第21話 選定試験

「ほう、やはりお前は残ったようだな、少年」

「まぁ、これでも優勝目指してきてますからね」


 いつの間にか自分の番になってしまった。

 

 あの女性冒険者……ヤマトさんだっけ? 彼女の選定試験が終わった直後、同じように逃げ回ればいけると思い名乗りを上げた男冒険者がノされ、その衝撃にもう一人が逃亡。


 残った俺の番が回ってきたというわけだ。


「それは結構なことだ。しかし、道着で良かったのか? 他の服も用意すればあるが……」

「いや、これでいいです。服汚したくなかっただけですから」

「ほぅ。お前がそれでいいなら、構わんが……。言い訳は聞かんぞ?」

「言い訳なんてしないですよ。よし、そろそろ始めてもらって大丈夫ですよ」

「武器は持たんのか?」

「俺の武器はこれですから」


 そう言いながら拳を突き出す。


「ほぅ、俺と同類か……面白い! さぁ、計測を始めてくれ」


 審判の女性が腕を上げる。


「試合開始!」


 腕が振り下ろされた。


「……なんだ、動かんのか?」

「これが俺の戦い方ですから」

「では、俺から行くとしよう。……ハァ!」


 急速でアキレアさんの巨体がこちらに近づいてくる。

 なるほど。間の取り方も師匠そっくり。基本的なトーゴク流格闘技の動きだ。


 だけど――


 速さが足りない。


「ふん!」

「よっと」


 迫りくるアキレアさんの剛腕を避け、両手でつかむ。

 そして、そのまま背負い投げの姿勢を取る。


「ウォォ!?」


 そのまま地面に叩きつけようとするが――


「ふん!」



――間一髪のところで、体勢を持ち直されてしまう。


 身長差と、投げ方が甘かったのもあるが、大きくは……


「やっぱり、トーゴク流のかなりの使い手ですね」


 体勢を持ち直すのが上手すぎる。並大抵の修行ではたどり着けない域だ。


「ほぅ、わかるか? ということは、お前もこの格闘技に魅入られたというわけか」

「いやぁ、教えていただいた師匠が使い手だっただけです……よ!」

「む……!」


 返答と同時にアキレアさんの胴体に拳を打ち込む。


「……ほぅ、これはなかなかだが、これで終いか?」


 驚いた。

 多少加減はしたつもりだったが、倒すつもりで打った拳を身ひとつで受けきられるとは……。

 この巨体、見掛け倒しではないようだ。


 すかさず、アキレアさんは両手で俺の腕を掴む。

 俺はそれと同時にに握っていた手を開く。


「……そうですね。これを耐えられるような人を超えた人たちが優勝を争うんですから、少しだけこの大会にも恐れを覚えましたよ」

「む?」

「半我トウゴク流拳法・参の拳・【曙光】」

「ガハッ!!」


 アキレアさんの巨体は、吹き飛び、道場の壁を打つ。

 やり過ぎたか?

 いや……


「……天晴だ、少年」


 壁から地面に辿り着く前にアキレアさんは立っていた。

 

 嘘だろ? 本気の一撃だぞ?


「……驚きです。まさか、これを受けてまだ立っていられるとは……」

「伊達に受け身を学んできてないからな。だが……流石に効いたな……」


 そう言いながらアキレアさんは崩れ落ちた。

 気を失ったようだ。

 息はあるようだが、反応は無い。


「そ、そこまで! アキレア教官の戦闘不能と見なし、受験者の勝利です」


 アキレアさんの姿を見て審判は唖然としながら、判定を下す。


「救護班! 一応、アキレア教官を運び出せ!」


 呼ばれて、救護班たちが道場の外からやってきて、アキレアさんを運び出す。


「や、やり過ぎちゃいましたかね? すいません、次にも人が残っているというのに……」

「いえ、そちらの心配することではありません。教官も代理を用意しています。それに、あの程度なら日常茶飯事ですから」

「そ、そうなんですね」


 どうやら、この道場の指導はかなりハードなものらしい。


「おっと、これを渡すのを忘れていましたね。3日後の本戦に、忘れずご持参ください」


 そう言いながら、審判は参加証を手渡してくる。


「ありがとうございます」


 それを受け取る。

 そして、審判とアキレアさんの方向を向き、礼をする。


 そして、さっと服を着替え、道場をあとにしようとした時、ふと考える。


 そういえば、教官のレベルが同じくらいじゃないと、参加者に失礼なのでは?


 気になってこっそりと、次の教官の登場を待つと、


「なんだ、アキレアの奴、受験者にやられたのか? ハハッ! アイツもヘマをすることがあるんだな」


 大きな木刀を持った大男が道場の奥から登場する。あの体格……アキレアさんより大きくないか?


 どうやら俺の心配は完全なる杞憂だったようだ。

 俺はこの大会の公平性に安心しつつ、帰ろうと後ろに向こうとしたそのとき――


 こちらに手を振る少年がいた。俺の後ろに並んでいた金髪の少年だ。


 おかしいな。気配は消していた筈だが……。


 少々の違和感を感じつつも、こちらもこっそり手を振り返し、帰路についた。

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