第七話 不動の一声

 少し前に読んだ御本に、こんなことが書かれていた。 『大切なことは大抵、失ってから気づくものだ』と。

 御本は若い男女の恋物語であった。該当の文章は、男が病で死んだ後、その亡骸を見守る女が口にした言葉として登場した。

 最初読んだときは、この言葉の意味がよくわからなかった。

 だってそうだろう。大切なものなんて、失う前からそうだとわかっているもののはずだ。大切な人も、大切な道具も、場所も役割もすべて、この手の中に最初からあるのだ。それに気づかないなんて、おかしい。

 ずっとずっと、そう思っていたのに。

「………………」

 今になって気が付くなんて。このお店が一番輝いて見えるのは、お客さんの笑顔でいっぱいになったときだったということに。

「…………」

 最低限の明かりしかない店内は、暗く寂しく、そして酷く狭いように感じた。

 机も椅子も全てある。お店の広さは変わらないはずなのに。

「……………………」

 この雨音をかき消すものがないだけで、どうしてこんなに、心が苦しくなるんだろう。

「アサヒ……」

 そっと、傍にやってきたお母様が、私の肩を抱いてくれる。じんわりと伝わってくる体温が、私の不安を溶かしてくれるような気がする。

 しかし同時に、感じてしまうのだ。

「…………お母様……!」

 お母様の心を支配する、暗く冷たい氷の存在を。

 そうだ。今回の件で一番辛くて悲しいのはお母様なのだ。お父様との約束も守れず、私を不安な思いにさせ、すべてを失ったお母様の方が何倍も辛いはずなのだ。

 それなのに、それなのに。

「…………ごめんなさい……お母様……ごめんなさい……!」

 私には、お母様にしてあげられることが一つもない。

 お母様を慰めてあげることすら、私にはできない。

「……何であんたが謝るんだい」

 笑っているのか泣いているのか、声が震えている。

「あんたは何も悪くない。 ……むしろ偉いよ。 あたしに怒って八つ当たりして来たっていいのにさ……一緒に泣いてくれて、ありがとう」

「そんなこと……!」

 思わず顔を向ける。目を真っ赤にしたお母様の笑顔が見える。

「いいんだよ……いいんだ。 ……あ~あ! キハルさんはこんなときにどこに出掛けちまったんだろうねぇ? あの人の方がよっぽど薄情だ! そう思わないかい?」

「きっ……キハルさんはそんな悪い人じゃないもん!」

「おっ、元気になったねぇ?」

 しまった。何が『しまった』なのかはよくわからなかったが何故かそう思った。気恥ずかしくなって顔を逸らす。窓の向こうには、未だ厚い雲が広がっている。

「キハルさん…………」

 お店の前から突如走りだしたあの後ろ姿。今まで一度も見たことがない姿。

 顔を見なくたってわかる。キハルさんは、怒っていた。

 乱暴者のお客さんを追い出したときとはわけが違う。あんな余裕は感じなかった。

「…………」

 キハルさんは、きっと地主さんの所だ。

 お母様は何も言わないが、私にだってわかる。

 地主さんからお店を取り返そうとしてくれているのだ。

「…………危ないことは、しないでね…………!」

 キハルさんが私にとってどれだけ大切な人だったのか。今だけは、理解したくない。


 長い長い廊下が続く。高い高い天井を従えて。

 暗い暗い道を走る。揺れる揺れる蝋燭をかき消して。

「…………」

 もう何度目になるだろう。この言葉を口にするのは。

「……広いな……本当に……」

 ぽつりぽつり、口から漏れ出るこの言葉を。

 女将さんと別れてから私は、一直線に大地主の屋敷にまでやってきた。正確な場所は知らないままだったが、この手の者どもは巨大なお屋敷でも構えてふんぞり返っているに違いないと考え、この町で最も巨大で最も悪趣味な建築物のある所まで飛んで行ってみたのだ。

