3回生になり、そして舞台衣装

2回生も、だんだん終わりの時季になっていく。

3回生になる時に、文学部なのか服飾部なのか、どちらに進学するかを決めなければならない。

「みんな、どっちの学部に行く~?」

って、学校の教室で、ユタポンは聞いてきた。

「そやな~、どうしようか」

ボクは、どっちの学部も好きなので、まだ、はっきりと、どちらにするか決まってない。

ユカリンは

「うちは服飾部かな~」

って言っている。

「ユカリン服飾部なんや」

「まあ、変更もできるし、とりあえず服飾部にしとこかな~って思って...」


どちらに進学したとしても、この学校では、どちらの講座も学んでいける。

どちらの授業も選択できる。

しかも、1度、どちらかに決めても、何度でも変更できる。

この学校は、そういうところは、めっちゃ良い。

どっちに行ったとしても両方の授業を選択して学んでいけるのだから同じようなものではある。


ユタポンも

「うちも服飾部にしとこかな」

って言ってる。

「えーっ?ユタポンも服飾部のほうに行くんや~」

「まあ、とりあえずね...」


「じゃあ、ボクは文学部に行ってみるか」

「それもまた、ええかもね」


「そやろ!ちがうのも、また、ええかもしれへんやろ~」



学校から寮の部屋に帰った。

寮のボクの部屋で、夜、寝ていたら

「こんばんわ~」

って、女の子の可愛い声、聞こえてきた。

最初は、夢でもみているのかなって思って、特に気にもしなかった。そしたら、また

「こんばんわ~」

っていう、女の子の可愛い声、聞こえてきたから

「えーっ?誰だーっ?どこで女の子の声、してるんだーっ?」

って思った。


そしたら、また

「うちの部屋へ、ようこそ~」

って、その女の子の声は言っている。


だからボクも

「あっ!こんばんわ~」

って、応えてみた。


「あ、そうだ!幽霊だと思ってるんだったら、それは、ちがうわよ~」

「えーっ?幽霊ではないんですか?」

「ちゃんと、ほかの街で、立派に生きてるし...」

「じゃあ、なんなんですか~?」

「前、この部屋に住んでたのっ!」

「えーっ?じゃあ今は、この部屋じゃなくて、どこに住んでるんですか~?」

「ほかの街って言ってるやないのっ」


「えーっ?なんで声だけ聞こえるのーっ?」

「そういう能力あるのっ!」

「能力~?」

「そうよっ!離れているけど、声を相手に伝えられる能力なのよっ」

「えーっ!凄いーっ」

「練習したのよっ」

「練習ーっ?」

「訓練というか特訓というか...」

「えーっ?そんなこと出来るの凄いーっ」

「そうでしょ」

「今はどこにいるんですか?」

「それは内緒...」

「あっ、そうなんですか...」

「まあ、言いたくなったら言うかもしれへんけども...」


「それで、なにか用ですか?」

「いや、用はないんやけど、ちゃんと相手に声、届くかな~って思って、『こんばんわ~』って、やってみたの...」

「ちゃんと届きましたよ」

「そうみたいやね」

「良かったですね」

「そうやな~。じゃあ、今日はこれくらいにしとくわ...」

「えーっ?もう行っちゃうんですか?」

「うんっ!もう行っちゃう...」


「あっ!そうだ!」

「えっ?なに?」

「えっと...毎晩、優しくボクの体を抱きしめてくれてたのも、あなたなんですか?」

「えっ?えへへ...そうやで...照れちゃうな~」

「あと、キスもしてくれてたでしょ」

「あははは、わかってもーた?」

「なんとなく、そうじゃないのかな~って感じで思ってましたけど...」


「でも凄いな、自分、そんなん感じるなんて...」

「ちゃんと感じてましたよっ!でも、なんでまた、そんなことを...」

「いや、それも、できるんかな~って思って、毎晩、実験的にやってたんやけど...」

「実験的に?」

「そやねんっ!離れてても、感じるもんなんかな~って思って...」

「ちゃんと感じてましたねっ」

「それは良かったわ...じゃあ、戻るわね~。バイバイ~」

