていった。

 彼の体が熱くなっているのが制服越しでもわかる。こちらにまで熱が伝染してくるようだ。少しずつ私の呼吸も荒くなってきた。暑い。

 それに気が付いたらしいハヤトは動きを止めた。

 おそるおそる顔を上げて、目を見てくる。

 何とも言えない沈黙が流れる中、私は一言、口にした。


「……しちゃう?」


 ハヤトはグッと目を瞑り、うつむいた。


「……しない」


 ハヤトの答えは“しない”だった。

 ホッとしながらも、どこか落胆したような複雑な気持ちになる。

 何度めだろう。もはや馴染みのある感覚ですらある。


「そうですか。いいですよ、それで」


 ふーと息を吐き、体の力を抜いて天井を見つめる。

 ……私は、前世と今生を足すと全部で三十三年生きている事になるけど、ほとんどが子供としての時間でしかなく、男性とどうにかなった事はまだ一度も無い。

 ちゃんと大人になった事が無いのだ。

 だからハヤトが今どんな気持ちで“しない”と言ったのか、よく理解出来ない。


 ……私、魅力ないのかな。


 内面はともかく、外見は自分では気に入ってるんだけどな……。

 でも女目線と男目線では見え方が違うのなんてよくある話。

 実際は、大して魅力がないのかもね。

 

 それにしても彼はなかなかの精神力の持ち主だと思う。

 男の人って、好みじゃなくても据え膳なら取り敢えず頂いてしまう生き物って聞いた事があるけど、この人にそれは当てはまらないよね。

 だって自分で言うのもなんだけど、私、据え膳どころか完全におすすめの試食品だったよ。

 カルロス姐さんも“アイツを落とすには生半可な事では無理よ”って言ってたし、元々そういう性格なんだろうけど……。


 私は隣でうつ伏せに倒れ込んでいるハヤトに顔を向け、少し踏み込んだ質問をする事にした。

 今このタイミングじゃないと口に出来ないような質問だ。


「ハヤトはあんまり女の子に興味がないんですか?」


 凄く意味深な聞き方になってしまった。

 けど、これでも言葉を選んだ方だ。

 だって、そういう欲求あんまり無いんですか、なんて聞けないもの。


 それでも、こんなデリケートな話を出来るくらいには信頼関係を築けていると思う。

 じゃなきゃこんな事聞けない。

 ハヤトは顔を上げ、体を横にして頬杖をつきながら答えた。


「まさか。普通に興味あるよ」


 そうなんだ。


「それにしては奥手ですよね。しようと思えばいくらでも女の子と遊べたはずなのに」


「うーん……。遊びに誘われる事はそりゃあったけど、深い関係には絶対にならないようにしてきたんだよ」


「なぜ?」


「結婚するつもりが無いのに手だけ出すのって、悪い事じゃん」


 眩しいほどのピュアな意見頂きました。


 なぜだろう、目を真っ直ぐ見られない。


「……孤児院にいた頃さ、よく見掛けてたんだよ。赤ちゃんとか、やっと歩き始めたくらいの子を連れた女の人が“一人では育てられないので預かって下さい”って泣きながら来るの。一人親になったのにも色々事情はあるだろうけど、死別じゃなきゃただの大人の都合だよね。そうやって置いて行かれた小さい子がさ、夜中になっても寝ないでずっと“おかーさん”って言いながら母親を探し回って……誰があやしてもずっと泣き止まないのが凄く辛かった。自分は大人になっても絶対に誰かにそんな思いはさせない、って思ってた」


 そっか……。

 そういう思いがあったのね……。

 ただのピュアじゃなかった。想像以上にずっしりくる理由だった……。

 昔の自分との約束か。

 これは尊重する以外に無い。今後は煽って遊ぶのは控えよう……。


「……じゃあ、私は?」


 結婚するつもりが無い訳じゃないんだよね。

 どうしてなのかな。


「色々あるけど、一番は大事だから」


「……よく分かりませんね。大事にするのとお手付きにしないのとは必ずしもイコールではないと思うのですが」


 別に詰めてる訳じゃなくて、ただ知りたかった。

 彼の、頭の中を。


「そうなんだけど、ほら、人生って何があるか分かんないじゃん。結婚するつもりで先に深い関係になったとして、結婚前に俺が何かの事故や病気で死んだりしたらアリスは困るでしょ? そうなった時に、俺が手を出してさえいなければ――まだ普通の幸せを掴む道が残されていると思うんだよ」