 結果は大当たり。派手なだけで脆い門扉を破壊して乗り込んでみれば、出迎えたのは刀を持った野郎ども。数だけ多くて腕の不確かな雑兵の群れだ。いかにも悪趣味な地主らしい。今までの仕事の経験が意外なところで生きた瞬間だった。

 そこから先は単純作業。適当に大きな廊下を進んでみて、それらしい部屋を見つけたら突っ込んで、暴れる。大抵どこの通路にも兵士がいて、どこの部屋でも戦闘態勢を整えていた。準備が良いようで何よりである。その割に歯ごたえがなさすぎるが。

「……まだ着かないのかな……地主の部屋…………」

 そこまでいけばきっと、女将さんから奪ったあの店の権利書が出てくるはずだ。それさえ取り戻せれば、女将さんは――

「あっ」

 突き当りを右折したところで、人と目が合った。

「うおっ!」

「来たぞッ! 侵入者だ!!」

 十人以上の武装した男たちと。ばっちりと。

「仕方なし……!」

 こんな狭いところで、と思わないでもないが。腹をくくるしかない。

「はっ」

 気合一閃、飛び掛かる。

「うおおおっ!?」

 大上段に振りかぶられた刀の間合の更に奥まで一気に踏み込み、隙だらけの胴体に肘を打ち込む。それだけで男の体は力を失い数歩後退るので、その動きを利用して思い切り体を後方に蹴り飛ばす。

「ぐおっ!」

「じ……邪魔だ……ッ!」

 そうすれば後ろに控えていたやつらは動けない。吹っ飛んだ男を追いかけるように助走をつけて走りこみ、仰け反った胸板を踏み台代わりに大きく跳躍。二、三人の敵兵ごと床板に押し付けて、彼らは終わり。

「次……っ」

 空中に躍り出た私を見上げる剣士たちの刃が見える。あれを喰らうわけにはいかないが、半端に避けても逆に危ない。あえて体を捩じって距離を稼ぎ、彼等の只中に落下、着地。右手は背後の傘の柄に。

「はいっ!」

「え……うわあああぁぁっ!?」

 引き抜いた番傘で廊下を撫でるように一振り。一回転する頃には周りに立っていた剣士連中はみんなで仲良く雑魚寝中。悶える彼らには悪いが、良い年した男の身をくねらせる姿になんて何の需要もないので、何とか立ち上がろうともがく連中の頭に容赦なく傘を降り下ろして深い眠りに旅立ってもらう。

「隙ありっ!」

「ないよ」

 突然の声。予想通りだ。振り返らずに傘を背後に回し、開く。そんなことでは刀の一撃を止めることなど到底できないが、開いた傘が剣士の腕の動きを妨害できれば話は違う。果たして小さな舌打ちと共に攻撃は消失。一方私は傘を閉じつつ大きく旋回。舞の一種のようにするりと不意打ち剣士の背中を取ると、傘の柄を首に引っかけ、引き倒す。

「そいつらよろしく」

「ぎゃっ!」

 顔面から男の海に飛び込ませる。これで彼もあがり。まだ意識のあった雑魚寝衆も完全な眠りについてくれたことだろう。

「さァ、あとは――――」

 ぐっ、と体勢を低く。このまま転んでしまいそうになるほど、前傾姿勢に。

「くっ、来るな……来るな……ッ!」

 視線の先の遠方には、震える腕で刀を握り締める若い男が一人。それから腰が引けたのかその場にへたり込んだり、或いは逃げ出そうと後ろを向く者達が複数名。立ってる奴で最後か。

 傘を持つ腕を前に。柄頭を真上に。

「来てほしくなけりゃぁね…………」

 みしり。足元の床が悲鳴を上げる。

「――そんなところに立たないことだね!」

 ばん!

