第1章-28 『ちょっとだけの勇気』
「おいおい。一体どうしちまったんだαカリバー。獣のように暴れ回るなんざお前らしくもねぇな!」
「エラー。エラー。解析完了。エラーノ原因ハ、異界ノモノト推測サレル血液ノ吸収ト、未解析物質ノ化学反応ニヨル魔力干渉ト断定」
αカリバーは、もう元の大きさへと戻りかけている。
自分の武器すらまともに扱えないとはなかなかに情けない。
「やっぱり聞こえてねぇか。仕方ねぇ、少し実力行使だ」
そう呟き、俺はもう一本の聖剣を拾う。
「あまり単色で打ちたく無いんだがな…… 【
「コチラヘノ攻撃ヲ確認。防御ト迎撃ヲ行イマス。魔斬【
「いきなりそれかよ!」
αカリバーの数少ない剣技のひとつ。
αカリバーの刀身は、根元の一振り以外は生物の血液で形成されいる。俺も詳しくは知らないが、どうも、血液の鉄分を魔力で変質、合成させ、取り込んでいるらしい。
「くそがッ!! フルパワーだ!!」
俺は
血液に変質した瞬間、その刀身は、
俺だって伊達にコイツと旅を続けてきたわけじゃない。対処方法なら頭に入っている。
「……。敵性反応ノ脅威レベルヲ2ランク上昇。又、応急的ナ改善策ヲ考案……承諾。コレヨリ、血液補充ノ為、周囲ノ生命反応二無差別攻撃ヲ開始スル。敵対意識ノ無イ者ハ、即座二退避スベシ。繰返ス、敵対意識ノ無イ者ハ、即座二退避スベシ」
魔王にワカツ達を逃がさせたのはやっぱり正解だったな。予想はしていたが、無差別攻撃まで厭わないとは……。
「そこまで堕ちたか……この駄剣」
もう届かない愚痴を溢す。
「周囲ノ生命反応ヲ検索……10件ノ生命反応ヲ検知。内4件ハ、即時処理可能距離ト断定……全反応ノ同時処理ヲ試ミル」
「な!?」
その瞬間、『ゴウン』という地響きの後、目の前の巨体が空を舞う。
いや、今気にすべきはそこじゃない。生命反応が10件!? 多すぎる。騒ぎに乗じて魔物でも集まってきたか。いや、それにしても多すぎだ。まさかとは思うが……。
最悪を予見して振り返ると、遠目にだが、村へと向かうワカツ達の姿が見えた。それと同時に、今出せる最大の声量で危険を告知する。
「
「【
巨体から放たれた赤い液体が、蒼かった空を染め上げる。
それは、絶望と呼ぶには充分なものだった。
ーー
ーー
「おい! 全員止まれ! 【
戦場から全力で遠ざかる僕達をゼイトが制止する。そして僕は何の言葉も発さずそれに従う。それが、僕達を守る為の言葉だとわかっているから。
そして、その制止は、直ぐ様に周りに伝わり、数秒もかからぬうちにバリアの範囲内に全員が入ったかと思われた。
が、それはとんだ勘違いだった。
「え? へ!?」
僕達の先頭を走っていたゆりりんは、一歩遅れてその制止に気づく。急いでこちらに向かっているが、これでは先にバリアが展開しきってしまう。
その光景見た瞬間、昨晩のように脳内に声が響く。
(動け、ワカツ。後悔したくねぇならな!)
どうも僕の脳内は昨日から僕にカッコつかせたいらしい。
「ゼイト、ごめん」
そうとだけ言い残し、僕は普段は押し殺すちょっとだけの勇気を振り出してみる。
完全に展開される前にバリアの外に出て、一直線にゆりりんの元に向かう。無意識のうちに手は腰の剣を握っている。
上空から降り注ぐ無数の剣を見ても、不思議と足は止まらない。全然僕らしくもない。だけど、悪い気も後悔する気も毛頭ない。
「ワカツさん!?」
「ハァ!」
ゆりりんの身体を貫かんと飛んできた剣に、鞘から抜いた剣を当てる。すると『キーン』という金属音と共に、剣は弾き飛んだ。
よし。と喜ぶ間もなく、第2、第3の剣が降り注ぐ。
落ち着け。大丈夫。1本目と同様に刀身に刀身を当てるだけ――
『ガキン』
――そう思っていた。
しかし、僕は一つ思い違いをしていたのだ。
剣の丈夫さというものを考慮していなかった。同じくらいの重さの物体がぶつかる際、脆い方の物体が押し負け壊れる。その小学生でもわかるようなことを失念していた。
その瞬間、手に握っていた剣の刀身は、第2の剣を弾き飛ばすと同時に根本から摧破する。
そんな中、無情にも第3の剣はこちらへ向かう。
避けようにも、他の剣が逃げ場を塞いでいる。
「ワカツさん!? 何してるんですか! そこを退いてください!」
「ワカツくん!!!」
「ワカツ!!!」
ゆりりんだけでなく、ゼイトやアリスさんの声まで聞こえる。どうしてそこまで……って当然か。だってこんな絶望的なシチュエーションで何を思ったのか僕の身体は、ゆりりんを庇うように、剣が落ちる位置に手を広げているんだから。
ゆりりんはステッキを持ち直すが、恐らくこの距離では間に合わない。
だが、まだ、やりようはある。リスクも代償も大きいが、ゆりりんを守り抜く方法が。
もし、失敗しても後悔はない……嘘だ。本当は滅茶苦茶怖いけど歳下の女の子を文字通り身を挺して守って死ぬんだ。これ以上無い死因だと胸を張って誇れるね。
「大丈夫。只で死ぬわけじゃないから」
掌を剣に向け、少し横に曲げる。
よし、この位置でいい。
歯を食いしばれ。脚に力を入れろ。目を瞑るな。
見るんだ、その瞬間を。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!」
瞬間、降る剣が僕の左手を貫通する。
言葉にならない言葉が場を支配する。
痛い。痛い。熱い。熱い。痛い。熱い。痛い! 痛い!
最も動かさないといけない頭を、経験したことのない果てしない痛みが鈍くさせる。
そんなことにも構わず、見たこともない量の血液が掌から流れていく。
「……くん!」「……さん!」「……ツ!」
駄目だ。皆の声も霞んでいる。
絶大な痛みというのは、あらゆる感覚を奪っていく。
そんな中、痛みだけは途絶えることなく苦痛を与え続ける。
まだ剣の雨は止まない。
ゆりりんはまだ後ろに座り込んでいる筈だ。
「まだ……倒れちゃいけない……」
そんな僕の意志を搔き殺すように、痛みは意識を奪っていった。
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