12.報酬





 「……ふーん、その人は隆一って言うんだ…」



 俺が隆一だと悟られないよう、他人事のように振舞う。


 大丈夫、顔や声は違うんだ。バレるわけがない。

 


 「……とりあえず、隆一くんのことは分かった。でも、元カレなんだろ? 彼のことを忘れろとは言わないから、今は新しい恋をみつけるべきだとは思わないか? 隆一くんも、それを願ってるかもしれないぞ?」



 ……願ってます、はい。



 「……無理。」



 「 な、何故?」


 

 「……私には、隆一以外必要ない。それに、他の男と付き合う真似なんてしたら隆一に失礼でしょ。てか、何? アンタはなんでそこまで私に恋を押し付けてくんの?」


 

 なんでやねーーーーん!


 失礼なわけあるかい……



 「……も、もしだぞ? その隆一くんが新しい恋を見つけて欲しい!! と思ってた場合はどうなんだ?」



 「……うーん。まぁ、でも無理かな。だって、隆一の恋人は生涯私1人だったわけだし、私も隆一と同じがいいじゃん。他の人と付き合っちゃったら、隆一とお揃いじゃなくなっちゃうもん。」



 待ってくれ、本当に仕事にならん!


 なんでなんでなんで? こいつは星海ってやつに恋してるんじゃないのか?


 一切その気配がないんだが?!




 しかも、俺に執着してるのはなんなんだ……



 かくなる上は……これしかないか……



 どっちみち、こいつとは腹を割って話したいと思ってたからな……もう腹をくくろう。




 「……俺がお前に恋をすることを押し付けようとしているのは、完全な俺の事情だ。」



 「ふーん、なら諦めてよ。私は、隆一以外の男と付き合うつもりはないからね。」



 「……だから、報酬をだす。」



 「報酬? 悪いけど、どんなものでも……」



 悪い、奏。少し騙すような形になってしまうことを許してくれ。だが、後悔をさせるつもりはない。


 俺への執着心が異常なことは驚いたし、結構嬉しかった。でも、そんなことは俺が望んでいることじゃないし、カナのためにはならないと思うんだ。




 「お前が俺に協力してくれるなら、その成功報酬に“隆一と会わせてやる。”」





 彼女の新しい恋を実らせれば、俺が正体を明かしても問題ないだろう。それに、契約が切れると同時にキューピットの干渉に関する記憶は消去される。



  問題ない、そう問題ないのだ……




 

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