 踏み込んだその瞬間に走り出す。

 走り出したその直後に振りかぶる。

 振りかぶったその直後には、獲物はもう、目の前にいて――――

「せい……っ、やあッ!!」

 傘の腹が正確に、男の首を討ち据えた。

「が…………っ、は…………!」

 頭から勢いよく体が吹っ飛んでいく。半回転して床に後頭部を強打。大きく跳ね上がった体が逃走者の背中に激突。塊になって一緒に吹っ飛んでいく。

「…………」

「ひぃ…………っ!」

「嘘だろ……あんな……!」

 そうしてごろごろ転がって、向かいの壁に激突したところで男たちの動きは止まった。もうぴくりとも、動く気配はない。

「…………加減が分かんない……」

 傘を担ぎつつ、思った。

 勢い任せで番傘なんて借りてくるんじゃなかった。

 もっと他に、武器になりそうなものを持ってくるべきだった。

 例えばそう、刀とか――――

「……これはひどいな」

 ずしり。

 大きく床がたわんだ気がした。

「…………今度はなんだい」

 吹っ飛んで行った男の隣に、別の男が立っている。

 この高い天井でも窮屈そうな大男だ。突き当りの通路から出てくるのが見えた。こいつも地主の仲間だろう。

「ウツギ様……ッ!!」

「お……御助けを……!」

 周囲で頭を抱えていた連中が泣き叫ぶ。絶望の中に希望を見出したとでも言わんばかりの声だ。長い長い洞窟の先に、出口の光を見つけたときのような。

「うるさい」

 傘を一振り。それだけで男どもは泣き止んだ。断続的に響く鈍い衝撃音が、男の足音にかき消される。

「お前がやったのか……」

 一歩一歩、大きく踏み出して。

 否。あれは恐らく、あの男の通常の一歩……。

「なるほど確かに、化け物の所業だな」

 他の雑兵とはわけが違う。

 明らかな強敵。それも、人の理を超えた。

 目の前にまでやってきた男を形容するのはどんな言葉がふさわしいか。壁か。山か。熊か。

「…………他人のこと言えんのかい」

 恐らく最適は『怪物』だろう。


 あの男、ウツギと呼ばれていた大男が刀に手を伸ばしたとき、私はとっさに大きく後方に飛んだ。受けるでも返すでもなく、攻撃を回避しなければならないと、本能的に察知した。

「く……っ」

「…………」

 結果。その選択は正解だった。

「う……っそだろ……?」

「ふむ……」

 床が、砕けていた。

 ただの刀の一撃で。

 大槌でも振り回したかのように、粉々に。

「……っ、やっぱバケモノだあんた!」

 叫びつつ、振り返る。

 こんなところでこいつとやり合うわけにはいかない。

「逃げる気か?」

「当たり前でしょうよ!」

 床を蹴って飛び出す。一歩一歩の踏み込みで大きく前に跳躍する。しかし極力低い位置を飛ばなくてはならない。高く飛ぶ分、それだけ距離を稼ぐことが出来なくなる。

「追ってくるよな…………」

 ばん、ばん、ばん。倒れ伏した兵士どもを避け、飛び石のように廊下を踏みしめつつ後方にも気を配れば、ウツギもこちらに疾走しているのが見て取れた。ただの全力疾走。しかし足の幅と筋力がまるで違う。こちらが必死になって作っている距離をいともたやすく食い潰してくる。このままではいずれ、そう遠くない未来に追い付かれてしまうだろう。

「化け物野郎が……っ!」

 壁を蹴飛ばし何度目かの曲がり角を通り過ぎようとしたそのとき、背後に悪寒が走った。

「!」

 このままでは危ない!

