第1章-18 『晩餐会後の団欒』
勇者と魔王が用意された部屋に戻り、食卓には僕とアリスさんだけが取り残された。
「ごめんね。こんな夜ご飯にしちゃって。予想できたことなのにね」
「いや、大丈夫……とは言えませんけど、勇者さんの身体も治ったみたいだし、僕も怪我はしてないですから! それに、居候させてもらってる身からすれば、このくらいのことくらいのハプニングは覚悟してましたし……」
すいません。めちゃくちゃ嘘ついてます。ほんとは覚悟なんてできてませんでした。
そりゃそうだよね! 誰が勇者と魔王と同席した食事の場を設けられることを予想できる? 無理だよね!?
でも、命の恩人にそんなことは言えるはずもなく……。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、今回は流石に不用心だったよ。偶々無かっただけで、異変に気づいてお母さんが入ってきててもおかしく無かったからね」
この口ぶりから察するにポーラさんはアリスさんほど闘いには向いていないのだろう。
「そういえば、ポーラさんは何処に?」
「お母さんはもう寝てるわ。お母さん、料理も美味いし、家事も凄くできるんだけど……いや、それ故なのかもしれないけど、睡眠にとても重きを置いているのよ。朝は早く起きるんだけど、夜は基本的に私達のご飯を作ったら寝てしまうし、その間は何をしても起きないのよ」
「でも、今回はそれが功を奏してたみたいで良かったです。もし、異変に気づいていたらこの部屋に入ってきていたでしょうから」
「そうね。お母さんや百合ちゃんが起きてたらって思うとゾッとするわ」
そうだ。寝ていたのはポーラさんだけで無く、ゆりりんもだった。
この部屋にゆりりんが入ってきていたら、事態はもっとカオスを迎えていたかもしれない。
「っとそうだった。もう一つワカツ君には謝っておかないといけないことがあったんだったわ。勝手に魔王と勇者の『決闘』なんて決めちゃってごめんね? ワカツ君にも魔王に思うことがあった筈なのに」
「いやいや。大丈夫ですよ! そもそも僕は目に見える被害は受けてないですし、もし仮に僕が戦闘ごとに巻き込まれていたとしても、一方的に蹂躙されて終わりですしね……」
自分で言っていて悲しくなるが、事実なので受け止めよう。
「そう? 私の見立てでは、一撃くらいは入れられると思うけど?」
「いやいや、僕の【能力】は戦闘向きではないですし……」
「最初は私もそう言ったけど、結局のところ、どんな魔法も能力も使い方次第なのよ。例えば、さっきの【リ・ポーズ】だって、本当は唯の状態異常回復魔法だけど、さっきみたいに皆の心を休ませる効果もあるのよ。あとは――」
「おいアリスゥ! 下は大丈夫そうか?」
アリスさんの言葉を遮り、トレックさんの呼び掛けが上の階から聞こえる。
「うん! もう大丈夫だから! あと、ちょっと話したいことがあるから、またそっちに行くわ!………ごめんね? ちょっと話の途中だけど、まだお父さんと話すことあるから、戻ってもいい?」
「全然大丈夫です!」
「ありがとう。ワカツ君も今日は色々疲れたでしょうから、ゆっくりしてね。また明日!」
そう言ってアリスさんは、トレックさんのところへ向かって行った。
「よし、僕も休むとしよう」
そう1人で呟くも、部屋に散らかる割れた皿を見過ごせず、最後にそれだけは片付けて僕も部屋に戻るのだった。
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