コトナル世界ノ召喚者〜オタクがアニメやラノベの美少女キャラクター達が召喚される世界で生き抜く物語〜

キエツナゴム

序章 召喚頭旋編

序章-1 『情報整理(1)』

考えろ! 思い出せ! 頭を使え!


 全身から冷や汗と震えが止まらなくなり、ギリギリまで追い詰められた状態で、何故か逆に冷静さを取り戻した。

 人間、死ぬ直前ほど冷静になるものなのだろうか。

 取り戻した冷静さで情報を整理しよう。

 僕はどうして今、涎を垂らした肉食獣と対峙しているのだろう。

 つい先程までいつも通り家でラノベを読んでた筈なのに……。

 時は1時間ほど前(体感)に遡る。


――

  

 僕はいつも通りに学校から下校していた。いや、確かに少しは特別感があったのかもしれない。

 そう、なんといっても今日は僕が半年間楽しみにしていたライトノベルの最新刊の発売日なのだから。

 学校から家までの帰り道に通いの本屋がある為に、僕は


[本屋に寄る→目的のラノベを買う→ベッドでゴロゴロしながら読む]

 

 という、「NO」も「能」も欠如したフローチャートを頭の中で完成させていた。


「これ、お願いします!」

「畏まりました。袋はどうされますか?」

「大丈夫です」


 目的のラノベは滞りなく手に入り、目的のラノベを手掴みのまま、家まで全力ダッシュ決めかけていたとき、


「ん?」

  

 さっきはなにも落ちてなかった筈の、書店の前にキーホルダーのようなものが落ちていた。(今となって考えれば可笑しなことだが)

 引き寄せられるように、何かに魅入られるように、そのキーホルダーを拾い上げ、交番に届けようともせずに、通学鞄に放り込んだ。

 そのまま帰宅し、鞄を床に置き、ベッドにダイブし、計画通りにラノベを読み始めた。 

 ここで、第二の異変が訪れる。

 いつもは言葉には出さないのに。

 僕は独りごちてしまう。


「僕も、異世界召喚されたいなぁ!」


(結果を知ってる僕なら嫌でもわかる。ここで、神の一手が決まってしまったのだろう)


 通学鞄のキーホルダーを入れていたポケットが光り出した。


「何だ! 眩しッ」


 眩しさで目を塞いだ後直ぐに、浮遊感を感じた。


――


 恐る恐る目を開けるとそこは、

 白い部屋だった。

 何もないとはそのままの意味で家具や扉、もはや壁すらも無かった。

 だが、何故か部屋であることだけは認識できた。

 漫画やラノベ、ゲーム、アニメ等、様々なサブカルチャーを広く楽しんできた僕の脳内は『不安』と『何かが起こった高揚感』が50:50の割合で占拠されていた。


「次は君か」


 色々と考えが纏まらないうちに(あの状況では確実に纏まらないのだが)背後から若い男の声が聞こえた。

 振り向くと同時に、僕の脳内にはある2文字が浮かび上がる。

 それは


「神様」

 

 だ。

 このアニメ文化大好き高校生のチンケな頭では、この展開的にはこの解答しか出てこなかった。

 振り向いた先には声通りの20代前半くらいの顔つきで、スーツを着こなした、とても神様とは呼び辛い金髪の男性がポケットに手を突っ込んだまま立っていた。


「神様か。まぁ、ほとんど正解だ。なんたって私は【境界の神】だからね♪」


 神らしからぬ浮ついた口調で男は答えるが、ちゃっかりと僕の頭は覗かれていたらしい。

 しかし、僕もそこまで驚かなかった。伊達にアニメやラノベを鑑賞してきたわけじゃない。

 伊達に100%必要のない妄想を繰り返してきたわけじゃない。

 そんな状況なのに僕は冷静さを取り戻した。


「ふぅーん。動じないか……」


 男(自称:境界の神)は僕の次の出方を伺うように、僕の全てを見通すように、僕の瞳をまじまじと見ていた。

 その状況に耐えかねて僕は声を発した。


「ぼ、僕にはどんな能力が与えられますか?」


「本当に神ですか?」や「今どういう状況ですか?」など、普通に聞くべき情報をすっ飛ばし、質問してしまう。


「ふっ、ふっ、ふっははははー! この状況でその質問か。君は面白いね」


 腹を抱えて【自称:境界の神】は笑い出した。

 

 こういう状況に慣れてなくはないが、目の前で自分の質問を笑われるのはとても恥ずかしく、赤面してしまう。


「いや、なに。そんなに赤くならなくてもいいよ。初手でそんな質問してきたのは君が初めてだから私も面食らってじまっただけだよ」


 【自称:境界の神】に励まされてしまう。


「そうだね。質問に答える前に、少し説明をしよう。あと、そうだね、私のことは「ボーダー」と呼んでくれ。ずっと【自称:境界の神】って呼ばれるのもなんだからね」


 まだ、一度もそれを口に出してはないのだが。

 という呆れのような感情を飲み込み、僕は、「ボーダー」の話を聞き始めた。

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