第63話・楽器と最前線の事情話

 翌日、楽器作りと装備の方だが、装備はもうすでに良いのができた。


「これは俺が責任を持って、ちゃんとした奴に渡します」


 有名なV系の人や配信者、トップレベルのギルドマスターなどだ。さすがに彼らが武器を適当に流すとは思えない。


 これで流したら彼らのゲームライフは終わりを告げるだろう。そんなことを話しながら受け渡しは任せてくれとロックオンが言い、アッシュは楽器作りをして、話の店に出向く。


 まず教会で司祭様に話を付けると、店を案内する。


「私達も同行してよろしいでしょうか? 子供達が楽器が気になるようで」


 アキはそう言って、アッシュ達は頷く。


 そこは大昔は楽器を売る音楽の店。亭主は長いこと楽器の音が聞けず、黙り込んでいるらしい。


 ヒカリが綺麗な曲を奏で、それに無口な亭主は涙を流し出した。


「ああ………久しぶりに聞いたフルートだ。子供のころ、教えてもらったんだ」


 そう言って何かを口に呟く、それは歌のようだ。


 歌を歌い、それに合わせて曲を奏でるヒカリ。それに一つの歌が流れた。


 歌の名は『哀愁鎮魂歌』と言う曲であり、アキはなにか不思議そうにキョロキョロする。


「いまのはなんですかアッシュさん?」


「歌、曲のようですね」


「『哀愁鎮魂歌』。悲しいとき、悲しみを眠らせるために奏でる歌じゃよ。もう二度と聞けないと思っていた」


 楽器の作り方を教えながら、バイオリンやフルート、木琴など渡して、子供達が楽しそうにしている。


「これならもう店をたたむのは忍びない。足湯場所は別の場所にしてもらおう」


「足湯ですか?」


「本当は風呂場、サウナと言うものにする話だったが、もう大きなところがあるし、ガンガン増やすもんじゃないからのう。神様とは不思議なものじゃ」


「お湯はどこから仕入れてるんだろう?」


「なんでも聖域に無限に水があふれ出るところがあるらしいから、そこかららしいぞ」


「………」


 アキはそれを聞き、少し不安そうにしている。


 俺がどうしたか話しかけると、自分でも分からないと首を振る。


「どうにも、なぜかそれはいけないことだと思うんです。変ですよね、神様が大丈夫と言っているのに」


「いや、あの神だから問題かもしれない」


 アッシュはその辺、きっぱりしていた。何分夏の神はいまは聖域泥棒の疑いがあり、クエストやストーリー的にそういうやっちゃいけないことをするキャラクターな気がするので、迷いなくやばい気がした。


 すぐにアキ達と別れ、神の元に行こう。元々海神の話もあり、予定を聞いていた。


 薔薇姫と春の女神がショッピングしているらしいので、そこに出向く。


「うわあああぁぁぁぁぁ、ごめんなさーいーーーッ」


 そう言うプレイヤーと取り押さえるプレイヤー達が問題を起こしていた。


 ◇◆◇◆◇


「この野郎、ついに捕まえたぞ!」


「おい、本当に最前線かこいつ?」


「間違いねえメガネの下っ端だ!」


 そんな騒ぎの中、ヒビキが睨みながら彼を見るが、まだ中学生っぽい。あまり手荒なことをするとこちらがレッドネームになるが、彼はどうだろう?


「あっ、アッシュさん」


「大好き丸さん」


 大好き丸とその愛熊が二匹、不安そうにその様子を見ている。


 話を聞くと、ずっとテイムモンスターを追っていたらしく、いま捕まったらしい。


「ごめんなさい!つい、目で追ってただけです!」


「お前ら、料理特化のテイムモンスターに無理に鍛冶や戦闘するよう強要してるだろ!?それじゃないのか?」


「ちが………あ………」


 泣き出しそうな彼を見て、まあまあと落ち着くようにプレイヤー達に言う。


 泣きそうな彼は座り込み、やはりもう涙を流しそうだ。


「まずは落ち着いて話をしてくれるかな?」


「アッシュさん………」


「なんで彼らを追っていたんだい?」


「………実は」


 それは実験だった。


 貴重な卵を持っているが、それをNPCを経由すればプレイヤー同士で売買できるんじゃないかと言う実験。


 それで貴重な卵を持つ彼は、オークションにそれを売るように最前線に言われたらしい。


 そんなこと、ちっともしたくなかったのに。


「それで生まれたのが可愛い熊で、生産も頼もしくて、あの人に言われなきゃ僕のところにいたと思ったらつい」


「なに言ってるんだよ!オークションで売ったら他人のもんになるのは当たり前だ!自分のもんじゃもうねえよ!」


「ヒビキ」


 アッシュは怒るヒビキを始めとした討伐隊を抑える。だが周りのプレイヤーは討伐隊と同意見だ。


「アッシュさん、こんなの小学生でもわかるもんですよ。たとえプレイヤーの物をNPC経由で売買できても、特定の人とできる可能性は無いのは目に見えてる。なのに売ったのなら、後悔するのは間違いじゃないですか?」


「………」


 その言葉に黙り込み、そしてアッシュは彼に聞く。


「君はどうして、最前線の言うことを聞くことにしたんだい?」


「それ、は………」


 静かに顔を下げ、静かに涙を流しながら、ただ一言………




「そうしないとゲームできないんです………」




 最終的にプレイヤーのヘイトを高める実態に、誰もがただただ怒り、GMはなにをしているんだと憤る。


 それはマナーの悪い以前の問題であった。

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