無敵のメンタル

 あの人のメンタルは無敵だと思っていた。

 

 いつも励ましてくれて、わたしが苦しんでいた時に近くにいてくれた。「大丈夫?」って言って、その言葉を期待して苦しんでいたのだろう。わたしは「大丈夫です。」と答える。でも苦しかった。抽象的な意味でなくて本当に息が苦しかった。抜け出そうと思えば抜け出せるような気がしたが、抜け出せずにそれに甘えた。ビニール袋の中に呼吸していた。「過呼吸だと思うよ」あの人は言った。見守ってくれていた。

 

 「昨日ね。あなたが看病してくれている夢を見たよ。すごくやさしかった。」あの人は言う。なんだか照れ臭かった。そばにいてくれると安心した。お母さんのような、お姉さんのような感じがして安心できた。血は繋がっていないのにね。

 

 それから、たまに顔を合わせ少し話すことはあったが、段々疎遠になっていった。しばらく会うことはなくなった。そして数年が経ち、あの人と久しぶりに会った。


「お久しぶりですね。元気でした?」わたしは声をかけた。


「私ね、仕事辞めたんだ。」あの人は突然の告白。予想していなかったその言葉に思考が止まる。そんなわたしを見てかそのまま言葉を続ける。

 

「ある日、なにかがプツンと切れてさ。最初は何が起こったのかわからなかったんだけど。風船みたいにね、飛んでったんだ。それからずっとフワフワしててさ、まわりから『なんか最近変だよ。』って言われるまで気が付かなかったんだ。それで病んじゃってさ。仕事辞めちゃった。」


「メンタル無敵だと思ってました。」わたしはとっさ応えた。


「私もそう思ってたんだけどね。同じ種類の人間。だからわかるよ。」そう言って笑ってる。わたしも苦笑い。


 お互いに今、笑えているから良かった。いろいろ話をしたいけど、話をしたいことがたくさんあり過ぎて、なにも言葉がでなかった。そして「話聞くよ。」あの人は言う。今度はとっさに反応できなかった。そこは「わたしも話聞きますよ。」でしょ。別れた後に思う。いつも反射神経が鈍い。

 

 わたしは話をするのが苦手だ。苦手だと思ってた。でもそんなことはない。話をしたいことはたくさんあった。あなたとなら。とてもたどたどしい言葉だけど、黙って聞いてくれる気がするから。待ってくれるから。話をしてもいいかなと思えるから。あなたが無敵じゃないと本当は知っていたから。


「話聞くよ。」

その言葉でどれだけ救われたか。それだけでどれだけ楽になれたのか。なにも言わなくても、そう言われただけで理解してくれている気がした。あなたはどれだけの荷物を背負っていたのでしょうか。今なら少しは肩代わりできますよ。実はわたしメンタル無敵なんです。

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