第3話 逃亡劇
隣の男がいいタイミングでアクセルを踏んでくれたおかげで、僕はおそらく、というかほぼ確実に共犯者扱いをされているだろう。まったくの勘違いなのだが、警察というのは疑うのが仕事と言われているだけあって、こちらの話を聞こうともしないものだ。
流石に逮捕、というのはないにしても、数日は拘束されるだろう。それだけは勘弁願いたかった。
こんなことなら内村に素直に原稿を渡しておくべきだった、というのはまさに後悔先に立たずとでもいうのか。
ちらり、と隣の男をみる。
何を考えてるかわからないその男は、前髪で表情はうかがえないがおそらくまっすぐに前を見ながらハンドルを握っている。
「おい、君。これからどこに行くんだ」
「……」
「降ろして欲しいんだが、できれば駅近で」
「……」
「なんとか言えよ!!」
これが運転中でなければ肩を揺すって話しかけるところだが、そういうわけにもいかない。
しかし先程からこの男、反応が薄すぎないか……?
「まさか聴こえが悪いのか?」
問いかけに、顔が少しだけこちらに向く。どうやらそういうわけではないようだ。
だったら無視してるだけってことか!?
なんだか嫌な気分になってきた。ちょっと悪いことしたな、と反省していたのに。
僕が思いきり睨みつけていると、少しソワソワし始めた。居心地が悪いのだろう、ざまぁみろ!
少し気が晴れたことで、ふと、外に目が行く。
「ところでどこに向かってるんだ、君は。この先は山だぞ」
返答は端から期待していなかったが、それはそれとして、気にはなる。
この先は、喫茶店で女子大生が話していたトンネルがあるからだ。
ここ近年流行り始めた心霊番組でもよく紹介されているのだが、彼女たちが話していたものに加えて、白いワンピースの女が道路の端に立っている、トンネルの中へ歩いて入ると足音が増えるなどのありふれた心霊現象もあるようだ。
僕はあぁいう、低俗なものは観ないので詳しくはないが。
……いや別に、怖いとかではない。当然だろう。
僕の問いに対してか、前後左右をキョロキョロと見ながら、慌て始めた。
「……君、まさか目的地無しに走ってないよな?」
男は項垂れた。
「マジか……引き返せないのか。……あ、でも警官に追われてるんだったな」
引き返してさっきの警察とドンパチするのは避けたい。
……思いつく一つだけの案に僕は顔をしかめながら、嫌々口を開いた。
「このままトンネルを抜けて、隣町に行こう」
まぁ別に使われてない訳では無いし、そこまで長いトンネルではない。
何も起こらないだろう。
「ッテテ……おい、アンタら!急に来て一体何なん……ん、おい、あそこに女がいるぞ、こっちに手を振ってる」
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