「何が…………っ、ぐっ!?」

 咄嗟に体をひねり、両腕で体を抱えるように防御の構えを取る。

 その上から飛んできたのは、人間の体だった。

「こ……これは……! お前……っ!」

 私が倒してきた兵士の体だ。

 気を失ってはいるがまだ息はあるはずだ。それをこいつ。軽々と。

 いや、ちがう。重要なのはそこじゃない。

「追いついたぞ」

「しま…………っ!」

 ウツギに捕まる。

 そう考えたときにはすでに、私の体は屋外にあった。

 何が起きたのか。それは考えるまでもない。

 ウツギの拳を受けてしまったのだ。

 あの兵士の体越しに。

「ぐ…………っ……」

 辛うじて受け身は間に合った。痛む背中を庇いながらゆっくり立ち上がってみれば、目の前には顔中から血を流した男の体。

 もう、息はない。

「…………思い切り殴ったな……肋骨が沈んでるぞ…………。 仲間じゃないのかこいつ」

「仲間だ」

 自分が開けた大穴を悠々と潜ってウツギも庭に出てくる。壁を破壊するような一撃を繰り出しておきながら随分と余裕なものである。ゆっくり歩みを進めながら、口を動かす。

「仲間なら何故武器にしたのか……そう言いたいのだろう? 『仲間だから』だよ。 ……こいつらの役目は屋敷の警護だ。 しかし、お前ひとり捕らえることもできずあんな醜態を晒した……もうこの先、まともに生きていくことはできない。 だからせめて役に立ってもらったのだ」

 お館様が与えぬ慈悲をくれてやったのだ。さも当然のようにウツギは言い放つ。その顔に後悔の念もなければ、加虐の愉悦もない。本当に心から、あれが仲間のための行為だと思っている。

