13.約束





 「……隆一と会わせる?」


 

 カナは信じられないのか、半信半疑と言った具合か。まぁでも、声が少し揺れているから動揺はしているみたいだな。



 「おん、会わせてやるよ。だが、俺に協力して“ある目標”を達成したらだけどな。」



 「……隆一は死んでるんだけど……」



 「……俺は神のひとりだ。死んだ魂を扱うのは俺の役目じゃないが、知り合いがいる。そいつに頼んで何とかしてやる。」



 真っ赤な嘘だ。



 俺が神なのは事実だが、魂を管理するやつに友人なんて居ないし、特定の魂との面会なんてほぼ不可能に近い。


 あと、桜井 隆一の魂は神界ではなくここにあるからな。


 だが、彼女にそれが嘘だと知る術はない。



 「神さま……ね。」



 「あぁ。正確には“愛の神”。世間一般的に人がキューピットと認識しているやつだ。」

 


 「……キューピットって、恋の手助けをしてくれようなのでしょ? つまり、ある特定男子を落とせばいいってこと?」



 「……そ、そうだ。物分りが良くて助かるよ。」



 「……例えば落として付き合っと仮定して、その後、別れるのは自由?」



 「……あぁ、自由だ。……つか、俺は、好きでもない男子を口説いて落とす悪女を演じることを、1人の少女に人参ぶら下げて頼もうとしているわけか。……とんだ神さまだな。」



 こんなことを頼んでいる時分がどんどん嫌いになっていく。カナのためだと思っても、やはり自分の昇格のためという本来の目的は切っても切り離せない。


 また、カナが星海を仮に落としたとしても、直ぐに振ることを前提でのものであれば、星海にトラウマを与えかねない。



 ……俺やっぱり最低だな。



 カナ……お前が嫌なら断ってくれ。やっぱりこれは、お前に強制させるべきものではないと思うんだ。俺への執着心を捨て、新しい恋を見つけて欲しい気持ちはある。だが、好きでもない男を無理に落として、心を弄ぶような真似はカナには似合わない……星海にだって悪いからな。



  だからーーーー




 「……分かった。やる。」



 「……断ってくれてもいいんだぞ? こんな下劣なことを強制させるのは、流石にお前にも男にも悪いからな。」



 彼女の目つきは、もう変わっていた。



 「バカじゃないの? 死んだアイツともう一度会えるんでしょ? こんなチャンス棒に振るわけないじゃん。」



 ……複雑だ。その“アイツ”が目の前の俺だと分かったカナは、どんな顔をするんだろうか。



 嫌われるかな……まぁ、仕方ないよな。



 でも、だとしたら俺の呪縛から解放してあげることが出来るわけだから、かえって彼女にはプラスになるかもしれな。



 そうすれば、星海のことを好きになってくれるかもしれないし……



 「……ねぇ、本当に会わせてくれるんだよね? 嘘だったら、アンタ絶対許さないから。」



 「……もちろんだ。約束は守る。」




 “約束は守る”


 その言葉が、嫌というほど耳に残った。

 



 

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