「えっ?ちょっと待って...もしもし...もしもし...もしも~し!...」


名前とかも聞こうと思ったのに、その日は、それだけだった。

その日の晩は、もう存在感もなくなってもた。

なにも特に存在を感じなくなってもた。



学校でユタポンとユカリンに、そのことを話したら、びっくりしていた。

「まあ、でも、そういうことも、できたりもするのかもな~」

ってユタポンも言っている。

ユカリンも

「抱きしめられたりキスされたりを感じるのは、あり得そうやけど...声を聞けるっていうのは、ちょっと凄いことかもな~」

「まあな。何か言ってることを感じるなら、ありそうやけど、しっかり声として聞こえるのは、それもあるのかもしれへんけど、ある程度、特訓せなあかんかもな~」

「そやろな~」

「でも声も、ありえそうな気もするけどなっ!」

「そやな~」

「可愛い女の子で良かったやんっ!」

「ほんま、それなーっ!」


3回生になって、ユタポンは文学部演劇、ユカリンは文学部美術、ボクは服飾部に、それぞれ進んだ。

でも、授業は共通なので、3人で同じ授業を選択している。


そして3回生になったら、企業研修に行く。

ボクは人魚のミュージカルを希望して、1か月間、ミュージカル劇場でお仕事出来ることになった。

こちらも、ちゃんとしたお仕事なので、1か月の給料を頂ける。


「きゃあああ、あやめちゃん、いらっしゃい~」

って、みんな歓迎してくれた。


ボクは衣裳部でお仕事することになり、部長の方に、まず衣裳部全体を案内してもらい、ここでのお仕事の内容の説明を聞いた。


みなさん、衣裳の製作をされている中で、ボクは衣裳の素材を切り抜いてファイルするお仕事をまず任された。

次回公演予定の最新作ミュージカルの出演者の着る衣裳の素材を小さくカットして、それを台紙に貼り付けて、どの役者さんの着る衣裳は、どの素材なのかをはっきりわかるようにファイルしていった。


実際にミュージカルで使われる衣裳に触れられて、めっちゃ新鮮だった。

遠くからでは、どんな素材なのか、よくわからない舞台衣裳も、近くで手に取ってさわれて、感動してしまった。


「人魚の役者さんたちは、こうやって衣裳を着ているのかあ~」

っていうのもわかって、めっちゃ勉強にもなった。


時には舞台稽古を見させて頂くことも出来た。

客席に座って稽古を見ていたら、人魚のダンサーさんたちはボクに手をふってくれた。

ミールちゃんも、ボクを見つけると、めっちゃ笑って手をふってくれたから、ボクも思わず

「ミールちゃあああん」

って叫んでしまった。



それから、なんと、ミシンも使わせてもらえた。

最新作のミュージカルの衣裳を製作している部屋で、ボクもミシンを使って、衣裳製作を手伝った。企業用のプロの使ってるミシンだった。足踏みやら電動やら、色んなミシン、置いてある。色んなミシンを使えて、めっちゃ感動だった。


衣裳合わせにも参加させてもらえた。ボクは人魚のダンサーさんたちの衣裳の着付けのアシスタントとして、人魚のみなさんに実際に衣裳を着てもらい、体にフィットするように、お直しもさせてもらった。

「あやめっち~」

って言いながらミールちゃんも現れた。

「あっ、ミールちゃんだあ。今日は衣裳合わせですね」

「よろしくね」

ボクはミールちゃんの衣裳を用意して、ミールちゃんに着てもらった。そして、ちゃんと体に合ってるかどうかを確認した。

袖丈をもうちょっと長めにして、着丈も数センチ伸ばして...っていうふうに、人魚のミールちゃんの衣裳を直していった。

「あやめっち、ありがとう」

「どういたしまして。ボクにとっても、お仕事の良き経験になりました。ありがとう」


最後に衣裳部の部長さんから

「就職の時には、うちも、ぜひ希望して下さいね」

って言って頂けた。


企業研修はボクにとってめっちゃ刺激的で、学校に帰ってから、研修の成果をみんなに発表した。学校のみんなも興味深く、ボクの企業研修について聞いてくれていた。

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