第65話・イベント進行:始まり

 ゲームの将来に不安になる中、翌日、楽器を店に置く店長さん。アキ達も様子を見に来ている。


 多くの人、特に年寄りが楽器に目を輝かせて手に取り、昔を懐かしむ様子を見ていた。


「アッシュさん」


「アキさん」


「あの、顔色が優れないのですが、なにかありました?」


 楽器を持ってくるのに忙しいんですか?と聞いてくるアキ。それを首を振り、シンクや輝夜と手をつなぐ。


 演奏会のようなことをすると老人達が言って、アキと共にそれを見守る。


 音だけの演奏が始まった。それは懐かしくも悲しい、心に響く曲。


「歌詞が分かればいいのですが」


 司祭様が残念そうに呟きながら、曲を聞いていると、アイテムボックスが開いて、中から『???の記憶』が出てくる。


 それに周りで様子を見ていたプレイヤーもいて、彼らもまた、掲示板に情報が載る前から確保していたり、情報が流れて確保した記憶を何個か持っていた。


「なんだイベントか?」


「曲がなにかのキーなのか?」


 皆静かに耳を傾けていると、急に歌声が響き渡る。


 歌声の主を見ると、アキが静かに歌い出していた。曲と歌が合わさり、『哀愁鎮魂歌』が流れていくと共に、光がアキのもとに集まる。


 そして、メガネが割れて、綺麗な女性が素顔を見せた。


「あっ、ああ、そうか、わたし、私は」


「アキさん?」


 疑問に思うと、アキはふわりと浮かび上がり、長い髪がより長くなる。


「ああもう、あのおバカ。私の記憶に細工までして、本当にもう!」


 アキ?はそう怒りながら、アッシュに向き合う。


「アッシュさん、海神と仲が良かったですが神と知り合いですか?」


「はあ、春の女神を始めに、何人かと交流があります」


「すいませんが、誰かここに連れてきてください。それと夏の神を捕まえて」


「それはいったい」


「記憶を取り戻しました。私は『秋の女神セレナ』。この聖国を守るように創造神に言われている、四季の神の一人です」


 なんか夏の神がやらかしたことだけは分かった。


 ◇◆◇◆◇


 聖域がある聖国の城、そこで神々とプレイヤーが集まり、籠城する夏の神に攻め入った。


「なんでこんなにスムーズに進むの!? 攻城戦強すぎじゃねえ皆さん!?」


 神がやると城を壊すのでプレイヤーが神の代理で、夏の神が生み出したマスコット(パイナップルのような生き物)を倒して、最短で攻略するトップギルド。


 なぜこんなに早い方と言えば、イベントに備えて城の作りを観察したり、夏の神が怪しいと知り、見張っていたプレイヤーがいたりと、スムーズに話が進んだから。


「一番の原因は怪しすぎたんだよな夏の神」


「ワイ、彼奴はいつかやると思っとたねん」


 魔神がアッシュの隣で魔剣の素振りをする。プレイヤーに案内されて春の女神達がついに王様を盾にしている夏の神のもとにたどり着く。


「ひいぃぃぃ、お願い聖王!俺が悪くないか、罪を軽くするように説得してください!」


「そう申されてもなにがなんやら」


 困惑する王様に対して、モードレッド達も同席する中、夏の神はボコボコにされてから、秋の女神が説教する。


「あーなーたーねー………バカンスしたいからって人の聖域に勝手に住み込むのは千歩譲って許しますが、勝手に経営などに口出さないで欲しいんです! しかも他の神にバレるのが怖いからって、記憶を奪うのは何事ですか!!」


「ひいぃぃぃぃぃ、ゆるしてちょんまげ!」


 城全体に響く音でビンタされる夏の神。魔神がギロチンのように剣を振り下ろす準備をする。


「私言いましたね!ここは普通の聖域ではないと、創造神様から任されてるところなんですよお!」


「えっ、けどやばめなもんがないから、言ってるだけと思って」


「あーるーんーでーすー!湖の底に封印してるんです!。創造神様から誰にも言ってはいけないから具体的に言ってなかっただけで、あーるーんーでーすー!」


「なんですっと?!」


 夏の神がやべっと呟く。薔薇姫様達がお仕置きする顔から仕事をする顔に変わる。


「秋の、具体的なことは言えるか」


「正直アキとして過ごしてた頃も、おバカがしてることは頭に入って来たので分かります。湖の水をお湯として消費してるから、本当にやばいです」


 湖は何もせず、ただ雨のみで封印する形になっているらしい。その水を消費しているから、水の力が弱まっている可能性が高い。具体的には水の中の物を見つけることができる。


「水の中の物?」


「ええ、なにもしなければなにも起きないか、力が溢れて、どうにかなるでしょうが。いまはまだ何も起きていないようですので安心してください」


「そうか、それはよかった」


「まったくだぜ、湖に関しては任せてくれ。安全に利用するように旅人に頼んでいるからね」


 その言葉にプレイヤーが、ん?と首を傾げる。


「そんな話、聞いてるか?」


「………聞いていない。ほぼ全プレイヤーは記憶探ししたりしてるはずだ」


「えっ?湖が大事だって知ったら、喜々として護衛を名乗り出たぜ」


「………お前、我々が旅人の中に困った者もいると言ったの忘れたか?」


「………あっ」


「誰に頼んだ!」


 春の女神は首根っこを掴み上げ、薔薇姫が影の鎌を取り出したところで、城の奥から黒い光の柱が出現した。


「えっ」


 こうしてイベントは大きく動き出す。

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