第1章-2 『恩人の美少女達』

「【エクスヒール】」


 何やら女性の声とラッパの音が聞こえる。

 それと同時に、痛みが引いていくのも感じる。

 自分の鼓動が通常よりも早く動き、「生」を実感させてくれている。

 どうやら僕は助かったらしい。


「んッ。こ、ここは?」


 考えるよりも先に口が動いていた。


「お! 気がついた? 良かったぁ」


 僕と同じくらいの歳に見える茶髪の美少女が、僕の顔を覗き込んで、安堵していた。


「百合ちゃん! どうやら助けられたみたい!」


 茶髪美少女が後ろを振り返りながら手招きすると、それまで流れていたラッパのメロディーが止まり、茶髪美少女の後ろから、僕の視界に、もう1人の少女が入ってきた。

 美しい銀色をしていて、何処か、既視感というか安心感というか、そのような和やかな雰囲気を伴った、これまた大層な美少女が僕の顔を覗き込んだ。


「あぁ。良かった。助けられたんですね。本当に良かった。護ることができたんですね」


 涙目になりながら、全くの他人である僕の安全を心から喜んでいる様子だった。

 先程朦朧とする記憶の中で、僕のことを運んでくれたのはこの少女なのだろう。


「ええと、僕は一体……」


 美少女2人の眼差しに耐えきれず、口を開き、身体を起こそうとする。


「あぁ、まだ一応身体は動かさないでね。まだ完全に治癒したわけじゃないから、2日間程は安静にね。でも、そうだね。気がついたなら状況の説明くらいはしとこうかな」


 起き上がろうとした僕の身体を抑えつつ、茶髪の少女は言葉を続ける。


「何処まで覚えてるのかは知らないけど、君は森の中で狼に襲われてたんだってね。そこで、近くを歩いていた、今私の隣にいるこの娘、『百合ちゃん』が、助けてくれたんだよ」


 茶髪の少女は銀髪の少女の方を軽く叩きながら、状況を説明してくれる。

 僕は寝転んだまま、視線を銀髪の少女の方に向け、直ぐに、


「あ、ありがとうございます!」


 自分でも驚くほどの声量とスピード感でお礼を告げていた。助けてくれた人に直ぐにお礼を告げるのは僕のモットーのうちの一つだが、体力の回復しきっていない状態で出せる勢いではなかった。


「い、いえ、私も助けられて良かったです」


 僕の勢いに戸惑いつつも、命の恩人は、少し顔を赤らめながら、微笑みかけてくれる。

 その微笑みはまるで天使を彷彿とさせる、神々しいようなものである。


「えっと、感謝の気持ちを告げることは大切だけど、そんなに、大きい声出さないでね。怪我人の身体には響くし、百合ちゃんも驚いてるでしょ?」

「は、はい。すいません」


 茶髪の少女に笑いながら諌められる。

 そういえば、痛みが引いていて忘れていたが、噛まれた部分はどうなっているのか。

 被せられた布団から、自分の左腕を取り出してみると、包帯が何重にも巻かれていたが、腕の感触は何の障害もなく感じられたので、取り敢えず、腕の無事は確認できた。

 その様子を見て、茶髪の少女は口を開く。


「取り敢えず、応急処置と、治癒魔法はやっといたから、身体は安静にしてれば、元の状態に戻ると思うよ。特に噛まれていた左腕と右足は怪我が酷かったけどね」

 

 元の状態に戻るという言葉を聞いて心の底から安堵する。あの状況に陥って、五体満足の状況に戻れるのだから、「治癒魔法」というものは凄いものなのだろう。

 普通の日本人は、「魔法」という言葉に対して疑念を持ったりするのだろうが、サブカル大好き高校生はその辺の鍛え方が全く違うので、「受け入れの能力」だけは人一倍にあった。

