第1章-29 『魔勇共闘』
「【
「……敵性反応ノ動作ヲ再分析……完了。攻撃パターンヲ変更シ、再度攻撃ヲ行イマス」
「クソッ。埒があかないな」
辺りに魔物のミイラ死体が転がる。
奴の血液補充にはもってこいの戦場か。
攻撃の方も隙を見て攻撃するどころか、避けるだけで精一杯だ。
それに、ワカツ達の安否も気になる。先程の場所には誰も見えないから、逃げ切れたと信じたいが……。
「【
三連刃が降り注ぐ。
まだ、技名を宣言してくれるだけマシか。
「ハァァァァア!!!」
魔力を込めた一閃で三連刃を薙ぎ払う。
「……分析……完了……攻撃パターンヲ変更……【
「それを待ってたんだよ!」
αカリバーには剣戟が少ない他にも弱点はある。その中にはこの状況を打破し得るものさえも。
【
それは――
「【
――『蒸発』だ。
元刀身だった血液は、
もちろん、αカリバーも全ての刀身を血液に変換するわけじゃないから一気に倒せるということでもないが、奴を消耗させる唯一の方法といってもいい。
なにせ、奴とのシンプルな一騎打ちはこちらの消耗戦。流体と個体を自由に変化させられる聖剣に刃毀れや、破損という概念は存在しないのだから。
「血液ノ減少ヲ確認。補充ヲ行イマス……【
「なッ!!」
αカリバーは俺でなく、騒ぎに寄ってきた狼型の魔物に刃を伸ばす。
「させるかよッ! 【
俺は魔物に伸びる剣を急いで止める。
このまま血液補充を続けられれば、またやり直しだ。繰り返されれば、それこそ奴の望む消耗戦。本格的にやりようがなくなる。
というか、そもそもここは、魔物のよりつかない場所ってアリスは言ってなかったか?
話がちげぇじゃねぇか。
「――敵性反応ヲ捕捉――【
「!? クソがッ!」
2本の剣が俺を挟むように伸びる。
こいつの狙いはこっちだったのか!?
突如飛び出した身体は、態勢を完全に整えられていない。そんな俺を取り囲むように伸ばされた刃が俺の身体に突き刺さろうと接近する。
やられた。
奴は俺が魔物からの吸血を止めることを予測して、それを利用したんだ。
これは腕の一本くらい持っていかれる。
そう思った時だった。
「よく一人耐えきった! 【
凄い速度で戦場に入った黒い影が、俺を抱えて、得意の防御魔法で攻撃を防ぐ。
「……おせぇよ」
「ん? 『なんとかしてみせる』といったのは貴様の方だろう? それなのにこの体たらくとは、やはり勇者というものはこの程度ということか」
「弱くて悪かったな。というか、もういいだろ。下せ」
お姫様抱っこから解放される。
「それが助けてもらった者に対する態度か。まぁ、約束を守ったことでチャラにしてやる。大特価だ」
「俺だって魔王相手じゃなきゃきちんと対応してるっての」
そう。駆け付けたのは魔王だった。
どうやら、約束は守ったらしい。いや、コイツの事だから、自分の利益の為に動いているだけかもしれないが。
「……皆は無事か?」
「……今は目の前の敵に集中しろ」
魔王の表情が強張る。
「まさか……」
「安心しろ。死者
「誰だ? 誰がやられた?」
「……逆に言わない方が、集中できないか。ワカツだ。天使の娘を庇って手を貫かれた」
「関係ない奴を守れないばかりか傷つけて……勇者失格だな、俺」
「まぁ、今、村で治療を受けている。魔法もある世界だ。娘達を信じろ」
「いや……でも……」
「気にするなとは言わんが、気にしすぎるな。まだ、貴様には謝る機会が残っている。もう一度言うが、今は目の前の敵に集中しろ。手を貸してやるから、自分の剣くらい鞘にしまって見せろ」
「そ、そうだな」
「そうだ。それでいい。そろそろ【
「わかった。あと、お前に一つ言い残していたことがある」
「なんだ?」
「ありがとな」
「……その言葉は、全て終わった後にもう一度聞かせてもらうとしよう」
――
「【
「【
「……」
攻撃にαカリバーが遠ざかる。
「蒸発だと?」
「あぁ、お前も見たろ? 奴は【
