第1章-11 『時の魔王、魔の森にて君臨す』
「なんだぁ、こりゃあ」
この場の全員が違和感を感じていたことに対し、ようやくボブさんが静寂を破った。
「なんだって、こんな
そう。この場の全員が感じていた違和感は謎の骨の事だった。
「そうね。それに、魔物があまりにも少なすぎることも少し気になるわね」
「そっすね。なんかヤな感じがしやす」
アリスさんや、デイヴさんが警戒態勢を取り始めたので、僕はゆりりんに小さな声で話しかける。
「昨日はこんな感じじゃなかったっぽいね」
「はい。そうですね。昨日はこのあたりに来るまでに、オオカミさん5匹くらいとは戦ってましたからね。それに、昨日はこんな骨も落ちていませんでしたし……」
ゆりりんの顔が不安そうなものになる。
こんな時、僕が知っている主人公達なら、「大丈夫、僕が守るから」とか、「安心してよ」とか、気の利いたことを言えるのかもしれないが、残念ながら僕にはそんなことを言う実力も、勇気も気概もない。
だから僕は、その不安を拭うこともできず、ゆりりんの顔を見つめることしかできなかった。
「あ、安心してください。ワカツさんは私が守りますから」
そして、こんなことまで言わせてしまう始末。本当に情けない。苦笑いでもって返そうと思ったそのとき、ボブさんが割って入る。
「いやいや。ワカツを守るのぁ、俺の仕事だ。嬢ちゃんは、自分の身の心配だけしてればいい。なぁに。俺はそのためにアリスの嬢にここまで連れてこられたんだからなぁ」
それに加えるようにアリスさんも励ますような口調で、
「そうよ。2人とも、安心して。そう見えて、ボブは頼りになる男よ。もちろん、ボブだけじゃなく、デイヴもエレンも、フランクも、ここにいるのはちゃんと力のある奴ばかりだから」
そう告げる。
「はい」
「は、はい」
僕とゆりりんはうなづきながら答えた。
その瞬間、
「!!?」
大きな地響きと衝撃が起こり、それと同時に、森の奥の方に空に届くほどの土煙が現れる。
『……』
この場の全員が同時に息を呑み、驚き、静寂が包み込む。
「みんな落ち着いて!」
2度目の静寂を破ったのは、アリスさんだった。
「取りあえず、様子を見に行くわ! そうね…。危ないかもしれないから百合ちゃんとワカツ君はここに残って! あと、ボブも、2人を見てあげて! あとの3人はこっちに付いて来て!」
アリスさんは、冷静かつ迅速に、そして聞き逃さないように力強く皆に指示をする。
それは、アリスさんがただの魔法の使える村長の娘であるだけじゃないということを伝えるようなものだった。
「おう!2人のことは俺に任せろ!」
「了解しました!」「りょーかいっす!」「わかりやした!」
ボブさんにフランクさん、デイヴさん、エレンさん達が、指示に力強く応え、僕とゆりりんはアリスさんの目を見ながら首を縦に動かす。
「2人ともごめんね! 一緒にいるって約束だったけど、無理っぽい! あとはボブの指示に従って!」
「「はい!」」
僕とゆりりんの返事を背に、アリスさんは、フランクさん、デイヴさん、エレンさんの3人を連れて、土煙の方向に走っていった。
「ボブさん、僕たちはどうしたらいいですか? アリスさん達は大丈夫なんですか?」
不安になった僕は、震え声でボブさんに指示を仰ぎながら問う。
「あんまり心配すんなって! ワカツも嬢ちゃんも。アリス嬢に関しては心配するこたぁねぇよ! 俺が知る限り、アイツはあの年の娘の中では
「やっぱり、アリスさんは、何か特別な力を……」
「ん? お嬢は、そんなところも説明してなかったのか?」
「え? は、はい。そうですけど……」
「そうか。じゃあ、俺から言ってもいいのか? うーん……。ん? おい! 2人とも! 俺の後ろに隠れろ!」
「「!!」」
ボブさんが、悩み始めたかと思えば、真剣な顔に切り替え、突如として指示を出し、それに対して、僕とゆりりんは、驚きつつも指示に従う。
「おい! 隠れてないで、出てきやがれ! そこにいるのはわかってんだよ!」
ボブさんは、誰もいない筈の木の枝に声を上げる。
「ほぅ。まだ未熟な技とはいえ、これを見抜くか。なかなか骨のある人間族もいるようだな」
その声と同時に、全身黒で上衣の裾が足まである、
何が
通常、その雰囲気をぶち壊しそうな腕時計までも、何の変哲もないように装備しているところを見ると、この人も『召喚者』なんだろうか?
というかこの人、何処かで見たことがあるような……。
「ワカツさん……。 何か、あの人から嫌な気配がします……」
ゆりりんが少し顔色を悪くしながら、そして、僕の服を掴みながらそう告げる。
「だ、大丈夫だよ。ボブさんが守ってくれるから……」
ここで、「自分が守ってあげる」と言えない自分に嫌気がさす。いや、まぁ本当に守れる実力は伴っていないのだけれども。
「おめぇ、いったいなにもんだ?」
ボブさんは、黒服の男に問う。
「ふんっ、本来なら人間族如きに名乗る名などないが、まぁいい。今回は貴様の勇気に免じて特別に名乗ってやる。そこの小僧どもも、よく聞いておけ!」
『威圧』とでもいうべきなのか、その言葉に乗せられた独特な雰囲気によって、僕は動けなくなってしまう。
「我の名前は、ゼイト・ヴリエーミヤ。泣く子も黙る、時の魔王である。ひれ伏せ低俗なる人間族どもよ」
召喚されてから、3日目。僕は不運極まることに、異世界の魔王と対面してしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます