第1章-3 『疑問』
落ち着け。取り敢えず考えをまとめるんだ。
『伝村 百合』とは、僕が2年ほど前に
このアニメは、もともと、女児向けアニメとして放送されていたのだが、脚本に、鬱アニメの申し子と呼ばれる『上島さん』を起用したことによって、途中から物語に深みが生まれ、小さいお友達は去っていき、僕らのような大きいお友達が見るようになっていた視聴年齢層激変型のアニメである。
主な登場人物として出てくるのは、『伝村 百合』を含めるヒロイン達5人であり、物語の大筋はこの5人が『魔法天使』に変身し、悪者をやっつけるといった典型的な女児向けアニメである。
まぁ、物語の後半に行くに連れて雲行きが怪しくなり、悪者の総大将が先代の『魔法天使』だったことを皮切りに、なかなかシリアスな展開に転がり込んでいくのだが。
さて、アニメ自体の情報はこれくらいにして、次は先程会った『百合さん』に関しての話だ。
アリスさんの人となりや、百合さん自身の口数の少なさから、あまり面と向かって話してなかったが、狼から助けてくれたのは紛れもなく『百合さん』であることは、確信してもいいほどの真実だろう。
確かに、思い返してみれば、百合さんの顔を見たときに憶えた既視感は、あの時は、運ばれている時の朧げな記憶から来るものだと思っていたが、確かに『魔法天使♡heaven’sカエン』のキャラクター『伝村 百合』もとい『ゆりりん』に酷似していたし、雰囲気も『ゆりりん』そのものだった。が、本物だと決まった訳じゃない。
いくらここが異世界で、僕がアニメ文化に対する「受け入れの力」を持っていたとしても、流石にアニメキャラとリアルで会えるなんて簡単に信じられるわけがない。
何か理由があって偽名として使ってるのかもしれないし、超精度の高い設定に忠実系のコスプレかもしれない
でも、僕の中でこの可能性はかなり低かった。
何故なら、普通の人間には、狼4匹に襲われていた僕を助け出し、僕の無事を涙目になりながら喜んでくれる。なんてことはできないと思ったからだ。
まぁ、神から能力を授かったコスプレイヤーという線も捨てきれないのだが。
これ以上はどれだけ考えても答えは出ないと思い、取り敢えず無理しない程度に少し身体を上げ、周りを見渡してみることにした。
さっき、名乗った後の会話で、ここは、アリスさんの家の2階ということは分かっていた。
今日はここで寝てもいいとも伝えられていたので、おそらく客人用の小部屋なのだろう。
部屋も、窓(ガラス張りのようなものではなく、通気口のようなもの)と、自分が寝ているベッドとテーブル以外、目立ったものはなかった。
窓の外を見ると、もう日が暮れかけていた。
部屋を出る前にアリスさん達が、「あとで夕食を持ってくる」的なことを言っていたので、それを待ちながら、もう一寝入りすることにした。
ーー
「ん。ん?」
目を開け、身体を起こすと、窓から朝の日差しが差し込んでいた。
どうやら、色々なことがあり過ぎて疲労困憊だった俺の身体は晩御飯までの仮眠を就寝と認識したようだ。
「あ、起きた? おはよー」
部屋を開けて、アリスさんが挨拶をしてくれた。
「あ、おはようございます。昨日は色々とありがとうございました。あと、夕飯前に寝ちゃったみたいで、ごめんなさい。」
頭を掻きながら、軽く頭を下げる。
「あー。いーよいーよ。私も起こそうか悩んだんだけど、ぐっすりだったし、色々あって疲れてそうだから百合ちゃんと親と話し合ってそのまま寝かしとくことにしたんだ。それよりも身体は大丈夫そうかな?」
「はい。まだ、走り回るのは無理そうですが、なんとか、歩くくらいはできそうです」
「そう!なら良かったよ!朝食の準備はできてるんだけど、下の階に来れそう?」
(晩御飯だけでなく、朝食まで用意してくれるとは、聖人とはこういう人を言うのだろうと真剣に思う。まぁ、見ず知らずの怪我人を家にあげ、怪我を治すだけでなく、部屋とベッドを貸してくれているのだ。聖人でないはずがないだろう)
と、アリスさんのことを頭の中だけで崇め奉る。
もちろん百合さんも確実に僕の中では聖人認定が下されているのだが。
黙って感動の涙を流している僕は、聖人の眼差しを感じ、ようやく質問に答える。
「あ、は、はい。多分大丈夫です」
「そう!じゃあ、そこに置いてある着替えに着替えたら朝食食べに降りてきてね」
部屋のテーブルに置かれた着替えを指差しながらアリスさんは告げる。
昨日は疲労していてそこまで気が回らなかったが、自分の服が学校の制服から、無地の薄着の寝間着に変わっていたことに気づく。
服まで変えてくれてたのか。本当にありがた――
ん?
待てよ。誰が着替えさせた?
僕の選択肢には2つの選択肢しか浮かばなかった。
▶︎『百合さん』
▶︎『アリスさん』
どちらの選択肢の場合でも、僕は裸を美少女に見られていたことに気づき、赤面してしまう。
ボロボロの状態で助けられ、運ばれてるので格好が悪いとか、男としてメンツが立たないとか、そういうのは諦めていたが、裸まで見られているのは流石に羞恥の念を隠せなかった。
赤面を隠すように、アリスさんに告げる。
「は! はいッ! 着替えですね! わかりました! 直ぐに着替えて向かいます!」
「そ、そう。じゃあ私は先に降りとくね」
といって、部屋の扉を開けようとする。
「ヨイショっと」
それと同時に足を布団から出して、立ち上がろうとする。
「うわっ」
「ちょっと! 危ない!」
披露した身体は直ぐに思ったようには動かず、バランスが崩れてしまう。
倒れる!
そう思ったとき、
「もぅ、本当に大丈夫?」
アリスさんが、僕の身体を支えていた。
ここで僕は、
美少女に身体を触れたれて、緊張を憶えるでもなく、男としての情け無さを憶えるでもなく、アリスさんの動きの速さに驚いたのだ。
小部屋といっても、扉とベッドの距離との間には大股で3歩分くらいの距離があるのだが、アリスさんはその距離を一瞬で移動し、直ぐ様に僕の身体を支えて見せたのだ。
(この人は一体、何者なんだ?)
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