第37話 背を押す少年
「なんか……ごめんな。気まづい感じになって」
「僕の方はいいんですけど、それよりルーティさんの方は大丈夫ですか? 正直、こんなに動揺すると思ってませんでした」
「慣れてないんだよ。そもそも異性からあんなに悪意を向けられたのは初めてだ。それに、女の涙を見て動揺しない奴なんて屑しかいないだろ。それが自分のせいで流れたものならなおさらな」
「意外ですね。ルーティさんほど優しい方ならそういう経験のひとつやふたつしていると思ってました。それに美形ですし」
「誠実? 優しい? 美形? そんなおべんちゃらは後にしてくれ」
全くもっておべんちゃらとか世辞を言ったつもりは無いんですけど……。
まぁ、謙虚なところもルーティさんの美点なのでしょう。
「まぁ、今はそれで良いです。ただ、ひとつあなたに言っておかなければならないことがあります」
「?」
「と言っても、賢いあなたにはわかっているのでしょう。セシリフォリア様のあの悪意は好意の裏返しです。そこは自覚して、自責して下さい」
「……あぁ。反省している。俺の思わせぶりな……自分勝手なあやふやな態度のせいで、セシリーを傷つけてしまったんだ」
「まぁ、こんなこと私に注意されるよりも前に、きっとルーティさん自身が自分のことを許していないのだと思いますし、これ以上の言葉は慎みます。次はこれからのことを話しましょう」
「これからの、こと?」
「そうです。起こってしまったことはもう、どうしようもない。だから、今からの対処法を考えるんです。……挫折したとき、そのまま立ち止まってしまっては終わりですから」
そう、あの時の僕のように……。
「ただし、その前に一つはっきりさせておきたいことがあります」
「はっきりさせたいこと?」
「はい。あなたは、セシリフォリア様のこと、どう思ってるんですか?」
「そ、そりゃあ、さっき言ったみたいに、好きな人の妹だとー-」
「そういうことじゃありません。立場じゃなく、きちんと貴方の気持ちを示すんです。貴方は、セシリフォリア様にどのような感情を向けているのですか?」
その問いが、この場に与えたのは沈黙だった。
ルーティさんは歯を食いしばり、瞼を閉じていた。
普段の会話なら、とっくに他の話題にすり替えているタイミングだが、この時、この場において、ルーティさんを逃がすわけにはいかないと思った。
この時を逃がしてしまえば、きっとルーティさんは一生逃げた人生を送ってしまう。心の一番大事な部分をはぐらかし、ずっと自分の本音を隠し続けることになる。
そんなことは避けなければならない。僕の尊敬するルーティさんに、そんな人生を送ってほしくない。だから、僕は再度口を開く。
「どれだけ時間をかけてもいい。だから、向き合って下さい。セシリフォリア様と。ロベリス様と。そして、自分自身と。そして、答えを聞かせて下さい。幸いまだ夜までには時間があります」
そんなことを笑顔で告げてみた。
歳下の分際で偉そうだったろうか?
でも、これに関しては、女性経験という一点に関して言えば、僕はルーティさんよりも先輩だ。
だから、このくらいの生意気は許してほしい。
そんなことを考えていたその時、ルーティさんの額から一粒の汗が机の上に落ちた。
そして、数秒した後、彼は口を開いた。
貴族令嬢に一目惚れしたので、豚貴族に嫁ぐ前に全力を以て寝取ります キエツナゴム @Nagomu_Kietsu
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