第32話 決勝戦

「これより、決勝戦を始めます! ルーティ選手、ならびにリオ選手は、規定の位置についてください!」

「ウォー! 行ったれ、ルーティ!」

「負けるなよ、最年少!」


 様々な野次が飛び交う中、審判による掛け声は成された。


「正直、君がここまで残るとは思ってなかったよ、リオ」

「ハハッ! それはこっちのセリフですよ、ルーティさん」


 俺もリオも笑顔で話す。


 あぁ、コイツとは久しぶりに、楽しい勝負が出来そうだ。


 そんな感覚がビンビンたら俺に伝わってくる。この感覚はそうだ、お嬢様と模擬戦をしたあの時の感覚によく似ている。


「両者、準備はいいですか?」


 2人ともそれに頷きつつ、俺の方から口を開く。


「なぁ、リオ。ここは、『俺が勝つ』とか、『お前には負けない』とかじゃなく、お前に言いたいことは唯一つ」

「なんですか?」

「良い試合にしよう」

「はい!」


 リオの元気な返事の後、審判の手は振り下ろされる。


「試合開始!」


 その瞬間だったーー


「先手は貰いますよ!」


 剣を後ろに構えたリオがこちらに突っ込んできた。

  

「あげたんだよ! 歳上だからな!」


 それを軽くかわすと、すかさずもう一撃を振りかざしてくる。


「そう言ってなめてかかった人は全員負けて行きましたよ!」

「そんな奴らと一緒にすんな!」


 俺は、振りかざされた剣の持ち手付近を力強く握って勢いを殺した。

 そしてそのままリオの腕を掴んで――


「ちょ、ちょいちょいちょい!」


 背負い投げをした。

 しかし、リオは、当然のように受け身を取り、体勢を持ち直す。

 

「危ない危ない。結構やってくる感じなんすね。良かったです、なめられてないみたいで」

「俺は、なめていい相手しか手を抜かないんでな。相手の技量を見極められないほど馬鹿じゃない」

「そうですか。じゃあ、全力でいかせてもらいますよ!」

 

 再度リオは突っ込んでくる。

 かわされた攻撃をもう一度?

 

「いや、これは――」


 リオは俺の目前に剣を凄い勢いで振り下ろし、その勢いで宙を舞った。

 何度見てもこれは、剣術じゃなく曲芸の域だ。

 そのあまりの勢いにキャリーを連想してしまうほどだ。


「王宮剣術奥義・【鷹狩】!」


 急降下するリオの身体は真っすぐこちらに近づいてくる。

 剣の先が身体に触れる寸前で、俺は身体を捻ってなんとか回避に成功する。


「あれ? この技を初見で避けられるなんて初めてですよ」

「いや、この技が本当に一回目だったら俺も当たっていた。見たことあっても避けてギリギリだ。こんなの俺じゃなかったら大怪我だぞ?」

「『見たことあっても』? どこかでこの技を見たと? これは王宮剣術の奥義ですよ? 国家騎士ですら、団長、副長クラスでしか扱えないこの技をどうして?」

「……まぁ、隠すことでもないか。俺の身内に国家騎士がいるんだよ。それで、昔からの流れでよく模擬戦もした。その時だよ、さっきの技を初めて受けたのは。でもお前、嘘ついてるだろ? 別にそいつは団長でも副長でもない。それでもその技を使って見せたぞ?」


 そうだ。俺とお嬢様は年に一度会っている。まぁ、ここ2年は忙しくて帰省もできていなかったが……。それでも文通は続けている。もし出世していたなら、その知らせを受けるくらいの付き合いはしてきた筈だ。


 第一、国家騎士は年功序列。入団から少なくとも15年の経験が必要だ。いくらお嬢様の剣の才が優れていたとしても、国家騎士5年目の彼女が就ける役職じゃない。


「あ、ありえません! この奥義は例外なく副長、団長になって初めて教えられる秘技です。そう簡単にマネられるようなものではありません」

「でも、実際に見ていたから避けられたわけで……まぁ、いい。今はこの勝負を楽しもう」

「僕はまだ納得してないんですが……僕が勝ったら詳しく教えてもらいますからね!」

「そういう冗談はもう少し俺を追い込んでから言え」


 そして、俺は構えをとる。

 深呼吸をしながら相手の動きをじっくりと観察する。


「来ないんですか? だったらこっちからーー」

「半我トウゴク流拳法・壱の拳・【閃光】」

「!?  いや、ならここは……王宮剣術奥義・【スラッシュライン】」


 両者、技を繰り出しえも言われぬほどの勢いですれ違う。


「クッ!」


 右腕を掠めたか。だが、こちらも手応えがある。


「痛たたた。すれ違い際剣を避けつつこの勢いって、ちょっと強すぎません?」

「それはお互い様だろう? まさか俺のあの構えを見た上で回避に動かず突っ込んでくるとは恐れ入るよ」

「『剣には剣を』が王宮剣術の極意ですから」

「俺は拳なんだが?」

「『拳にも剣を』ですよ。ハハッ」

「テキトーだなぁ。……なぁ、リオ。こっからは拳と剣で語るぞ」


 リオは、朗らかな顔を解き、また真剣な表情に戻る。そして、ゆっくりと頷いた。


「ルーティさん。僕、今日あなたと戦えて良かったです」

「俺もだよ、リオ」


 そうして、2人の闘いは佳境を迎えていく。

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