 まぁ、魔法の存在に高揚していないかと言えば嘘になるが、これは追々聞いていくことにしよう。


「そーいえば、まだ君の最初の質問、『ここは?』に対して答えてなかったね。そうだね……何処から説明しようか。あの森林に丸腰でいたってことは、状況的には百合ちゃんと同じ感じなのかな?じゃあ、この大陸の説明くらいからしとこうかな」


 まぁ、正直なところこの世界の説明からして欲しいくらいの状況ではあるし、『ユリちゃん』がどのくらいこの世界を知っているのかは、わからないが、取り敢えず頷いて見せる。


「じゃあ、説明するね。ここはデイッファー大陸のディッファー王国って国にあるトゥルースっていう村なんだ。村って言っても、ちょっと民家が集まってるだけの辺境の地なんだけどね。君が襲われたのは、この村の南に位置する、魔の森だよ。魔の森には、大量の魔物が住んでいて人間は基本的にはまずら近づかない。そして、村は大きな壁で、魔の森から断絶されているんだ」


 (そんなやばいところに丸腰で召喚されたのか)


 と、あのロクでもない神に憤りを感じつつ、茶髪少女の話を聞く。


「なんで、君があの森にいたのかは、百合ちゃんに聞いて、大体察しはついてるつもりだよ。そこらへんの話は追々聞いていくとして、ディッファー王国はディッファー大陸の7割を占める超大国で、漁業が盛んで、その辺りの説明はあとでいいか。まぁ、この国の特色としては四季があって、大陸のうち、国の所有地以外のところには魔の森が立ち並んでるってことくらい覚えとけばいいかな? まぁ地理的な話はこんなもんだよ」


 なるほど。色々と情報が入ってくる。スキルの副作用的なものが発動しているのか、いつもより少し情報を頭の中に入れやすくなっていた。


「歴史についても話していけたらいいんだけど、その辺は国の中心部が管理していて、私達が知る情報は少ないんだよね。そーいえば、他に聞きたいこととかある? 自分から説明するのって苦手なんだよねぇ」

「じ、じゃあ、名前を教えてください」

「ぷっ! はははーっ! そうだね。大きな説明をし過ぎて肝心なところが抜けてたね。私の名前は『早乙女さおとめアリス』。そして、こっちの銀髪の娘の名前は『伝村 つたむら 百合ゆり』だよ。どれだけ一緒にいることになるかはわからないけど、よろしく。さぁて、こっちが名乗ったんだ。そっちも名乗ってくれなきゃ不公平だと思わないかい?」


「た、確かに。僕の名前は『白瀬しらせ わかつ』。伝村さんに早乙女さん。改めて、助けてくれてありがとう」


 自然と感謝と笑みが溢れていたと同時に、必ず恩は返そうという、決意も溢れてきた。


「名字呼びなんて硬っ苦しい。アリスでいいよ」

「わ、私も百合で大丈夫です」


 初対面で名前呼びできるほど僕のコミュ力は高くないのだが美少女2人に名字呼びを止められる。


「じゃあアリスさんと百合さんで」


 折衷案(?)を提示する。


「まぁ、今はそれでいいよ。慣れたら『さん』も取ってくれると嬉しいかな」

「あ、わたしは呼びやすい呼び方で大丈夫ですよ?」


 どうやら受け入れて貰えたらしい。

 

 こうして僕は、異世界召喚早々に、美少女2人に助けられるという展開を迎えたのだった。


 

 その後、2人と少し雑談混じりの話をした後、怪我人に無理はさせないようにと、2人は気を利かせて部屋から退室したのだった。

 1人になり、身体も動かせないので、頭を動かし、考えに入る。

 それにしても、『早乙女 アリス』に、『伝村 百合』か。アリスさんの方はともかく、姓名ともに日本の名前の付け方だよなぁ。何か関係があるのか? 

 それに百合さんの方は、どこかで聞いたことあるような……。


『伝村 百合』

『つたむら ゆり』

『ツタムラ ユリ』


ん?


待て待て待て。














『伝村 百合』ってアニメキャラの名前じゃねぇかぁー!!!!!!

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