第8話 不透明な青春

 午後一一時三〇分過ぎ。一限目の授業が終了したのか、高校生らは教室間を移動したり、トイレへ向かったりと、ドタバタと動き始めているのか、騒がしさが伝わってくる。その喧騒に巻き込まれながら、俺と藤乃は校舎の中央に設置された玄関へと歩んでいく。


 藤乃から宇多野に関する情報をもらい、今回の件を解決するための方針を固めてからの一時間半。俺は、上毛高等学校の教員の一人である芥川あくたがわ先生へと連絡を取った。彼女は、高校時代俺が所属していた文芸部の顧問であり、また入試の際にお世話になった人物だ。


 藤乃の作戦には、いくつかの弊害が存在する。そのうちの一つが校舎内での行動だ。宇多野へ接触を試みる上で、俺たちはそれなりにグレーな方法をとることになるだろう。既に卒業式を終えた人間が、再度高校の校舎へ侵入しようとしている。しかも、藤乃に至っては母校でもない高校へ侵入しようとしているのだから、ある程度は仕方がない。ただ、それでもできることがあるのであれば、ある程度合法と判断されるような理由を用意しておいて損はない。


 そこで、芥川先生というわけだ。上毛高等学校では、卒業生が再度学校を訪れる際は、あらかじめ連絡し、知り合いの先生から許可をもらわなければいけない。だから、芥川先生に会いに行くという名目を用意したのだ。


 連絡すると、忙しいながらも対応してもらうことに成功。三限の時間帯なら大丈夫ということで、俺たちは今、こうして玄関で靴から「来賓用」と書かれたスリッパに履き替え、待合室へと向かっているのだ。

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