コンプレックスの塊 〜劣等感に苛まれるので転生後も愚直に〜

@toutetsu800

プロローグ

9月の始め、やっと夜が過ごしやすくなってきた季節。

 俺、安元 信幸は街灯が指す仄暗い夜道を自転車を押しながら歩いていた。


「はぁ…やっぱ俺じゃ無理だったのかなぁ」


ふと、そんな言葉が零れる。

高校卒業後、家計を助けるためにすぐに建築会社就職、現在は資格を取るべく夜間の専門学校に通っている。

仕事は朝7時開始、夕方5時頃に仕事を上がらせてもらい、6時から10時頃まで学校で学び、そこから帰宅し、夕食を摂り資格のための勉強。

寝るのはだいたい2時。そんな生活を週6で続けていた。

通い始めて約5ヶ月、早くも心も体も悲鳴をあげていた。


「ただいまぁ」


時刻は夜の11時、親や弟達は皆寝静まり小さな寝息だけが聞こえてくる。

ご飯を食べて、シャワーを浴び、自室に篭って勉強。

11月には2級施工管理技士の試験があるため、気合を入れて勉強をする。


「ふぅ…」


決めた範囲の勉強が終わり時計を見ると午前4時。


「やば、寝ないと…。」


ふらふらしながら寝床につく。

寝れる時間は2時間ほどしか無いが寝ないよりマシだ。


朝6時、起きて作業服を着ながらスマホを見ると、双子の弟から今度近くで試合有るから見に来てよ、とメッセージが入っていた。

(仕事が詰まってるからなぁ)

そんな言い訳を考えながら、行けないと返信しとく。

確かに仕事は詰まっているが、弟を見ると酷く劣等感に苛まれるため出来れば会いたくないのだ。


と言うのも弟は自分と違い、勉強もスポーツも出来る。

高校もA特待で学費、寮費等全額免除で引き抜かれるほどだ。


勿論、比較対象はいつも俺で親からも周りからも、弟はこうなのにお前は全然、みたいな言葉を浴びせられる。

どんなに地道に努力しても弟には勝てない。

だから会いたくないのが本音。


朝から嫌なことを思い出し沈んだ気持ちのまま会社に向かう。

まぁ、会社に行っても嫌な気分になるから大して変わらないが。


会社に着いて朝のミーティング、材木や道具を準備して上司とトラックに乗り込む。

ここからがキツい。

現場に着くまで愚痴や昔は悪かった話だのを聞く。更には最近のお前みたいな若者は貧弱だのなんだの。

正直ウザったい事この上ない。


現場に着くと材木を降ろし、大工さんに挨拶し、棟上げの準備。

今回は、一軒家の棟上げ。大工さんは11人。

土台引きは終わっており、後は柱や梁等を組むのみ。


「今日は風が強いなぁ」

「上登る時気をつけんとね」


大工さんが土台の上で談笑している。

ベニヤ板を運んでいる最中、事件は起きた。

急に突風が吹いてきてベニヤ板を持っていた俺は風に煽られ転ぶ。

その上にきちんと繋いでいなかったのだろう、足場の棒が倒れてきたのだ。

上から降ってくる鉄棒を最期の景色に俺の意識は電源を切ったテレビ画面のようにぷっつりと途切れた。

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