「……今までいろんな屑野郎の仕事引き受けてきたけど……お前が一番危ないよ。 寒気がする」

「雨のせいだろ。 ……それともお前は、敵に同情する性分なのか?」

「まさか」

 走るとき背中に回してきた傘を引き抜く。持つだけでわかる。柄が中心から折れている。背骨の代わりに折れてくれたのか。有り難う。

 おかげまだ、大丈夫そうだ。

「ゾッとするのは……お前の独りよがりな善意にだよ!」

 敷石を飛ばして走りこむ。視界の先ではすでに、ウツギが刀を抜いていた。力では勝てそうにない。こうなれば、手数で勝負だ。

ッ!!」

 片手で握った傘を右から振るう。難なく刀で受けられる。予想通りだ。構わず二度、三度と攻撃を繰り出す。四度目の振り上げ。ウツギの左手が動く。

「りゃッ!」

 待っていたのはこのときだ。振り上げたままの傘をそのまま背後へ。背中の筋肉を総動員して体を大きく捻り、遠心力を込めた左からの打撃を叩き込む。

「ぬ……っ」

 咄嗟の反転攻撃にウツギの反応は遅れた。好機は逃さない。動きを止めぬまま、右切り上げ、逆袈裟。再びの左水平切り――

「無駄だ!」

「!」

 突如ウツギが左手を突き出した。

 力士の張り手のように、真っ直ぐ傘を狙って。

「なにを……!」

 答えはすぐに出た。

「な…………」

「…………」

 傘が折れた。中央から真っ二つに。

「こいつ…………!」

 既に手負いとはいえ、なんて馬鹿力だ。

 驚愕の瞳と共にウツギを見据えれば。

「ふ…………っ…………」

 刀を真っ直ぐ天に刺し、右腕を引く。まるで矢をつがえる狙撃手のような奇妙な構えを取っていた。

「まっ……!」

 まずい。

 脳裏に過るはあの廊下での邂逅。あの破壊しつくされた、床板。

「“不動ふどう一手いって”……」

 筋肉が、引き絞られる。

「……“火炎不動王かえんふどうおう”!!」

 全力で飛び退る体のすぐそばを、鉄の輝きが通り過ぎた。

 それはさながら揺らめく炎のように歪な軌道を視界に残し、一直線に庭めがけて落下する。

「うおおおおっ!?」

 庭が、割れた。

 比喩でも何でもなく、目の前の庭が、真っ二つに弾けた。

 その衝撃はすさまじく、敷石はばらばらになりながら空に舞い上がり、私の体も軽々と、後方に吹き飛ばされてしまった。

「が……っ、は…………ああ……っ……!」

 無様に泥の中を転がり、石灯籠にぶつかってようやく止まれた。目の前の空間が霞んで見えるのは雨のせいではない。土埃のせいだけでもない。

「……っつ……」

 頭を打った。鈍い痛みと共に視界が歪む。灯篭を支えにできるのがせめてもの救いか。

「……確かに当てたと、思ったのだが……」

「仲間なんか武器にするからだろ。 残念」

 そんな中でもウツギの姿は揺らがなかった。ゆっくりと、ゆっくりと降り下ろした剣を持ち上げ。ゆっくりと、ゆっくりとこちらに向き直る。

「我が“不動壱刀流ふどういっとうりゅう”に有るまじき失態だ……。 どう責任を取ってくれる」

 不動。そういえば確か、さっきも。

「何だいそれ……刀の持ち方とか突き出した腕とか……不動明王の真似事かい」

「いかにも」

 突き出された腕を見る。さっきは気が付かなかった。あの腕、布が巻かれている。

 いや、布ではない……?

「剣とは闇雲に振るわれるものに非ず。 『不動』の名の下に攻撃を耐え忍び、必殺の一撃のみを繰り出すことに我が剣の才の全てを注ぐ…………それが“不動壱刀流ふどういっとうりゅう”だ。 そのための、この肉体だ」

 改めて見れば、ウツギの身体の鍛え方は過剰だ。徹頭徹尾、一部の隙も無く筋肉の鎧に覆われている。それは名の通り『鎧』を着込むための鍛錬だったのだ。そしてその鎧がそのまま『武器』にもなる。私の手数重視の攻撃など、最初からこの男には無意味だったのか。

「流石に刃まで体で受けるわけにはいかないので、この掌には鎖が巻きつけてあるのだが……どうやらお前には不要な用意だったようだな」

 数歩進んだところでウツギが立ち止まる。ゆっくりと、腰を落としたあの構え。次だ、次が来る。

「この『一撃』で死んでもらうぞ……!」

「来る……っ!」

 一心に、飛び出す。

「“波切不動王なみきりふどうおう”!!」

 両者の動き出しはほぼ同時だったと思う。

 ウツギの剣が水平に駆け、私の体が空中を舞う。

「…………!」

 結果、不動王の弐撃目は石灯籠を玉砕し、私は辛うじて命を繋いだ。

「よし…………っ!」

 着地から、更に前転を繰り出し距離を取る。目指す場所は、すぐそこ。

「…………避けるなと言ったろうに」

「嫌だね! そんな攻撃、受けるもんかい!」

 たどり着いたのは最初の立ち位置。私の体が飛ばされてきた場所だ。

「借りるよ……」

 ここにある、これが欲しかった。

「……刀?」

 そう。刀だ。ウツギに放り投げられ、拳まで受けて命を絶ったこの男の刀。こいつはどうやら武器を抜く前に私に倒されたようで、まだ腰に剣を帯びていたのだ。鞘から勢いよく引き抜き、立ち上がる。

「往生際の悪い」

 一連の流れを黙って見ていたウツギが鼻で笑った。その瞳にも侮蔑の色が見える。

「今更それで何が出来る? ……言ったはずだぞ、いくらお前が素早かろうと半端な攻撃では俺の『不動』を崩せんと。 ……刀を握ったところでそれは変わらない。 刃なら、この腕の鎖で…………」

「い~や、十分だね。 これで」

 長い説教は遮るに限る。特に戦場なら、尚更。

「……何だその構えは」

 そこで初めて、ウツギの瞳に疑問が浮かんだ。黒い両目の中にいる私の姿にようやく、違和感を覚えた。

「別に。 ……お前の“不動”と一緒だよ……。 これが私の“型”だ」

 今にも倒れそうなほどの前傾姿勢。

 右手に剣を握り、体の前へ突き出す。

 刀は、逆手に。

「そんな構えで、俺を斬るだと……?」

「斬れるでしょ」

 鎖の防御も、不動の矜持も関係ない。

「……だって『首』なら、刃ぁ通るんでしょ?」

「首だと……何を言って……!」

 次の台詞を聞いたとき、ウツギの顔に更なる彩が浮かび上がった。

「『首切り椿』が首切って何が悪いよ」

「首切り……椿…………!?」

 明らかな動揺の色が。

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