20.★君に、決めた
★ヒーロー側視点です。
――遠く離れたある国の砂漠に、隕石が落ちてきたらしい。
その報せと共に指名の依頼が舞い込んできたのはもう何か月も前の事だった。
『隕石の周辺に湧き出る未知のモンスターの退治と、隕石から発生している魔力源の調査及びスポットの解消』
そんな内容の依頼だった。
正直、どうしてこんな離れた国の人間にわざわざ指名してまで依頼をしてくるのか分からなかった。
けど、話を聞くと、これまでにいくつかのAやSランクのパーティーが同様の依頼を受けて派遣されたものの、誰一人として帰って来ていないといういわくつきの案件で。
とても、危険な依頼。
「普通のSランクパーティーじゃ無理だ。今のところ、単独でSになったのは世界でもお前しかいない。きっとお前にしか出来ない事だ。……頼んだぞ」
ギルド長のピートさんが言う。頷いて、港町に向かい、向こうの国から派遣されてきたガイドと合流してそこから船に乗った。
それから一ヶ月、ようやく問題の砂漠に辿り着く。
同行してくれたガイドとはそこで別れ、単独で砂漠に踏み入った。ガイドは最寄りの街で待機し、故郷との連絡役を勤めてくれるという。
砂漠ではたくさんの冒険者パーティーと出会った。
彼ら、彼女らは隕石を中心にスポット化したおかげで湧き出た未知の黒いモンスターと戦い続けている。
街が無事なのは彼らのお陰だ。
だけど疲弊している。
早く解決してやらないといけない。
砂漠のほぼ中心に落ちたという隕石に近付くにつれ、未知の魔力は濃くなり、モンスターも加速度的に強くなっていく。
ふと気が付けば既に周囲に冒険者達の姿はなく、髪はとっくに黒に染まっていた。
大きな砂の丘陵を越えたところでようやく件の隕石を見付けた。
大人の男がうずくまったくらいの大きさで、黒くゴツゴツしていて丸く、辺りに不思議な魔力を迸らせている。
俺の髪の色で判断するならあれは闇の魔力なんだけど、何かが違うと勘が告げる。
と言っても空から降ってきたやつの事など考えたところで何か分かる訳がない。
砂漠で戦い続けている皆のためにも早く片を付けようと思い、剣に魔力を纏わせる。
あれの属性がわからないから、何の属性も与えず純粋な魔力だけを圧縮していく。
高密度に圧縮された魔力は白い光を迸らせ始めた。
このくらいであの魔力と相殺できるはずだ。
近付いて剣を振り上げる。すると突然空気がぐにゃりと歪み、黒い隕石は人の形に姿を変えてむくりと立ち上がった。
目がないのに目が合ったと感じる。
すると、頭部の口に当たる部分が何かを喋るように動いた。
【□□□、□□□】
声は出していなかったけど、確かに何かを喋った。
通常、モンスターは喋らない。びっくりしたけど、こういう時は先制攻撃に限る。
よく分からない相手に攻撃のチャンスを与えてはならない。人の形をした岩の塊に魔力を纏わせた剣を叩きつけるとそいつには亀裂が入り、みるみるうちに広がってバラバラと砕けて崩れ落ちた。
足元で細かい石の破片の山になったそれは、微弱ながら未だ魔力を失っていないようだ。
――足りなかったか?
……そんなはずはないんだけどな。
相殺に必要な魔力量を見誤るなんて子供みたいなミス、今さらするはずがない。
だけど事実として相殺できていないので、もう一度魔力を当てようと石に手をかざした。
その瞬間、石が動いて寄り集まり、手の形を作り出した。そいつは素早く俺の手首を握りしめてきて、悪意ある魔力を直接流し込んでくる。
乗っ取りだ。
抵抗し、逆に俺の魔力を流し込み乗っ取り返す。大した抵抗もなくそいつはあっさりと身体を明け渡し、そこに黒い石の山だけを残して動かなくなった。
――倒しても体だった物質が残っている?
