第9話

09話


 「あらあらあら♪やっぱり迷い子さんでしたわ♪とても珍しいですわ♪」


 落ちている感覚が無くなった後、そっと目を開けたら真っ白な空間に俺は立っていた。


 そして今、俺の目の前には深い青色のドレスを着たゆるふわな雰囲気の美人さんがニコニコと微笑みながら、鈴が鳴るような声で意味不明なことを日本語で述べていた……。


 え?


 日本語が通じるの?


 「あの、えっと……すみません、ここはいったい……?」


 「少しお待ちになってくださいね♪」


 「え?あ、はい……」


 俺のことも俺の質問も無視している美人さんは、人差し指を唇に当てて可愛らしく『んー♪んー♪んー♪』と唸っている。


 この子、頭大丈夫なんかな……?


 というか、背は少し低いけど、見たことも無いほどの美人さんだ。


 大きくぱっちりとした二重の目。


 吸い込まれそうな青色の瞳。


 鼻筋も綺麗で、唇はぷるぷると美味しそう。


 透き通るほどの色白の肌に体は細すぎず太すぎず、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいる。


 そして何より美しいのが腰まで届く長い髪の毛。


 神々しくキラキラと光り輝き、淡い青色がとても綺麗だ。


 って、キラキラと髪の毛が光ってる?


 髪の毛って、光り輝くの?


 「んー♪んー♪んー♪あ♪発見しました♪」


 「え?何をですか?」


 「ごきげんよう♪そちらの子が迷い子として、こちらに来ております♪」


 え?何?


 俺のこと完全スルー?


 というか、独り言?


 電波?


 頭の中の誰かと喋ってる?


 怖っ!?


 何、この子……。


 「はい♪はい♪まぁ♪あらあらあら♪既に閉じてしまわれたのですか♪どうしましょう♪」


 美人さん、独り言か頭の中の誰かと喋ってるのか分からないけど、コロコロと表情を変えて見ていて飽きないな。


 表情が豊かと言うか……。


 「はい♪はい♪仕方がありませんわ♪はい♪はい♪迷い子さんはこちらで預かります♪いえいえ♪まぁ♪はい♪はい♪それでは一度♪はい♪こちらこそ♪…………迷い子さん♪お待たせ致しました♪」


 「…………」


 「迷い子さん♪迷い子さん♪」


 「あ、すみません。迷い子って、私のことですよね?」


 「ええ♪貴方は迷い子さんです♪」


 「あの迷い子って……あ、その前に自己紹介をしますね。私の名前は小林太郎と申します。貿易会社で働いております」


 「まぁ♪迷い子さんのお名前は小林様ですね♪私はユーグレナです♪この世界を司る女神、ユーグレナです♪」


 は?


 世界を司る女神?


 何か髪の毛がキラキラ光ってて神々しいなー、とは思ってたけど……。


 マジで女神?


 精神病棟にいる様な人じゃなく?


 そもそも超常現象でここに来たから……。


 女神の可能性が高い?


 あ、やべぇ。


 視姦っぽく顔と体をジロジロと見たりして、今まで不敬な態度を取ってた?


 あれ?


 神様なら心の中が読める?


 うわっ、やべぇ。


 神罰か天罰が下る?


 俺は瞬時に自分の今までの態度と不利を悟り、女神様に敬意を示すために片膝を床に跪け、頭を深く下げる。


 あれ?


 そもそもこれで女神様に敬意を示せてるのか?


 よく分からん。


 「まぁ♪まぁ♪小林様♪お顔を上げてお立ちになってくださいな♪」


 「は、はい……その、色々と失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした……」


 「大丈夫ですよ♪小林様も混乱されてるでしょうし、小林様の状況を説明しますね♪」


 「は、はい。是非、お願い致します」


 「小林様の世界を司る女神に伺った所、小林様はやはり次元穴に吸い込まれて、こちらの世界に辿り着いたようです♪」


 え?


 俺の世界にも女神がいたの?


 さっきの独り言は、ウチの女神と話してたの?


 それと次元穴?


 さっきの真っ暗闇のことか?


 というか……。


 「その、いくつか質問をしても宜しいでしょうか?」


 「ええ♪もちろんです♪何でも聞いてくださいな♪」


 「ありがとうございます。ユーグレナ様の世界と私がいた世界は別々の世界でしょうか?」


 「はい♪別々の世界です♪」


 「えっと、その……私がいた世界には宇宙と多数の惑星がありまして、私はその中の一つの惑星に住んでおりましたが、ユーグレナ様が司る世界にも宇宙と惑星がございますか?」


 「はい♪宇宙と惑星があり、小林様と同じ知性を持った生命体もおりますわ♪」

 

 「では、ユーグレナ様が司る世界のどこかの惑星から宇宙に出て、私が住んでいた宇宙の惑星に辿り着けることは可能でしょうか?」


 「小林様♪残念ながら辿り着くことは不可能です♪世界とは宇宙のことであり、別々の世界とは別々の宇宙ということです♪」


 「その……つまり宇宙は一つではなく沢山存在し、それぞれの宇宙を司る神や女神がおられると言うことでしょうか?」


 「ええ♪その通りです♪」


 「では、次元穴とは宇宙と宇宙を繋げる穴ということでしょうか?」


 「ええ♪その通りです♪」


 「では、その次元穴を再度通れば、私がいた宇宙に戻れるということでしょうか?」


 「小林様♪それは不可能です♪」


 え?何で?


 話の筋からして、次元穴を通って俺はここに来たんだよな?


 何で不可能なのよ……?


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