14.契約




 


 「ちょっと奏~。 もう8時になるけど、起きてるの〜?」


 1階の方から、カナの母親と思われる声が聞こえてきた。


 そう言えば、ずっと彼女と話していて時間のことを忘れていた。もう、そんな時間か……

 


 「……ごめん、お母さーん。ちょっと、今日お腹痛いから学校休むー。」



 いや、サボるんかい……


 まぁ、契約はなるべく早く済まさないといけないんだけど……学校を休むほどではないと思うんだがな。



 「あら、そうなの? 熱はある?」



 「んー……まぁ、微熱くらい。」



 「……分かった。学校には連絡いれとくから今日は寝てなさい。お母さんは仕事行かないといけないから、面倒見れないからね。」

 

 

 「……ごめん、ありがとう。」



 アッサリしてんな〜。まぁ、小学生の頃からカナは優等生だったからな。学校休むことも滅多になかったし、信用されてるっぽい。



 「……制服にも着替えたのに、いいのか?」



 「……いいのよ。って、アンタ私の格好見えてんの?!」



 「あぁ。見えてるぞ。お前からは見えてないけど、俺はお前の前に立ってるんだ。」


 何を当たり前のことを……



 「……え、てことは……? 」



 彼女はそう言うと、座っていたベッドから勢いよく立ち上がり、周りをキョロキョロと見回した。



 「……あ、カピカピのパンツなら、お前が座っていたところから斜め右に3歩だ。」




 「~~~~~~~~~~~ッ!!」



 言葉にならない悲鳴をあげて、カナは床に落ちていた“ソレ”を慌てて拾い上げた。



 肌がもともと白いからか、顔が赤くなるとすぐ分かる。今、彼女の顔はこれまでに見たことないくらい真っ赤っかだ。



 「……ねぇ、アンタ。」



 「……いや、ごめんなさい。部屋に入ったときに偶然目に入っーー」



 ぶんっ!



 俺が言い訳をしようとしたところ、俺がいるといった場所に目掛けて彼女は無言で拳を振るった。



 スカッ



 残念ながら、俺がいるのは彼女の前であっても存在の次元が違うので、触れることは出来ないのだ。



 「 アンタ、どこにいんのよ。1発殴らせなさいよ……」



 こわいこわいこわい……



 「 いや、パートナーとして契約しないと、俺の姿は見えないし、触れることは出来ないんだよね……だから、、、」



 「 ははっ……じゃあ、契約しよ? アンタのこと1発殴るまでは腹の虫が収まらないから。」



 だから、こわいって……



 「 いや、そのね、契約は今後のためにしないといけないんだけど……殴るのは勘弁して貰えーー」



  「無理。」



   即答かい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 「……じゃあ、契約について話すぞ。」



 彼女はムスッとした表情で、腕を胸の前で組んでいる。



 「……なぁ、機嫌直してくれよ。謝ったじゃんか。」



 「……アンタのこと1発殴ったら許す。」



  めんどくせぇ……



 当時のカナはこんなに面倒臭くはなかったと思うんだけどなぁ。俺がなんかヘマやらかしても、「まったくもー、隆一はしょーがないなぁ……」って感じで、結構緩かった気がする。



 恋をしたことで性格が変化したのではないとしたら、初の恋人を失ったことでの喪失感から病んでしまったと考えるのが妥当だろうか。



 「……契約の仕方だが、胸に手を当てて“私は貴方をサポーターとして認めます。”と、心から言えばオッケーだ。」



 「……それだけ?」



 「あぁ。こっちも、“私も貴方のことを主として認めます。”と言うからな。この誓いが重なったとき契約は完了する。」



 これが、主とサポーターの契約。



 契約が結ばれると、


 ・お互いの場所がわかる。


 ・思念伝達を行うことが出来る。


 ・お互い干渉することが出来る。



 と言ったことが出来るようになるのだ。



 「……分かった。じゃ言うよ?」



 「……おう。」



 彼女は右手を胸に当て、囁くように呟いた。




 「……私は、貴方をサポーターとして認めます。」



 「私も貴方を主として認めます。契約はここに完了する。」



 そうお互いが呟いた瞬間、どこからともなく強風が部屋に巻き起こる。


 本当に小さい竜巻のようなものは、彼女の目の前で激しく吹き荒れている。



 暫く時間が経つと、風が弱くなっていき……



 「……あ。」



 金色の髪、黒と黄色が混ざった鋭い眼光、多少幼さは残るが属に言うイケメン。


 体には、白い布のようなものを何重にか巻いており、2つの立派な白い翼を生やしている。



 「……やぁ、奏さん。俺が……うぐぅっ!?」



 彼女の右ストレートが、俺の腹にめりこんだ。



 

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