第一章

第1章-1 『テンプレ?』

 ここからは大体想像に難しくない展開で想像に難しくない展開テンプレで、丸腰の非戦闘向きのスキル持ちの人間が、肉食魔獣に襲われかけ、逃げ回り、断崖絶壁を背後に追い詰められたというわけで……。


――


 現在に至ります。

 因みにこの回想リアルタイムで2秒ほど!

 走馬灯らしきものを見るまでに自分の生命の危機を感じる。

 とりあえずこの状態で僕ができることは限られる。まずは


「助けてぇぇ! 助けてくださぁぁい! 誰か! 狼型の魔獣に襲われてます! 誰かぁぁ!」


 涙を堪えながら力一杯助けを読んでみる。

 といってもこんな森の中に人がいる可能性は低いので、助けが来るとも思えないし、この声を聞きつけて対峙する狼共が1匹から3匹に増える可能性が上がったりもするのだが。

 どうしても諦められない。折角異世界召喚されたんだ! こんなところで狼のエサになるなんて死んでもごめんだ。まぁエサになったら死ぬんだが。

 取り敢えず藁にもすがる思いでテンプレ続きのテンプレである、『誰かが自分を助けてくれる』

というシチュエーションを祈り、助けを求め叫び続ける。

 が、そう早く助けが来る訳もなく、狼は自分目掛けて飛んできて、恐怖で目を瞑ってしまう。


(あ、死んだ)


 その予想は、痛みの無さによってかき消される。

 恐る恐る目を開けると、狼が自分の眼前で震えていた。

 何故だ? 考えた後浮かんだ答えは、【情報共有】だった。おそらく無意識のうちにこの狼を指定目標として設定し、能力が発動したのだろう。


 無意識が故に


「助けて、助けて、助けて、死にたくない。タスケテタスケテタスケテタスケテ」


 といったような死への恐怖などの負の感情を情報として狼に共有したのだろう。

 そして、この能力を知らない狼は急に自分に負の感情が共有されたことで、目の前に対して恐れているというような錯覚を起こしたのだろう。

 この状況で冷静な考察をできている自分に一番驚きつつ、まだ無力化できたわけではないので狼から距離を取る。錯覚しているのも時間の問題で、能力を使っている間は必ずしも安全とは限らないからだ。

 狼から遠ざかる足を3歩目を踏み出した瞬間、狼の後ろの草むらからガサゴゾという音が聞こえる。


 助けが来た!


 という、希望の眼差しは絶望の眼差しへと変わる。

 草むらから3匹の狼が姿を現したのだ。

 想定していた最悪の状況よりも悪い状況が訪れた。

 全身の血の気が引いていくのが感じられる。

 手も足も、身体全体が震えていた。

 なんとか【情報共有】で恐怖の感情を共有してみても、相手も複数体になると、獣のくせに集団心理が働き、錯覚を起こしている様子は無かった。

 計4匹の狼に囲まれ、最後の足掻きで勝てるわけのない肉弾戦への準備に震えた身体でファイティングポーズをとる。

 

 4匹の狼が同時に飛びかかってくる!

 その瞬間、


「………エール……イトリリー」


 距離的に遠いのか薄らと狼の背後の茂みの奥から声が聴こえる。

 その声に2匹の狼も気が付き、振り向き警戒したが、残り2匹は止まることなく、僕の右足と左腕に噛みかかる。


「ぐぁぁ、痛ぃ。ってぇぇ! あ〝ぁぁ!」


 声にならない叫び声を発する。今まで生きてきた中で最も声量を出している。

 振り解こうにも一度噛み付いた狼は離れない。

 痛みで気が遠くなっていく。


 あがる自分の血飛沫の中に、何やらラッパのようなものを吹く少女の面影とそのラッパのメロディを最後に感じ気を失った。


――


「必ず助けます! 私が、護ります! 絶対に死なせません!」


 体が揺れている。

 目もうっすらとしか開かないが、どうやら誰かが僕を抱えながら走っているらしい。


「うっ」


 噛まれた部分に感じる痛みから呻き声をあげてしまう。

 誰・か・は、それに気づいて、


「大丈夫です! もう少しです! 必ずっ必ず助かりますから!」


 と真剣な声を掛けてくれる。

 その声に安心を覚えつつ、銀髪の少女の横顔を最後に、また気を失ってしまう。

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