第28話 少女の願い

「で、話とは何だ?」


 合流したセシリーに話を切り出す。


「まずは、先程の非礼、母に代わりお詫びします。ごめんなさい」

「俺はそんなことを聞きにここにきたわけじゃない。それに君からの謝罪を聞く意味もない」

「そう……ですか。では、早速本題に入らせていただきますわ。ルーティさん。あなたは、あのアザミという魔法使いに見覚えはありますか?」

「……無いな。アレが初対面だ。そもそも、俺が魔法を使えるような貴族と関わりがあるはずない」

「そうですか。でしたら、クリミナルウィザードという言葉に聞き覚えはありますか?」

「クリミナルウィザード……そうか。奴はそうなのか」


 クリミナルウィザード。

 国家全体で指名手配される違法魔法使いのことだ。彼らは、自身の魔法を使い、犯罪を繰り返す。天に恵まれたその才能を、他人を傷つける為に使う愚か者に付けられた称号だ。


「はい。証言から察するに、彼は『爆音の魔法使い』と呼ばれ、リブロニア領近くで犯行を繰り返すクリミナルウィザードです。その犯行は、誘拐……そして殺人がほとんどだとか」

「殺人……やはりそう言う部類か」

「何か感じるものがあったのですか?」

「いや、感じ取るってほどのものじゃない。ただ、アイツの雰囲気が似ていただけだ」

「似ていた?」

「……産まれが産まれなだけに、殺人犯も度々見てきた。顔は見えなかったが、目だけでわかる。奴はそう言う目の持ち主だ。そう聞いて仕舞えば、やはり俺はアルカドには賛同できない」

「今回はそのことについて話に来たのです。何も、お母様の言うことを聞かなくてもいい。ただ、私のお願いを聞いて欲しいのっ。お兄さん!」


 セシリーは、言葉遣いの変化に気づいたのか、慌てて手で口を塞ぐ。

 正直、こういう風に言われると俺はちょっと弱いが、故意でもないらしい。


「取り敢えず、話は聞いてからだ」

「そ、そうですよね。結論から言えば、ルーティさんには、あのクリミナルウィザードを捕まえる手伝いをしていただきたいのですわもちろん、タダでとは言いません。報酬もお渡しするつもりです」

「捕まえる? 母親は、放置すると言っていたが?」

「ですから、私のお願いなのですわ。私は、リブロニアの意向とは別に動いています。私には、独自のルートから公にならない形で犯罪者を捕らえる方法がありますの」


 まぁ、彼女が普段からもう一つの格好で、前のようなことをしているんだったら、そう言うルートを知っていても、不思議じゃない……というか、持ってい無い方が不自然だ。


「今回もそれを使うと。で、俺は何をすればいい?」

「そのルートを使うには、少し時間がかかるのです。いつもと違い、今回は緊急の場。協力者がここに来るのが、どれだけ頑張っても明日の昼頃になるのです」


 明日の昼と言うと、予定では俺とアザミの試合中か、試合後かその辺りか。


「だから、それまで俺に時間稼ぎをしてほしいと」

「はい。あのクリミナルウィザードも、試合を棄権するようなことはないと思います。何せ、魔法での暴力の為にこの大会に参加してるくらいなのですから」

「捕まえられる保証はあるのか?」

「そこはご安心ください。彼らの腕は確かです」

「そうか……」


 首をぐるっと一回転させ、俺はもう一度深呼吸をする。

 

「わかった。お前に賭けてみることにする」

「ほんと? やったぁ! お兄さんならそう言ってくれると思ってたよ、ありがとう!」

「!!?」


 セシリーは俺の腕に抱きついて来る。


「おいおい、止めてくれ。こんなところ見られたら、大スキャンダルだぞ? それに、俺にはもう心に決めた人がいるんだ」

「心に決めた人? それは誰ですの?」


 セシリーは腕を離さずに俺の顔を見る。

 その表情に少し暗さが入っているのはきっと俺の気のせいだろう。


「あぁ。いずれ君にも話そうと思っている。……そうだな、この大会を優勝できたら、話すことにしよう」

「ほんと?」

「あぁ。必ず」

「じゃあ、それまで待つことにする。まぁ、もし優勝できなくても、魔法で心を読めばいいだけなんだけどね」

「お、おい! それはズルだろ!」

「冗談よ。これは約束だもの。でも、だったら絶対優勝してね? 私も聞くまでは諦められないじゃない」

「諦める?」

「あ……やっぱ今のナシ!」

「??」


 セシリーの顔が突如赤くなる。その顔を隠し、一度胸を叩いてから、彼女はもう一度こちらに目を向ける。


「まぁ、その為にも明日の試合はこなしてみますよ」

「うん……頑張ってね?」


 その顔からは、少々の不安を読み取れた。

 きっと心配してくれているのだろう。


「言われずとも。それと、報酬はいらない。子供から金を巻き上げる趣味はないからな」

「こども……か。確かに子供ね」


 彼女の妙に嬉しそうな表情を最後に、俺は大会へと戻るのだった。

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