魔物は魔力が寄り集まり固まったもので、倒したら空気に溶けて消えるもののはずだ。
やっぱり異質。この世界の者じゃないんじゃないだろうか。
ともかく、砂漠に流れる魔力を乱していた存在そのものが動かなくなった瞬間、スポットが急速に弱まっていくのを感じた。
これで強いモンスターは出てこなくなるだろう。
ホッとして黒い石を全てポケットに『回収』し、砂漠を後にする。
『回収』は俺が考えた魔法で、狙いをつけた物質の影を魔力で支配下に置き影の中に作った異空間に物質を落とす闇属性の魔法だ。
取り出す時はどこでもいいから影に手を入れればいいんだけど、驚かれるからいつもポケットから出す事にしている。ドロップアイテムの回収に使えてとても便利なんだ。
まだ自分も含めて生きている物は黒い魔力に染まってる時にしか落とせないけど、そのうち普段使い出来るようになりそうな感覚がある。
街に戻ってガイドと合流すると、ガイドは俺の姿を見て妙な顔をした。
「黒い。あと、紅い」と言う。
黒いっていうのは頭の色のことだろう。そのくらいは自分でも分かっている。
まだあいつの魔力が抜けていないんだろうか。スポットはとっくに消えているんだけどな……ていうか、紅いって何だ?
そんな色、今まで出たことがない。
一番紅そうな火の魔力だってせいぜいピンクに染まる程度なのに。
……あいつ、一体何の属性だったんだろう。
不思議に思いながら、ガイドにはそのうち元に戻ると説明し、通信用魔道具で故郷のギルドと連絡を取ってもらった。
そこでスポットが解消できた事、隕石それ自体が魔物だった事、そいつの脱け殻を回収した事を報告すると、ピートさんはその国の研究機関に石を預けてすぐ帰国するように言ってきた。
妹が腕を失ったらしい。
ガイドに石を預け、急いで帰国すると、妹は家で普段通りの生活をしていた。ただひとつ違うのは、右腕が木製になっていたというところだけ。
腕を失った経緯を聞きながら脱力感でテーブルに臥せり、木製なのに妹の思い通りに動くその義手を不思議に思いつつぼんやり眺める。
妹――ラヴは言った。
「これね、ステュアート公爵家の方々が私に直接くれたのよ」
「ステュアート? あの、魔道具の?」
国内どころか、俺が先日まで行っていたあの遠い砂漠の国でさえ名の通った名家だ。
製法そのものは秘匿されているものの、現代の生活に欠かせない魔道具を唯一作り出せる家。今じゃ世界の製造と流通の頂点に立つと言っても過言ではないあのステュアート家の人間がなぜ、どうやってラヴと会ったんだ?
「うん。凄いよね。こんなの初めて見るよ。新作なんだって」
「くれた? 何で? あんな、下手したらそこらの王家より影響力のありそうな貴族がどうして見ず知らずの平民に」
「まだ研究段階なんだって。試作品だからお金は取らないし、使用感を報告してもらえたら有難いって言って――そうそう! 兄ちゃん、私、明日からステュアート家で働かせてもらうんだ」
「はぁ!? 何で!?」
「きっと気遣ってくれたのよ。今日うちにお嬢様が直接来てね、誘ってくれたの」
「直接、うちに来て?」
信じられない。
あんな高位貴族のお嬢様が……何の縁も所縁もない平民に義手をくれた上に、わざわざうちに来てまで働き口の世話をするなんて。
あり得ない。
そんな都合のいい話、ある訳ない。
貴族は必ず嘘をつくものだ。今まで何人の平民が貴族に関わって潰されていった?
何か裏があるとしか思えない。
「……それは、明日は俺もご挨拶に行かないといけないな」
「兄ちゃん、変な事しないでよね。お嬢様は話しやすくて優しい人なんだから、何も心配する事ないの。お礼だけしたらすぐに帰って」
「わかったよ。……お嬢様のほうが、酒場の給仕よりは安全だろうしな」
「もう! 兄ちゃん! 最低!」
平民だと思って何か妙な事をしたら許さない。悪意を弾く結界を使って真意を見てやる。
当然怒るだろうが、こっちも身を守らないといけないんだ。仕方ないだろう?
喧嘩をするつもりで、翌日ステュアート家を訪ねた。
――――
次回、即デレの巻
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