第33話 決着


「半我トーゴク流拳法・三の拳・【曙光】」

「おっとっと。危ない危ない」


 先ほどから攻撃がいい感じに勢いを避けられる。

 発勁型の曙光は重心をずらされるとはまりにくいな。


「だったらこれはどうだ!」

「ちょっとちょっとちょっと!?」


 曙光を避けたリオの右腕を掴む。

 そしてーー


「背負い投げ!」

「カハッ!」


 自身の後ろの地面にリオの身体を打ち付ける。

 よし、手応えはある。それじゃあこのままーー


「なぁんてね。王宮剣術奥義・【アロー・オブ・ライト】!」

「な!?」


 反射的に首を捻る。

 顔横を何か掠めたと思い、頬をさするとーー


「……なかなか危ないことしてくれるじゃないか」


 手に赤い血がついていた。

 完全には避けきれず、当たってしまったらしい。


「これでも僕はこの大会に賭けてるんでね。全力を以て挑ませてもらってますよ。まぁでも、まさかこれまで避けられるなんて思ってませんでしたが」


 戦いが始まって、30分くらいだろうか?

 いつもなら余裕で戦えている頃合いだろうが、今回は相手が相手だ。大技の撃ち合いで、既に体力の大半を削られている。

 そして、恐らくそれはリオも同じだ。

 表情で隠せても、身体の動きでわかる。


「なぁ、リオ。消耗戦は辞めだ。お互い、次の一撃で決めるぞ」

「ありゃ。大技が苦手な僕からすれば、このまま打ち合っていたいんですけどね」

「茶番はよせ。お前も準備してたんだろ?」

「アハッ。バレてました?」

「お前の剣から余力を感じていたぐらいだ。何をするかまではわからん。でも、全力で来い。俺も全力でぶつかる」


 俺は拳を前に突き出す。


「そうですか。それは良かったです。遠慮せず放てる」


 それに対し、リオも剣を向ける。


「その前にひとついいですか?」

「ん? どうした?」

「この試合、楽しかったです」


 リオは剣と一緒に笑顔を向ける。


「あぁ、俺もだ」


 俺も、拳と笑顔で返す。


「でも、勝つのは僕です」

「いいや、笑いが俺だ」


 両者、剣と拳を構える。


「半我トーゴク流拳法の使い手、ルーティ・ローディア」

「国家騎士第7師団副長、リオ・ブレイヴ」


「「参る!」」


 名乗りの後、両者地面を蹴る。


「王宮剣術最終奥義・【希のぞみ】」

「半我トーゴク流拳法の型・【緑閃光】」


 拳と剣が交わる瞬間、会場は光に包まれた。


ーー


 いつの間にか閉じていた瞼を開ける。

 身体の節々が痛い。

 痛む部分を見ると、赤黒い液体が流れ出ている。

 そして、自分がすべきことを思い出し、前を向く。

 すると、やはり彼もまだ立っていた。


「まだ……立っているのか」


 そう、ボロボロの身体で、震える足で、リオ・ブレイヴはまだ立っていた。 

 俺と同じ様に。


「僕はまだ、立っているぞ……」


 剣先の折れた剣をこちらに向ける。

 しかし、俺にはわかる。もう彼は戦えないということを。

 でも、彼は騎士だ。則ってやることにしよう。


「そうだな。それじゃあ最期までやり切るとしようか。半我トーゴク流拳法・一の型・【閃光】」


 残った体力を使い、リオの身体に高速で近づく。

 俺が優しく拳を当てると、リオの身体はゆっくりとこちらに倒れ込んで来た。それを支えつつ、俺は審判の方に顔を向ける。


「そこまで! この試合、ルーティ選手の勝利! したがって、リブロニア領最強武人トーナメント大会の優勝者は、ルーティ選手となります! 皆さん、拍手をお送り下さい!」


 勝利宣言を聞いた俺は安心したのか、ふと崩れ落ちてしまった。

 スタンディングオベーションと、歓声、そして、救護班の掛け声が混じる会場で、俺の意識は薄れていった。

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