「不吉な事を言わないで下さいよ。貴方がいない未来なんて考えられません。貴方と出会う前ならともかく、今はもう他の人と結婚なんて絶対に無理です」


 すると彼は笑って手を伸ばし、私の頭を抱き寄せた。


「ありがと。その気持ちだけでも嬉しいよ」


 十代半ばで死を思うのってちょっと早い気もするけど、ご両親は早逝しているし、友人がいつの間にか失踪していた事もあるそうだし、冒険者という生き方自体もそうだし――私よりもずっとそういう場面を身近に感じる環境だったのだと思う。

 考え方がメメントモリになってしまうのも仕方がないというもの。

 だけど、既にいっぺん死んだ事がある私は思うのだ。

 いつ死ぬか分からないからこそ、悔いのない生き方をしたいと。

 早世した前世に悔いはあれど、既にアリーシャとして十五年生きた私は今を大事にして生きたいと思う。


 今の私にとって、悔いの無い生き方って――。


「だからさ、アリス。結婚した後いっぱい触らせてね」


 どこか残念さの拭えない発言に笑ってしまいながら頷いた。

 私にとって悔いの無い生き方は、この人を大切にして、理解を深めていく事だ。

 その上で笑って生きていければ、尚良い。


「よく分かりました。変な事を聞いてごめんなさい。私も、これから結婚するまでは貴方にあまり触れないように気を付けますね」


「えっ」


「何ですか?」


「何も無いのはちょっと……。今までくらいの感じでお願いします。たまにならもう少し過激な感じでも。最近は耐えるのもちょっと楽しいから」


「貴方ってたまに残念な感じになりますよね」


 そんなところも大好きなんだけどね!


「そうかな……。その『残念な感じ』って、アリス以外だと妹と幼馴染みとピートさんも言うんだけど。俺、そんなにアホかな」


「私はアホとまでは思いませんけど。あ、でも最近そのメンバーに理事長も加わりましたよ。良かったじゃないですか。理解者が増えて」


「理事長が? 何で?」


「貴方の三行レポートですよ」


「ああ、あれか……。でもアリスもこれで良いって言ったじゃん」


「だから私も人生を舐めきってるバカって言われましたよ。似た者夫婦だって」


 すると彼は満更でもない顔をした。

 良いんだろうか、これで。


「なるほど……。似た者夫婦か。悪くないな」


 ……さて、そろそろ話題を変えるか。


「ところで明日、アンナ様とランチをご一緒する約束を取り付けたんですけど」


「急だね。うん、それで?」


「誤解なさらないように先に言っておこうと思いまして。別に苛めたりしませんからね。少し話をしたいだけですから」


「へー。どんな話をするの?」


「特には決めてないですけど、内面を知りたいので家庭の話は聞かせて貰う事になると思います。でも、なかなか口を割らなそうな気がするんですよね……。本当は男性のほうが適任なんでしょうけど––あ、そうだ。ハヤトさん、貴方にも少し協力して頂こうかしら」


「何? 怖いんだけど」


「大丈夫。ちょっとした事ですから。ランチタイムを使っていただくので、ただでとは言いません。お仕事として、貴方に依頼を出しても良いですか?」


「内容による」


「そうですよね。ええと、大した事じゃないんですけど––」


 説明すると、彼は不思議そうな顔で言った。


「そんな依頼、初めてだよ。そんな事でいいの?」


「はい。きっと沈黙が多い時間になりますから、より効果的かなと思いまして」


 私とハヤトは、ベッドでごろごろしながら明日の打ち合わせをした。


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