第35話 心慌意乱の閉会式
「では、遅ればせながら、優勝者と準優勝者のご登場です!」
大きな声での紹介と歓声を花道に俺とルーティは表舞台に登場する。
お母さんが言っていたように、本当に観客と主催者側の人達は揃いきっていた。
そこには、俺たちの立つ台の他、赤い布を被せられた何かを載せた机と、黒い袋が用意されていた。
「まずは、2人の昨日の素晴らしい戦いぶりに、拍手をお願いします!」
もともと大きかった拍手の音が更に大きくなる。
あまりこういう雰囲気は好きではないのだが、偶にはいいものだな。
拍手が鳴り止むと、カーネスさんは進行を進める。
「ありがとうございました! 次に主催者、アルカド・リブロニア様によるコメントを頂戴致します!」
カーネスさんは、開会式同様、持っていた魔道具をアルカドに手渡す。
「開会式の際にも紹介に預かったアルカド・リブロニアです。まずは、この大会の参加者、協力者様に多大なる感謝を申し上げると共に、その健闘に敬意を表します」
言っていることはまともだ。
しかし、やはりこの冷たい声ではその何もかもが通じない。その態度と言い方からこの人の感情が読み取れない。
この人の声から、熱が一つも感じられない。
「そしてまた、死者と共に大きな負傷者が出なかったことに関しましても、皆様の協力あってのものと思っております」
「は?」
つい、アルカドのその主張に声と殺気が漏れてしまう。
コイツは何を言っている?
俺は知っている。
ヤマトさんは冒険者人生を奪われ、他にも多数の負傷者が出たことを知っている。
だが、コイツはのうのうと今、『負傷者はいなかった』と告げているのだ。
「……ルーティ選手、何か言いたいことでも?」
反論しようと思った。
「ヤマトさん達のことはどうなる!? お前には、あれが負傷者に見えていないのか!」と。
「あの人たちは、お前らの愉悦や目的の為に戦ったんじゃない! 彼女達の誇りを踏み躙るな」と。
しかし、今一歩のところで隣の少年から静止されてしまう。
リオは、俺の身体の前に手を差し出す。
顔に目を向けると、彼は目を瞑り、首を横に振る。そして彼は冷静に口を開く。
「いえいえ。申し訳ありません。こちらの話です。この場とはいえ、積もる話で盛り上がってしまいました」
「昨日あれだけの闘いを見せてくれたのです。話があるのもわかりますが、この場は式典。切り替えをお忘れなく」
「ハハッ。肝に銘じます」
リオはけらけらと笑ってみせた後、こちらを見ることなく、意識だけをこちらに向ける。
そして、声のボリュームとトーンを下げてこう告げた。
「言いたいことはわかります。本当は僕だって今すぐ糾弾してやりたいところです。しかし、それをしたところで今の準備でははぐらかされてしまうのがオチ。今は堪えましょう」
コイツ、俺と同じように何か察しているのか?
「おい、リオ。お前ーー」
「後で話します。閉会式後、少し時間ありますか?」
俺は、ゆっくりと頷く。
「では、会場近くの酒屋で会いましょう」
再度頷くと、リオは何もなかったかのようにこちらにむけていた意識を外した。
「はい! 貴重なお言葉を頂いたところで、次は賞金の授与になります! セシリフォリア様、よろしくお願いします!」
「はい。こちらが今大会の優勝賞金である100万ダリアになります!」
セシリーはそう言いながら、机の上の赤い布を持ち上げる。
すると、上げられた布の隙間から次々と札束が姿を表した。
「「「うぉー!!!」」」
それと同時に会場は湧き上がった。
そういえば、普通は開会式で実物を見せられるかと思っていたが、最近はセキュリティの問題で、譲渡の瞬間くらいにしか見せないようにしているのだろうか。
そんなことを考えていると、次にセシリーは黒い袋を手に取る。
「この賞金は、こちらの超小型マジックバッグに収納させていただき、後程譲渡させていただきます」
マジックバッグ。実物……それもこんな小さいものなんて初めて見た。
確か、中を空間魔法で広げられた希少魔道具だよな?
むしろこっちの方が価値があるんじゃないかとも思うがありがたく頂戴しよう。
「そして、次に準優勝者にはこちらの賞状を授与させていただきます。準優勝者は前へ」
「はっ!」
リオは、騎士の振る舞いに則り、敬礼の後、頭を下げ、セシリーに近づく。
コイツ、本当に国家騎士を隠す騎士あるのか?
まぁ、それはさておき、リオは賞状を受け取った。
「そして、最後に副賞の話をさせて頂きます」
そう言って、セシリーは俺の前に立った。
「あなたは、私の護衛の権、引き受けてくれますか?」
ここで敢えて言葉を崩してくるのはセシリーの性格の悪さが出ているとは思うが、残念ながらもう答えは決まってしまっている。
「はい。喜んでお引き受けさせて頂きます」
その返事の瞬間、脳内に声が響く。
『おめでとう、お兄さん。そして、これからよろしくね』
「!?」
セシリーはウインクして見せる。
また、テレパスか。恐らくこの感覚に慣れることはないのだろう。
ふとこの瞬間、魔が刺してしまった。
多分、澄ました顔で能力を使う彼女に腹が立ったのだ。
その無自覚のうちに人の上に立つこの少女に罰を下そうと、そう軽く思っただけなのだ。
俺は気がつくとセシリーの手を取りーー
ーー手の甲にキスをしていた。
沸騰するセシリーの顔。
湧き上がる黄色い歓声。
怪訝な目でこちらを見るアルカド。
自分の謎の行動に赤面する俺。
そんなカオスで閉会式は幕を閉じた。
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