「……あるにはある」
「なら――」
「が、できれば使いたくない。魔法消費が激しいことはもちろん、まだ未完成の魔法だ。無闇に打てば、この地域、果てはこの世界にまで影響を及ぼしかねん」
「そうかよ。なら、それは最後の手段だな」
「そう考えていて構わん」
「あと、それとは別にこの辺りに魔物を寄せ付けないようできるか? 奴は生物の血液なら何でも取り込めるからな」
「あぁ、それならここにくる際に、露払いとして微量の魔力結界を張っておいた。この世界の生物に効く保証はないが、今のところは大丈夫そうだろうな」
確かに辺りを見回すとさっきまで寄ってきていた魔物達の数が明らかに減っている。
「あまり認めたくないが、お前はつくづく優秀らしい」
「フッ、そんな賛辞では我には足りんな」
魔王の言葉に舌打ちで返すと同時に、αカリバーはこちらに寄ってくる。
「なぁ、魔王、お前はあの化け物に勝てるのか?」
「愚問だな。答えるまでもない」
「じゃあ、お前には有効打があるのか?」
「ん? お前がさっき言ったのだろう? 有効打は『蒸発』だと。だが、残念なことに我には炎系魔法は備わっていない。そこで、だ」
こうして俺はαカリバーの攻撃を捌きつつ、魔王の作戦を聞くことにした。
ーー
ーー
「貴様にそれができればの話だが?」
「やってやるさ」
「おいおい、随分簡単に言うではないか。自分で煽っておいてなんだが、本当にあやつの動きを止められるのか? さっきまでの耐久戦ではないのだぞ」
「あぁ、俺も考え無しにそんなこと言わねぇよ。今から2分くらいでいいんだな?」
「あ、あぁ。それでいいがどうするつもりだ?」
「どうするって、こうするんだよ!」
イサムは自分で持っていた方の剣を触手剣に向かって放り投げる。
投げられた剣は真っすぐに標的に向かって飛んでいく。
まさか、剣を投げるだけが、「考え」とは言わないだろうな。と、一抹の不安を背に、魔法の準備に入る。
俺の物理法則が異界の魔剣に有効かどうかは甚だ疑問ではあるが、まずはやってみるしかない。
やってみなければ、何も始まらないのだから。
「【
罠を設置するための魔法の緻密な制御にはかなり意識を集中させなければならない……のだが、俺の目は自然とイサムの方を向いていた。
「【
「回避――【
イサムはもうあんなところに!?
速すぎないか……って、
『キーン』
甲高い金属音とともに聖剣が宙を舞う。
それも、イサムが持っていた方の聖剣が。
あれ、これってまずくないか。
助ける為に魔法の制御を解こうとしたとき――
「ゼイト! お前はそっちに集中してろ!」
そういうと、俺が見ていたはずのイサムの姿は一瞬にして消え失せた。
理解の追い付かないまま、俺の目は本能的に落下する聖剣の方に向かっていた。
すると、取っ手を握る手から、やがて足の先に至るまで、イサムの全身が形成されていく。
おいおい、まさかあれは――
「――空間転移魔法か。イサムもとんでもない隠し玉を持っていたわけだ」
先ほどの決闘では見せなかった。俺も手加減されていたというわけか。あんなものの勝敗はやはり無効だな。
さて、俺も言われた通り戻るとしよう。
「【
「おう! あとは任せるぜ!」
言葉と同時にイサムはこちらに向かって剣を投げる。
こちらへ向かう剣は、通常の投擲より遥かに速く、遠くに近づいている。
それは、こちらへの攻撃意志じゃなく、恐らくは――
「――っと、やっぱりこのくらい戦場は自由じゃねぇとな!」
やはり、イサムが行っているのは、
「こっちに来い! イサム!」
「あぁ!」
イサムの手を引き、魔法の準備に入る。
「【
まさかこんな言葉を勇者にかけるときが来るとはな。
いや、俺はもしかしたらこの時を憧れていたのかもしれないな。
どうやら俺のここ一番のタイミングは訪れたらしい。
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