第6話

06話


 エアストリ○ムのベ○スキャンプ16Xを購入してから数ヶ月が経った。


 魔改造や諸々の手続きが全て終わって今日が納車日となり、既に牽引専門の業者に指示して駐車して貰う。


 アフリカ行きまで、あと4日だ。


 日本での引継業務は全て終わり、既に会社に行かなくても良い。


 アフリカ行きの準備に専念しろ、って感じだ。


 こんなにギリギリまで納車されなかったのは、ベ○スキャンプ16Xに幾つかの新機能を付け足したからだ。


 カスタムショップの職人たちと何度も熱く議論している内に、全員が悪ノリし過ぎてアレもコレもと色々付け足した。


 アレだ。前方にタイヤを付けて物置を作る設計思想が、カスタムショップの職人たちの魂に火を付けた。


 魔改造が始まって早々に、職人の誰かが気が付いた。


 『あれ?電力でパワーを補えるなら、さらにタイヤを付け足して重量気にせずにもっと前方までスペースが使えるんじゃね?』と。


 『いや、それならそもそもベ○スキャンプ16Xから物置を独立させ、切り離し可能なダブル連結にすれば良くね?』と。


 『切り離し可能なら高さ制限いらなくね?結局、窓からの景色を楽しみたいだけでしょ?物置を切り離したら景色見れるじゃん。ベ○スキャンプ16Xと高さ合わせようぜ』と。


 俺はカスタムショップの職人たちの熱い魂に胸を打たれ、全てにゴーサインを送った。


 元々のエアストリ○ムのベ○スキャンプ16Xの全長は約5メートル。


 アシスト機能+自走可能な物置と連結された全長は約14メートル。


 どっちが本体か分からねぇ。


 そしてこれだけの全長を見て、職人の誰かが気が付いた。


 『これだけ全長が長いのなら、最初から16フィートのベ○スキャンプ16Xじゃなくて、20フィート以上のエアストリ○ムを買った方が良くね?横幅も広いし』と。


 その言葉に誰もが凍り付いた。


 みな薄々とは気が付いてはいたよ。


 でもな、職人さんよ。


 それは言ってはイケないヤツだ。


 職人たちのこれまでの情熱が水の泡になるし、俺は一目惚れしたベ○スキャンプ16Xが良いんだ……。


 そして全長が長くなったことで別の問題が発生した。


 こんな長いの、日本の一般家庭のガレージじゃ絶対に入り切らない。


 もちろん14メートルものキャンピングトレーラーなんて俺の家のガレージでも入らない。


 だから3年前に旅先で事故で亡くなった父親と母親が趣味で作っていた隣の家庭菜園を利用した。


 既に雑草しか生えてないから、平らにし砕石を全体に撒いてから鉄板を何枚も置いて簡易の駐車場にした。


 土建屋の親方が言うには、こうすれば10トンダンプでも沈まないので大丈夫らしい。


 前世が家庭菜園の駐車場に置かれたベ○スキャンプ16Xをいつまでも眺めて愛でていたいが、時間も残り4日しかない。


 さっさとダンボールに入れた大量の荷物をベ○スキャンプ16Xと物置の中に積み込まなければならない。


 こんな大量の荷物、一人じゃ無理だから引越業者を呼んだよ。


 まずは、父親と母親の形見だ。


 アフリカに持って行くのも不安だが、10年間も無人の家に塩漬けにされるよりも俺の傍に置いている方が絶対に良いと、美咲先輩がプンスカ!プンスカ!と電話口で怒っていた。


 そう、俺は両親の形見を10年間も家の金庫の中に塩漬けにしようと思っていた。


 だけど俺以上に俺の両親が大好きだった美咲先輩が、塩漬けを許さなかった。


 俺の両親から物凄く可愛がられていた美咲先輩は、俺の両親こそが自分の本当の両親だと公言していて、塩漬けの話に結構本気で怒っていた。


 とりあえずは父親の形見から。


 父親の形見は通貨コレクションだ。


 新旧の円やドルやユーロ、さらにはウォンや人民元などなど、通貨をコレクションにして何が面白いのか全く分からなかったが、父親が一番大切にしていたから形見として扱っている。


 次に母親の形見。


 俺は美咲先輩のおかげで大資産を形成した後、5億円記載された俺名義の通帳を両親にそれぞれ渡した。


 計10億円、好きに使ってくれと。


 もちろん贈与税を回避する為に高額商品は俺の名義で買っている。


 この家もそうだ。


 あくまでも資産の所有者は俺だ。


 税務署が文句を言って来たら、その時に払えば良い。


 脱税じゃない、節税だ。


 そして母親に渡した美咲マネーで買ったのが、大小様々な宝石やアクセサリー類。


 キラキラと輝くティアラとかクラウンとかもある。


 こんなのいつ使うんだ?


 そして、それらが入っている宝石箱が32個。


 すごい数だ。


 どうも俺が父親に渡した美咲マネーは母親が取り上げた気がする。


 まぁ、これらを母親の形見として扱っているが、マイ・マザーよ。


 そもそも宝石やアクセサリーを付けるのが苦手だったじゃん?


