第2話 不審者と僕
ボフンと鈍い音が立つ。どうやら生きているようであった。
荷台になにやらフワフワのものを敷き詰めた大型トラックに感謝がとまらない。
突然、体のバランスが崩れた。隣に誰かが立っている。
あの不審者も僕と一緒に落ちたようだった。厳しい顔をしながら、よろよろと車両の前方、助手席側へ向かったかと思えば、腹這いになって車内を覗き込んだ。
「うわ!!」
太い成人男性の叫び声が聞こえる。それを気にする素振りも見せず、男はズルズルと車内に入っていった。
右往左往する車と聞こえ始めるクラクション。
振り落とされないように必死になってしがみつきながら、男の様子を伺う。
しばらくすると、車がまっすぐ走るようになった。どうなったのか気になり、先程の男と同様にそっと助手席から覗く。
男は何事もなかったかのように運転しており、助手席には頭を赤くした体格のいい成人男性がのびていた。
加えてなんと可哀想なことだろう、コーヒーが車内に散らばっており、至るところにシミができている。
あまりの惨劇に、自分が今走行中のトラックにしがみついているのを忘れかけているところ、ふと、妙な違和感を覚えた。
車の周りを見渡す。前後左右に一台ずつ、同じ車。
それ以外に、車が見当たらない。
嫌な予感がしたのであわてて車内に入った。
途端、助手席側―つまり僕の横にいた車の窓が開く。乗っていたのは先ほどの警察官だった。
先ほどの違和感は杞憂であったようだ。わが祖国の優秀な警察官に、僕は助けを求めた。
「ああ、ちょうどよかった。助けて……」
しかし彼は、あろうことか僕の言葉を遮った挙句、苛立ちを隠しもせず、僕にむかって右手を払った。
「おい、そこの少年、邪魔だぞ」
少年。
そのセリフを聞いた時、頭に血が登った。
「少年じゃない!僕は28歳だ!!!!」
僕の年齢も見抜けない愚かな日本の警察官に怒声を浴びせた直後、隣の不審者は思い切りアクセルを踏みつける。
「ちっ……!あの阿呆、もう一度警察学校からやり直せ!!僕はどう見たって大人だろ!」
僕は腕を組みながらバックミラーに映る車を睨めつけるが、開いた窓から勢いよく入り込む風で少し眼鏡がずれた。窓を閉め、静寂に包まれた車内。スッと、頭が冷える。
この状況、不味くないか?
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