序章-2 『情報整理(2)』
「質問に答える前に質問で返す形になって悪いんだけど。まずねぇ、なんで君はここにいるかわかる?」
「え?えぇと、異世界召喚を望んだからでしょうか?」
「まぁ、根本的にはそれであってるよ。君の拾ったキーホルダーが、君の願いを聞き入れてこの状況にあるわけだ」
いったい俺は何を拾ってしまったんだ……。
「あぁ、気になるよねぇ。でもごめんね。その辺企業秘密なんだ。あ、神だから企業じゃなくて、天界?だから天界秘密かな?語呂悪いね。じゃあ……」
「話逸れてます」
若干空気感に慣れてきて注意というかツッコミくらいなら入れられるようになってきた。
「あー、悪い悪い。僕の悪い癖だ。そう!キーホルダーについては触れられないけど、大旨君がここにいるのは君の願いということだ。そこんとこok?」
「おー……大丈夫です」
仮にも神にokで返そうとしてしまった。気をつけなければ。
「okで返してくれても良かったんだけどねぇ。まぁそれは置いといて、今から君は、君の視点からみて、【異世界】に召喚される。この辺は前の世界の経験で言葉的には理解できるよね?」
「意味は、まぁわかります。原因もわかります。でも、何故こういう状態にいるのかはわかりません」
「まぁ、その辺は、えぇと、そうそう、君も聞いたことあるだろ? 『貴方は選ばれました』ってやつだ」
このタイミングで何故か歯切れ悪くなると同時になんか急に迷惑メールみたいなこと言い出したぞこいつ。スーツと相まって急に詐欺師っぽく見えてきたような。
「仮にも、神に向かって『こいつ』とか『詐欺師』とか、流石の僕でも悲しくなるよ。ぴえんだよぴえん」
かと思ったらJKみたいなことも言い出した。
一応神だというので敬語は使っているし、アニメやマンガにこんな感じの神が居なかったではないが、どうしても頭の中では無遠慮になってしまう。
「まぁまぁ、兎も角、君はめでたく願い通り【異世界召喚】される訳だ。嬉しいだろ?」
「えぇ、そんな無理矢理連れてこられても……。それに、日本には戻れるんですか?」
「その辺は心配いらない。僕が戻してもいいと思ったら直ぐにでも戻せるよ。なんたって【境界の神】、ボーダー様だからね♪」
「戻してもいいと思うって、僕、使命的なもの背負わされるんですか?」
「使命とかそういう重いもんじゃないけど、此処でいうと流石の君も怒りそうだからさ」
「絶対ロクでもないことじゃないですか! 嫌ですよ! そんなテキトーな感じじゃ」
「本当にいいのかい?折角の【異世界召喚】の機会を逃しても」
「いいですよ。アドベンチャーより自分の命を求めます」
「まぁ、君が今どれだけ嫌がったところで、直ぐに戻すのは無理なんだけどね。だってそれが君が望んだことなんだから」
「まぁ、そんな気はしてましたよ。で、いつになったら僕の最初の質問に答えてくれるんですか?」
この神の空気感で無遠慮さが口調にまで現れるようになってきた。この空気感もボーダーの能力なのか?
「そうだったね。君の期待と予想の通りに、私は君に能力を与える。流石に一般人を異世界に放り込むほど私も鬼畜じゃない」
「え、じゃあ、僕の好きな能力くれるとかですか? あ、別に戦闘能力系ならそこまで弱くないやつだったらなんでもいいですよ。いやぁ、何になるかな」
「君に与える能力は……【情報共有】だ」
「は?」
「君に与える能力は【情報共有】だ」
「2回同じこと言わなくても分かりますよ!いや、わかってはないですけど。【情報共有】ってなんですか?絶対名前から考えるに戦闘向けじゃないじゃないですか!」
「そうだよ。戦闘向けではないね。でも、そんなに使えない能力でもないと思うよ。まぁ百番は一見に如かずさ。これを読んでみて♪」
そう言ってボーダーは胸ポケットから封筒を差し出してきた。
開けると、『スキル【情報共有】について』と書かれたプリントが入ってきた。
こいつ、神なのに、自分で教えずトリセツ渡してきやがった。
「やだなぁ。僕が教えるよりも効率的でしょ?」
「もういいですよ。なになに……」
スキル説明をじっくり読む。どれだけ不服だろうと自分のスキルだ。しっかり知っていて損はないだろう。
トリセツの内容を纏めるとこんな感じだ。
・自分がその情報を知ってさえいれば、可能な限りわかりやすく、そして瞬時に共有したい相手に共有できる。
・何故かパッシブスキルのような扱いであり、魔力等の代償を必要としない。
・あまり広範囲に共有し過ぎたり、能力を使い過ぎたりすると、自身から遠い人から順に伝わらなくなったり、自身が軽い頭痛に襲われたりする。
・自分と同じ大陸にいて、その人の顔(マスク越しでも可能)と名前(下でも上でも正しければ可)がわかれば大抵伝えられる。
・ただし、共有相手は直接会っていなければ発動しない。
なるほど。唯の雑魚能力かと思ったら、サポート的には結構使える能力かもしれない。が、戦闘向きでないことは変わりないわけで。
「まぁ、どれだけ考えても、与えられるスキルは変わらないし、ちゃちゃっと受け入れてよ」
「そんな簡単に受け入れられませんよ。折角の【異世界召喚】なのに、全く俺TUEEEできないなんて」
「最近は戦闘スキルじゃなくても最強取れてる人いっぱいいるでしょ?」
なんでボーダーがやたらと異世界系のサブカル事情に詳しいのかはもうこの際ツッコまないことにした。
「まぁ、そんな話は置いといて、最後の説明だ」
ボーダーの目つきが変わる。
「君が召喚される世界には、他の召喚者も同時に召喚されるよ。まぁ、あとあとに召喚される人もいる。その辺は覚悟しといて欲しいかな」
「先に召喚されてる人は居ないんですか?」
「まぁ、こんな状況になるのは私の人生始まって初めてだからね。あ、人生じゃなくて神生か」
これは意外な事実だった。
他の召喚者がいるのはあるあるだが、先に召喚された先輩召喚者がいないとなると少し不安が募ってくる。
前例がないことはとても怖いことだと身をもってリアルタイムで感じる。
が、そんなことで怯えていては異世界召喚なんて無茶苦茶なこと受け入れられるわけがない。
「その心意気だね! 今考えても何も進まない。ちゃちゃっと召喚されてとっとと、私の上司を納得させてみてよ」
「は? 上司?」
「っと。そろそろ時間だ。教えるべきことは教えた。上司の話はまた今度話し合うことにしよう」
突然の言葉に翻弄されるが、聞き返すことができなそうなので、疑問を飲み込む。
体が光出す。
「君の働きに期待しているよ。目標と目的は自分で見つけなさい」
ボーダーの言葉を最後に視界が真っ白になり、この部屋に来た時と同じような浮遊感を感じた。
目を開けるとそこは
――森林の中だった。
こうして、俺の異世界訪問はなし崩し的に行われてしまった。
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