 何で苦手な宝石やアクセサリーを集めてんの?


 意味不明過ぎるだろ……と生前にツッコんだら『ター君の将来の嫁に渡したい』『出来れば美咲ちゃんが良いなー』と、ドデカいカウンターが来た。


 それ以来、母親の趣味に口を出したことは無い。


 宝石やアクセサリー類を見ているだけでも楽しかったのだろう。


 たぶん母親の前世はキラキラした光り物を集めるカラスとかドラゴンとかだろ。

 

 次は俺の趣味類をベ○スキャンプ16Xと物置に積み込んで行く。


 高性能デジカメ、ノートパソコンにデスクトップに外付けハードディスク、A0用紙対応のプリンターにラミネーター、各種コピー用紙と写真用光沢紙やインクなどを積み込む。


 他にも趣味に関連する物をどんどん積み込む。


 電動アシスト機能付きのロードバイクとオフロードバイクは、魔改造された物置のサイドに固定設置。


 最初は上部に設置する予定だったが、高さ制限の変更と電動アシスト付き自転車を持ち上げるのが重くて大変という理由で、サイドに変更。


 お次は……まぁ、毎年恒例の美咲先輩から貰う誕生日&クリスマスプレゼント・シリーズだ。


 美咲先輩、付き合ってない時でも必ず誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントを律義に渡して来るんだよな。


 もちろん俺も毎年渡すけど。


 しかも俺の誕生日やクリスマスのプレゼントなのに、美咲先輩の趣味が入るガラス製品ばっかり。


 美咲先輩、ガラス細工が好きなんだよな。


 ガラス細工だから実用性があるのか無いのか良く分からない物を渡して来る。


 最近だとガラスペンとインク各種。


 何か書くならそこらのボールペンで良くね?とか思ってしまうが、まぁ、結局は鑑賞用だよね。


 あとは俺の衣食住と仕事関係と各種燃料を積み込めば、とりあえずは俺の手荷物関係は終了。


 最初に考えていた以上に物置が大きくなったから、今年美咲先輩と買った何処ぞの王族が使うんや?って感じの高級ソファーと高級テーブルと高級サイドテーブル10点セットも持って行ける。


 それと王族スタイルの高級ドレッサーと高級ベッドと高級シャンデリアも持っていく。


 アンティーク好きの美咲先輩なら喜ぶだろ……。


 ついでに無駄にアンティーク調の薪ストーブも。


 あとペルシャ絨毯大小2枚。


 ペルシャ絨毯が家具の中で一番高い。


 王族スタイル一式を買って直ぐに美咲先輩はアフリカ行きを決めたし、俺の趣味じゃないから全然使ってないけど。


 ベ○スキャンプ16Xに連結した物置には既にドラム式洗濯機が魔改造で取り付けされている。もちろん日差しが入らない様に設計されている。


 これで水と電力さえあれば洗濯と乾燥が出来るが、ディーゼル式発電機とガソリン式発電機があろうと、場所はアフリカだ。


 軽油もガソリンも手に入らない可能性もあるし、念の為にネットで手動ドラム式洗濯機を購入。洋服3,4枚ぐらいなら洗える。


 ドラム式洗濯機まで付けたなら、やはりアレが欲しい。職人たちも直ぐに気が付いた。


 そう、日本民族の魂である風呂だ。


 ベ○スキャンプ16Xはトイレとシャワーが一体である。


 日本人としてこれは許せない。


 その気持ちは分かる。


 分かるんだが、物置に風呂のスペースを作るのは非常に難しく厳しい。


 何より風呂の湿気が怖い。


 俺と職人たちの風呂を巡っての大激論が始まった。


 最終的に折り畳み式巨大バスタブを露天風呂代わりにし、スノコとカーテン式パーティションをいくつか用いて野外に風呂のスペースを作ることに決定。


 お湯とシャワーはベ○スキャンプ16Xから利用。


 そして体を洗う場所をシャワー室から露天風呂へと変更すれば、トイレとシャワーを機能的には分離できている。


 職人たちも気が付いた。


 ならばトイレ室も魔改造だ。


 日本人ならトイレ室のクオリティーが気になるからね。


 ということで、職人たちの情熱によりトイレ室も最新設備に変更。


 さて、残りの荷物というかこっからが本番なんだが、美咲先輩が俺に頼んだ荷物類。


 衣類や化粧品など女性関係はもちろんのこと、食料品や飲料水、バーベキュー用品に高級備長炭。


 そして国産タバコと酒類。


 美咲先輩、タバコ吸うし俺より酒好きだからな。


 そして意味不明なヌイグルミ各種。


 つぶらな瞳でこっちを見るな。


 そんなこんなで、全ての荷物を積み終えた。


 お世話になった米山部長や同僚たちにご挨拶、そのお返しにアフリカ行き送迎会などのイベントをこなし、父親と母親が安らかに眠っている場所に訪れ、墓参りした。


 そんなこんなで、アフリカ行きまであと1日。

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